「萌え本」の多様化・国際化の歴史
アクセス元を見ていたら、中国の比特客栈的文艺复兴(「ビット旅館のルネサンス」、以下BitInn)というブログからのアクセスがあった。見に行ったら、萌え本についての考察「「萌え本」(萌化教科書)についての略説」があり、その中でハルヒが春日。『涼宮春日的憂鬱』と台北萌え本事情[絵文録ことのは]2006/12/21にリンクされていた。
非常に興味深い考察だったので、この記事を訳して掲載してみたいと思う。
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(旧: )
以下、画像はそのまま使用していないので、原文を参照のこと。また、リンクや商品紹介などアレンジしている。ただし、原文の文章はいじっていない。内容についてはすべて原著者の見解であり、訳者の見解は交えていない。
■「萌え本」(萌化教科書)についての略説:「詳しいがわかりやすい」ガイドブックから、隔靴掻痒のコレクション物件まで
「萌え本」:英語では直訳してMoe Book、中国語では意訳して「萌化教科書」あるいは「萌之補導書」などという一群の書籍がある。ここ数年、日本書店やネット通販で売れているだけではなく、着実に海外市場にじわじわと進出している。「萌え本」の始祖である『萌える法律読本』シリーズの出版社は今のように繁盛することを予見していただろうか?
著者の調べによれば、中国語方面では、台湾の銘顕文化が各種萌え系書籍を中国化する代理店となっている。大陸もまた少数の「山寨(※コピー品)」団体の地下活動がある(萌え本にはまだ手を出していないようにも思える)――誰の目にも明白だが、もし日本の特産である「萌え本」が入ってこなくても、我々中国の出版社は表紙や裏表紙にアニメ・マンガの登場人物を貼り付けていたことだろう。あの「涼宮哈爾浜」のときのように。(※涼宮ハルビンについては、北京オリンピックのパンフ表紙に「涼宮ハルヒ」似のキャラ :にゅーあきばどっとこむ、北京五輪パンフのハルヒ似キャラに「涼宮ハルビン」と命名 :にゅーあきばどっとこむを参照)
話を戻すと、「萌え本」の販売ルートもアジア地域内のヲタ趣味と同様に理解することができる。ただし、2008年末、「萌え本」はもう一歩進んで、欧米市場のコミック王国に付随するものとなっている。出版社はここから血眼でロングテールを引っ張り出そうとしており、それはわたしの予想を超えるものであった。
10月9日にManga guide to databases - Boing Boingで『マンガでわかるデータベース』英語版を出版準備しているというニュースを読んでから、このことについてちょっと書いてみたいと思っていたが、仕事が忙しくてまだ実現できていなかった。今、/.では古いことをまた蒸し返して、同じシリーズの別のガイドブック The Manga Guide to Statistics(『マンガでわかる統計学』)が論評されている。そこで、誰にも顧みられない(=冷宮的)この話題を引っ張り、萌え本の多様化と国際化について述べてみたい。
■I.「萌え本」の歴史講義
対象年齢は結構、高い
萌えながら著作権法が学べる
最高!!萌え^-^
日本のウィキペディアのユーザーの調査によれば、「萌え本」の原型となったガイドブックは、2002年に出版された『コンピュータユーザのための著作権&法律ガイド』であり、これは萌える法律読本シリーズの第一冊でもあった(萌える法律読本 - Wikipedia)。
この本のAmazon紹介ページを見ればだれでも容易にわかるだろうが、この本がもし、明らかに主題としている著作権法を前面に押し出して宣伝し、萌え人物でコンピューターユーザーを引きつけていなかったならば、普通のユーザーが法律ガイドというような何の縁もゆかりもない本を購読しようとしただろうか? 実際には、本を購入したユーザーの評価としては「内容が充実している」「かなり詳しく解説してある」「有益な一冊」といったまともなコンピューターユーザーの評価を得ている。簡単に言えば、2002年の萌え本は軟らかいものではなく、二次元人物を挿絵と扉に貼り付けて対話形式でQ&Aコーナーを展開しただけのことである――これはちょうど中国国内のコンピューター本そっくりではないか?
日本のコンピューターユーザーはどのようにこれらの本を評価しているだろうか? 日本語slashdotではこのシリーズについて何度も討論している(スラッシュドット・ジャパン | キャラクターがメインコンセプトの実用書『萌える法律読本』、スラッシュドット・ジャパン | 萌えるシリーズ第二弾は「萌え萌えうにっくす!」)。わたしが笑ったのはこの一文だった。「O'Reillyを読んでいると動物研究家に勘違いされ、この本を読んでいると、アニヲタに勘違いされる」。いずれにしても、萌え本という新大陸が水面上に浮上してから、ごく短い期間のうちに、コロンブスの卵のように一般的なプロモーション方法となったのである。
■II.「萌え本」の分水嶺
タイムリーかつ詳細
最近の音楽関連の著作権問題を法律的視点からしっかり、解説。インデックス、注釈もしっか
著作権の意義とは何なのか?示唆に富む一冊
法令順守で正しく萌えよ
暮らしの法律本としては出色の出来ばえ
とにかくためになりました
法で萌える日々を護れ
『法律ガイド』の売れ行きがよかったため、出版社は正式に「萌える法律読本」をシリーズタイトルとし、2004年には旧著の改訂版の『ディジタル時代の法律篇』と『日々の生活篇』を発行した(内容自体は旧態どおりである。オフィシャルの内容紹介PDF参照)。しかし、その風に乗って、2003年『萌える英単語』(もえたん)が登場した。これはさらに売れ行きを伸ばし、汎用性を広めていった。
これは歴史的なポイントであった。というのも、「萌え本」は「詳しいがわかりやすい」型小冊子の範疇を飛び出し、人畜無害な単語本を装いながら、魔法の棒を振って20万部以上もの売り上げを果たしたのである。出版社は大いに儲けただけではなく、「萌え本」(萌化教科書)の概念も周辺に溶け込んでいき、贅沢品となっていった。「例文を捏造して間違いが百出しているため、受験参考書としてはふさわしくない」と、喜んでだまされた読者は自嘲している。
『もえたん』本編の品質問題は多くの人が知るとおりである。日本語の誤字といった小さなものは笑い飛ばせるものであり、暖かく見守ることもできるが、問題はストーリー以外に内容の筋道がまったく通っていないことで、著者はどうやって大学講師になれたのかと疑ってしまう。単語の順序はばらばらで、前後には関係がない。完全に何の構造もない。たとえ外来語をそのまま取り入れる国だといっても、ひらがなを通して発音を学習するのは悪習である。動詞は自動詞・他動詞の区別がなく、形容詞は比較級・最高級を挙げていない。一番まずいのは例文であって、日常めったに見ることがないようなセンテンスを造り出し、その結果翻訳もめちゃくちゃとなり、語法から語感に到るまで正確さを失っている。そのため、同人作品が使っているひどい英文センテンスのようなものに成り下がっている。
このような多くの欠点があるけれども、『もえたん』本編は人気を呼び、『もえたん』制作者はこの金のなる木を見逃すことはなかった。第2作は巻末索引を備えており、学習(常用例文)と読解練習(英文ストーリー)について大きな進歩を遂げた。このため、宣伝によれば3冊のもえたんシリーズのなかで一番難度が高い一冊とされている。例文は偏りすぎ、物語も簡単すぎるという問題があるため、大学入試のための復習に使うにはまったく適さないが、この時代において、英文ライトノベルつきの辞書などどこで手に入るだろうか? 明らかな間違いなどだれも意に介さないだろうというのは、想定内だった。
参考書として使っちゃ駄目だ
自分は好きですね
英語のストーリーが・・・・
moetan(上)
中編小説が完結、ラストに感動。
やっぱりいいです!
詳しい感想は他の方で
moetan 2 (下)
これは、もちろん『もえたん』愛好者をおとしめるつもりで言っているのではない。わたしは単にすでに白日のもとにさらされた『もえたん』の弱点を挙げているだけである。『もえたん』の収集価値は完全にその挿絵、ストーリーと新鮮さにあるのであって、決して教育的意義という点で世間を欺いていたわけではない。
『もえたん』の成功によって、多くの出版社がガイドブックや百科を制作するのに画集という宣伝文句を使うようになった。このいくつかの書籍は、マクドナルドとケンタッキーの健康セットに似ていて、画集を買う(ファストフードを食べる)という満足感を与えていながら、無駄なものにお金をつぎ込む(ゴミ食品を摂取する)というやましさにも満たされてしまうのだった。萌え化モデル(萌化日本世相圖鑑 - 知日部屋 - 哈日反日不如知日)に誰が本当に目の色を変えたのだろうか? 銘顕文化でさえもなかなか脚を踏み入れなかったが、初の台湾オリジナル萌え本『最萌的~中華大仙寶典』など話題にもならなかったではないか? この本はわたしは買っていないが、日本のとあるシリーズに似せた羊頭狗肉ではないかと思う。
■III.「萌え本」の国際化
「萌え本」の周辺では、多くの小出版社の笑いが止まらなくなった。しかし、作者と読者はさらに古い伝統を求め、最初の純朴さに帰りたいと考えていた。こういった人たちはどうすべきであろうか?
幸いにも、教育性と実用性を兼ね備えた萌え本を発行しようとする出版社もあった。日本語版Wikipediaではオーム社の「マンガでわかる」シリーズを漏らしている。これはまさにアメリカの出版社No Starchが採用するに到った(PDF詳細)。ここでわたしたちは最初の問題に戻る。実用性の強い作品が、欧米の出版社の気に入るのだろうか?
最初に排除されるのは辞典である。『もえたん』について、西洋の読者は『和英萌典』のようなものを予約するのではなく、欲しければ日本語原版を買って収集するだろう。それから、各種の百科やガイドブックものは、日本式絵本の英訳会社が近づくことはない。メインストリームはニッチな商品を売ることをよしとせず、現地の人の制作した優秀なガイドブックと競争しようとも思わない。ふるい分けの後、日本式マンガの雰囲気のある入門副教材だけが生き残る余地があった。高校生レベルの読者のコミック型作品に近かったからである。No Starch Pressは、the finest in geek entertainment(ヲタ娯楽の最高峰)を標榜する。これは、ヲタクに文化の意味がある、といった意味だ。
そこで、極東地区へ南征した萌え本(ハルヒが春日。『涼宮春日的憂鬱』と台北萌え本事情[絵文録ことのは]2006/12/21)とは別の作品が欧米世界へ西征していった。飽和した日本市場から遠く離れて、AmazonやO'Reillyの本棚に場所を求めたのである。
The Manga Guide to Statisticsの内容については、各層の読者の評価はかなり悪くない(The Manga Guide to Statistics -- Reviews)。しかし、本を購入する者は、ある程度の高校レベルの代数の基礎がなければ、本書の中の知識を理解することができない。
本サイト店長によれば、本から学ぶことはこのような萌え本を収集するだけにとどまるよりもさらに深い意味がある。長期的視野に立てば、萌え本が推進する学習方式の交流会を行なえば、読者には利益がある。しかし、現在は単に出版会社の利益の手段でしかないように思われる。もしかしたら、いつか中国国内の書店の棚にも、「山寨(コピー)」ではなく、コレクション用でもなく、ネットワーク小説でもないマンガ式ガイドブックが並び、「萌え本」独特の学習価値が生まれるかもしれない。
面白い仕立て
いろいろ載ってます
これなら積読だけでなくて、中を見る回数も増えるよね?
誰も書かないウリ
これをさっさとコレクションに加えろと言うのは誰だ!
本文終わり。
- 附注01:もともとあまり意気込んでこれを書こうと思ったわけではない。The Manga Guide to Statisticsの作者がShin Takahashiだというのを見て動いただけだ――漫画家・高橋しんといってわからなくても、『最終兵器彼女』を聞いたことはあるだろう。最初は高橋しんがどこで『最終統計彼女』を描けるほどの統計学を学んだのだろうと思っていたのだが、実は別人で、日本の統計学教授「高橋信」さんだった。
- 附注02:『もえたん』第一編については、わたしは実は2005年の改訂版にもとづいて述べている。だから、出版社は未完成だったといういいわけはできない。彼らは最も基本的な辞書作りをするのがおっくうであっただけだ。こんな単語本にだれもそんな厳密性を求めたりはしなかったのだ。
- 附注03:『もえたん』の愛好者をおとしめることなどできない。わたしのコレクターとしての立場はどうなる?
- 附注04:分類についていえば、わたしは『萌えて覚える化学の基本』は悪くない化学趣味入門に数えていいだろう。単なるお飾りにすぎないかどうかは、自分でPDFを見て判断してほしい。
- 附注05:学習交流といっても、ヲタクの脳膜炎を患ったわけではない。実際、わたしは英国の大学入試の時に日本の微積分教材を使った。わたしのある先生が日本に留学した博士だったからである。
- 附注06:わたしの知っている「萌え本」情報はこの程度なので、視野の広いゲストさんはたくさん資料を教えてほしい~。
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