百戦奇略

提供: 閾ペディアことのは
2009年9月24日 (木) 10:28時点における松永英明 (トーク | 投稿記録)による版
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
ナビゲーションに移動検索に移動

百戦奇略(ひゃくせんきりゃく)は、中国の兵法書である。北宋末の作者不明『百戦奇法』を、清代の人が題名を変え、明代の劉基の著として出版したものともいわれる。

劉基、字は伯温。1311~75(至大4~洪武8)。中国、元末・明初の文学者、政治家。青田(浙江)の人。至順4(1333)年に進士に及第、はじめ元に仕えたが、のち朱元璋のもとに投じ、明の建国に大きな功績を挙げた。朱元璋は劉基を尊重し、「わが子房(=漢の劉邦の名参謀長良)なり」と言った。当時、諸葛孔明の再来ともいわれたほどである。明初、多くの粛正が行なわれた中で、一貫して太祖朱元璋の厚い信任を受けたが、丞相の李善長、胡惟庸らと合わず、洪武4(71)年辞職して故郷に帰り、そこで没した。胡惟庸に毒殺されたともいう。博学で天文・数学などにも詳しく、詩文にすぐれ、文は宋濂に次ぎ、詩は高啓に次ぐといわれた。著書『郁離子』『春秋明経』など、詩文とともに『誠意伯劉文成公文集』に収められている。

百戦奇略は、全部で100項目。2項目ずつ対になっている。各項目は、1:理論、2:兵法書引用、3:実例、となっているが、ここでは実例部分を省略した。なお、以下の記載で、兵法書出典の[ ]は原文どおり、( )は要約引用されているものを示す。

本文

1 計戦
 用兵の道というものは、計を主とする。まだ戦わないときに、まず将の賢愚、敵の強弱、兵の衆7寡、地の険易、糧の虚実をはかる。計料が明らかになってから兵を出せば、勝たないわけがない。
 兵法にいう、「敵をはかって勝ちを制し、土地が険しいか平らか、遠いか近いかを計るのは上将の道である」[孫子・地形編]
2 謀戦
 敵がはじめに謀略を行なっていたら、自軍はそれに乗じて攻め、彼の計を衰えさせ、屈服させる。
 兵法にいう、「上兵は謀を伐つ」[孫子・謀攻編]
3 間戦
 征伐するなら、まず間諜を用い、敵の衆寡・虚実・動静をうかがい、それから戦いを起こせば、大功が立たないわけがなく、戦って勝てないわけがない。
 兵書にいう、「間を用いないところはない」[孫子・用間編]
4 選戦
 敵と戦うには、勇将・鋭卒を選抜して先鋒にする必要がある。一つにはその士気を高め、一つには敵の威力をくじくことができる。
 兵書に言う、「兵に先鋒がないと敗北する」[孫子・地形編]
5 歩戦
 歩兵が戦車・騎兵と戦うときは、必ず丘陵・険阻な場所・林を選んで戦えば勝つ。もし平坦な道で遭遇したなら、拒馬槍(槍による馬止め柵)を使って方陣を作り、歩兵はその中にいなければならない。馬軍・歩兵は分割して駐隊と戦隊とする。駐隊は陣を守り、戦隊は出て戦う。戦隊が陣を守るときには、駐隊が出て戦う。敵が一方を攻めてくれば、自軍の哨戒兵を出し、側面から不意打ちする。敵が両面から攻めてくれば、自軍は兵を分けて後方から叩く。敵が四方から攻めてくれば、自軍は円陣とし、兵を四方に分けて出して、備え撃つ。敵がもし敗走したら騎兵で追い、歩兵がその後から攻めれば、必勝する。
 兵法にいう、「歩兵が戦車・騎兵と戦うときは、必ず丘陵・険阻な場所を選び、もし険阻な場所がなければ、自軍の士卒に防御柵を設置させる」(六韜・戦歩)
6 騎戦
 騎兵が歩兵と戦うときには、もし山林・険阻な場所・傾斜地や沢の地形で遭遇したなら、素早く行軍して急いで去る。これらは必敗の地形だから、戦ってはならない。戦いたい者は、平易な地を得るならば、進退に妨げがなく、戦えば必ず勝つ。
 兵法にいう、「平坦な地なら騎兵を使う」(六韜・戦騎)
7 舟戦
 敵と江湖の間で戦うときには、必ず所有する船舶を風上・上流に配置すべきである。風上ならば、風にまかせて火を用いて焼く。上流ならば、水の勢いにまかせて戦艦で突入させれば、戦って勝たないはずがない。
 兵法にいう、「戦おうとする者は、水流を迎えてはならない」(孫子・行軍)
8 車戦
 歩兵が騎兵と平原・広野で戦うときは、必ず偏箱車(木の屋根のある兵車)・鹿角車(前面に矛をつけた兵車)を用いて方陣を作って戦えば勝つ。一つには兵力を節減でき、二つには前面で阻止し、三つには自軍の体形を整えることができるからだ。
 兵法にいう、「広いところでは軍車を用いる」(李衛公問対・上)
9 信戦
 敵と戦い、士卒が万死一生の地を踏んでも後悔の心がないようにするのは、信頼と命令である。上官が信義を好み、誠実であるならば、部下は情に感じて疑うことがないから、戦って勝たないはずがない。
 兵法にいう、「信義があれば、部下を欺くことがない」[六韜・論将]
10 教戦
 戦いを準備するなら、必ずまず戦いを教える。三軍の兵士がつねに離合集散(散開・集中・密集・分散)の方法を習い、座作進退(停止・開始・前進・後退)の命令を暗唱していれば、敵に遭遇して、指揮官の旗印を見て変化に応じ、鉦や太鼓の音を聞いて進退する。このようであれば、戦って勝たないはずがない。
 兵法にいう、「訓練されていない人々で戦うのは放棄という」[論語・子路]
11 衆戦
 戦いで、もし自軍が多く敵が少ないなら、険阻なところで戦ってはならない。平坦で広い場所が必要である。太鼓を聞けば進み、鉦を聞けば止まるのであれば、勝たないはずがない。
 兵法にいう、「大軍を用いるときは、進軍・停止をはっきりさせる」[司馬法・用衆]
12 寡戦
 戦いで、もし多い敵に少ない兵で当たるなら、必ず日暮れにしたり、深草に潜んだり、隘路で迎撃すれば、戦って必ず勝つ。
 兵法にいう、「少ない兵を用いるときは隘路で戦う」[呉子・応変]
13 愛戦
 敵と戦うときに、士卒が退却して生きるよりも進んで死のうとするならば、それは将の恩恵によるものである。三軍の上にいる人が自分をわが子のように愛してくれることを知れば、自らも指揮官を父のように愛するようになる。こうなれば、危急存亡の地に陥ったときには、死んで指揮官の徳に報いることを願わないはずがないのだ。
 兵法にいう、「兵を見るのが愛子のようであれば、生死をともにすることができる」(孫子・地形編)
14 威戦
 敵と戦うときに、士卒が前進しても退却しないとすれば、自軍指揮官を恐れて敵を恐れないからである。もし退却しようとするが進もうとしないなら、これは敵を恐れて自軍を恐れていないからだ。士卒が熱湯の中に飛び込み、火を踏んでも命令を遂行しようとするのは、まさに威厳によるものである。
 兵法にいう、「威厳がその愛に勝てば、戦いは成功する」
15 賞戦
 高い城や深い池、矢や石が降り注ぐ中であっても士卒が先を争って上り、白兵戦になっても士卒が先を争って赴くようにするには、必ず重賞で誘うことだ。こうすれば敵に勝たないはずがない。
 兵法にいう、「重賞のもとにはかならず勇士がいる」[三略・上略]
16 罰戦
 戦いで、士卒が敵に遭ってもあえて進み、退却しないようにするには、一寸でも退却する者を重刑で懲罰することである。こうすれば勝利を得ることができる。
 兵法にいう、「罰は直ちに行なう」[司馬法・天子之義]
17 主戦
 戦いは、もし敵が攻めてくる客軍で自軍が自国領で迎え撃つ主軍ならば、軽々しく戦ってはならない。自軍の兵を保全し、士卒は家を守らせ、人々を集めて食料を集め、城を保って要害を防衛し、敵の糧道を絶つべきだ。敵は戦いを挑んでも得ることがなく、補給が途絶える。その困窮をうかがって撃てば、必ず勝つ。
 兵法にいう、「自国領で戦うのを散地(兵が逃げる土地)という」[孫子・九地編]
18 客戦
 戦いにおいて、もし敵が迎え撃つ主軍となり、自軍が攻撃側の客軍であれば、ただ深く侵入するように努める。深く入れば、主軍は勝つことができなくなる。客軍が重地(重要拠点)を攻め、主軍が散地にあるからだ。
 兵法にいう、「敵地に深く入れば、兵はまとまる」[孫子・九地編]
19 強戦
 敵と戦うのに、もし自軍が多くて強いならば、臆病だと偽り示して敵を誘うといい。敵は必ず軽々しく来て、自軍と戦いを挑むだろう。自軍の精鋭でこれを迎撃すれば、その軍は必ず敗れる。
 兵法にいう、「強くても強くないように見せかける」[孫子・始計編]
20 弱戦
 戦いで、もし敵が多くて自軍が少なく、敵が強くて自軍が弱ければ、旗印を多くし、かまどを倍増させ、敵に強いと見せかけ、敵軍が自軍の数・強弱の勢いをはかれないようにすれば、敵は軽々しく自軍と戦おうとしない。自軍が速やかに退却すれば、全軍が被害から逃れることができる。
 兵法にいう、「強弱は形による」[孫子・兵勢編]
21 驕戦
 敵が強大で勝つことができないときは、言葉でへりくだり、礼を尽くして、敵の心を傲慢にさせ、その心の隙に乗ずることができる状況をうかがい、一気に破るとよい。
 兵法にいう、「へりくだって敵を驕らせる」[孫子・始計編]
22 交戦
 敵と戦うには、その隣国と友好にし、言葉でへりくだり、賄賂を尽くして、自国に結びつけ、援軍とすべきである。もし自軍が敵軍の正面を攻め、友好国がその背後を牽制すれば、敵は必ず敗れるであろう。
 兵法にいう、「衢地(各国が関係する地)では、交わりを合わせよ」[孫子・九地編]
23 形戦
 敵と戦うのに、もし敵が多いときには、見せかけを作って牽制し、敵の勢力を分断させれば、敵軍は兵を分けて備えなければならなくなる。敵の勢力が分かれてしまえば、その兵は少なくなる。自軍が集中すれば、その兵はもちろん多い。多い兵で少ない兵を撃てば、勝たないはずがない。
 兵法にいう、「敵には明らかな形を取らせ、自軍は形をわからなくさせる」[孫子・虚実編]
24 勢戦
 戦いにおいて、いわゆる勢いは、勢いに乗ずるということである。敵に破滅の勢いがあるときに乗じて迫れば、その軍は必ずつぶれるだろう。
 兵法にいう、「勢いによって破る」[三略・上略]
25 昼戦
 敵と白昼戦をするときには、多く旗印を作って偽の兵がいるように見せかけるべきだ。敵が自軍の兵数を測ることができなくすれば、勝つ。
 兵法にいう、「昼の戦いには旗印を多くする」[孫子・軍争編]
26 夜戦
 敵と夜戦をするときには、火や太鼓を多く用いる。敵の耳や目を攪乱し、自軍の計画に備えるにもわからなくすれば、勝つ。
 兵法にいう、「夜の戦いには火や太鼓を多くする」[孫子・軍争編]
27 備戦
 出兵して征討するとき、行軍のときには敵の襲撃に備え、停止するときには敵の突撃を防ぎ、宿営するときには偸盗を防ぎ、風が吹いたときには火攻めを恐れる。このように備えを設けていれば、勝ちがあっても負けはない。
 兵法にいう、「備えあれば敗れず」[春秋左氏伝・宣公十二年]
28 糧戦
 敵と陣を構えて相対峙し、両軍とも勝負をまだ決していない場合、食糧のあるほうが勝つ。自軍の糧道などは必ず厳しく守護するべきだ。おそらくは敵軍に狙われるところとなるだろう。敵の補給線などは、精鋭を分遣して絶つとよい。敵の糧食がなくなれば、その兵は必ず退却するから、これを撃てば勝つ。
 兵法にいう、「軍に糧食なければ亡ぶ](孫子・軍争編)
29 導戦
 敵と戦うときには、山川の険しさやなだらかさ、道路の曲がり具合は、必ず地元の人を用いて引導させ、その地の利を知れば、戦って勝つ。
 兵法にいう、「土地の導きを用いないなら、地の利は得ることができない」[孫子・九地編]
30 知戦
 兵を起こして敵を伐つときには、戦う土地をあらかじめ知っておくべきだ。軍が到着したときに、敵に好機だと思わせて来させて戦えば、勝つ。戦う地を知り、戦う日を知れば、備えることも万全、守ることも固い。
 兵法にいう、「戦の地を知り、戦の日を知れば、千里先でも会戦できる」[孫子・虚実編]
31 斥戦
 行軍の方法としては、斥候を先とする。平坦なら騎兵を用い、険阻ならば歩兵を用いる。五人ごとに小隊とし、各人が白旗を持ち、遠く離れているときには軍の前後左右にあり、接近したら偵察を続ける。賊兵を発見すれば次々に伝令し、主将にお告げして、多数の兵でこれに備えさせる。
 兵法にいう、「備えておいて、不備な敵を待てば勝つ」[孫子・謀攻編]
32 沢戦
 出軍・行軍するとき、沼沢地・水に弱い地に遭ったら、倍速で進んで早く通り過ぎ、とどまってはいけない。もしやむを得ずその地を出ることができず、道も遠く日が暮れて、軍をその中で宿営させるには、かならず地形が環亀(亀のように盛り上がった土地)に行き、すべて中央が高く四方が低い円形の宿営を作って、四方の敵に備える。一つには水害を防ぎ、一つには周囲からの奇襲に備えるためである。
 兵法にいう、「沢地・決壊しやすい地では、環亀を固めよ」(司馬法・用衆)
33 争戦
 敵と戦うとき、もし形勢便利なところがあったなら争って先にここを取ると、戦って勝つ。もし敵が先に至ったら、自軍は攻めてはならない。その変化があるのを待って撃てば勝利がある。
 兵法にいう、「争地は攻めてはならない」(孫子・九地編)
34 地戦
 敵と戦うとき、三軍が地の利を得ることができれば、少数の兵で大軍と戦い、弱兵で強兵に勝つことができる。敵を知れば撃つことができ、己を知れば撃つことができるが、地の利を知らなければ勝利は半分しか得られない。これは、敵を知り、己を知っていても、地の利の助けを得なければ完勝とはいえないということである。
 兵法にいう、「天の時も地の利には及ばない」[尉繚子・戦威]
35 山戦
 敵と戦うとき、山林でも平陸でも、高い丘にいて形勢を整えるべきだ。弓・槍に使いやすく、突撃にも便利で、戦えば勝てる。
 兵法にいう、「山上の戦いでは高いほうを見上げるようにしてはならない」(便宜十六策・治軍)
36 谷戦
 行軍して山地を超えて陣を張るときには、必ず谷にすべきだ。一つには水草が利用でき、一つには堅固なので、戦って勝てる。
 兵法にいう、「山をわたって、谷に宿営する」[孫子・行軍編]
37 攻戦
 戦いで、攻撃者は敵を知る者だ。敵に破ることのできる理由があることがわかれば、兵を出して攻め、勝たないわけがない。
 兵法にいう、「勝てるときは、攻める」[孫子・軍形編]
38 守戦
 戦いで、守備者は己を知る者だ。己にまだ勝つことができない理由があることがわかれば、自軍はしばらく固く守り、敵に勝てる理由が出てくるのを待って、それから兵を出して攻めれば、勝たないわけがない。
 兵法にいう、「勝てないことがわかれば、守る」(孫子・軍形編)
39 先戦
 敵と戦うとき、もし敵が初めて来て、陣形がまだ定まらず、隊形もまだ整っていなければ、先に兵で急襲すれば勝つ。
 兵法にいう、「人に先んずれば、人の心を奪うことがある」[春秋左氏伝・昭公二十一年]
40 後戦
 戦いで、もし敵の行軍・陣形が整っていて、しかも鋭い場合、まだ戦ってはならない。壁を堅くして待ち、その陣が久しくなって気力が衰えたときに起って撃てば、勝たないことはない。」
 兵法にいう、「敵に後れたなら、その衰えるのを待つ」(春秋左氏伝・昭公二十一年)
41 奇戦
 戦いで、奇襲とは、その備えのないところを攻め、不意に出るものである。交戦のとき、正面を驚かせておいて後方を襲い、東を衝いて西を撃ち、敵が備えられなくするといい。このようであれば勝つ。
 兵法にいう、「敵の弱点があれば、自軍は必ず奇襲する」(李衛公問対・中)
42 正戦
 敵と戦うのに、もし道路が通じず、補給は進めず、計略で誘うこともできず、利害を惑わすこともできなければ、正兵を用いるべきだ。正兵とは、士卒を選抜し、よい兵器を使い、賞罰をはっきりさせ、命令を信頼させるものであり、これで戦い、前進すれば勝つ。
 兵法にいう、「正兵でなければ、どうして遠くで戦えようか」(李衛公問対・上)
43 虚戦
 敵と戦うのに、もし自軍の勢いが弱ければ、強大な形を偽って示し、敵にその虚実を知らせないようにし、軽々しく自軍と戦わせないようにすれば、自軍を全うし、軍を保つことができる。
 兵法にいう、「敵があえて自軍と戦わないのは、その行くところをはぐらかすからだ」(孫子・虚実編)
44 実戦
 敵と戦うのに、敵の勢いが充実していれば、自軍は兵を厳戒にして備えれば、敵軍は軽々しく動かない。
 兵法にいう、「充実した敵には、備える」[孫子・始計編]
45 軽戦
 敵と戦うには、敵の詳細を調べてから兵を出すべきだ。もし計画なく進み、謀らずに戦えば、必ず敵に敗れることだろう。
 兵法にいう、「勇者は必ず軽々しく戦う。軽々しく戦って、勝利を知らない」[呉子・論将]
46 重戦
 敵と戦うのに、慎重にするようにし、有利さを見れば動き、有利でなければ止まり、慎んで軽挙してはならない。このようであれば、必ず死地には陥らない。
 兵法にいう、「動かざること山のごとし」[孫子・軍争編]
47 利戦
 敵と戦うのに、その将が愚かで応変ということを知らなければ、利益をちらつかせて誘うといい。敵が利を貪って害を知らないなら、伏兵を設けて撃つといい。その軍は敗れるだろう。
 兵法にいう、「利益によって誘う」[孫子・始計編]
48 害戦
 敵との国境を守るのに、もし敵がわが国境を侵犯して辺境の民を攻めたなら、要害の地に伏兵を置いたり、障害となる砦を築いて迎撃すべきである。敵は軽々しく来なくなるだろう。
 兵法にいう、「敵に来させないのは、妨害するからである」[孫子・虚実編]
49 安戦
 敵が遠くから来て士気が高いなら、速戦すると敵に利益がある。自軍は溝を深く、防塁を高くし、ひたすら守って応ずることがなく、敵の疲労を待つ。もし敵が挑発して戦おうとしても、動いてはならない。
 兵法にいう、「動かないなら平静であれ」[孫子・兵勢編]
50 危戦
 敵と戦うのに、もし危急存亡の状況に陥ったなら、将士を激励して死を決して戦い、生きることをおもわなければ、勝つ。
 兵法にいう、「兵士があまりに危険に陥れば、恐れなくなる」[孫子・九地編]
51 死戦
 敵が強勢で、自軍の士卒が疑い惑い、命令を受けることもしないならば、彼らを死地に置かねばならない。三軍に口で命令しても得るものはない。牛を殺し、車を焼き、戦士にごちそうをふるまい、糧食を焼き捨て、井戸・かまどをふさいで壊し、舟を燃やして釜を破り、背後を断って、生き残ろうという考えをなくさせれば、必ず勝つ。
 兵法にいう、「必死であれば生きる」[呉子・治兵]
52 生戦
 敵と戦うのに、もし地の利をすでに得、士卒はすでに陣をつくり、法令はすでに行なわれ、奇兵をすでに設けてあれば、まさに命を捨てて戦うことで勝つ。もし将が陣に臨んでおそれたりおびえたりして生を求めようとすれば、かえって殺されることになる。
 兵法にいう、「生を幸いとすれば死ぬ」[呉子・治兵]
53 飢戦
 兵をおこして征討し、深く敵地に入り、食料が欠乏すれば、必ず兵を分けて略奪に振り向け、敵の倉庫をねらい、その蓄積を奪い、軍の食糧を確保すれば勝つ。
 兵法にいう、「食糧を敵に頼る。こうすれば軍食は足りるだろう」[孫子・作戦編]
54 飽戦
 敵が遠くから来て糧食が続かず、敵が飢えて自軍は飽食していたら、壁を堅くして戦わず、持久戦にして相手を苦しめ、その糧道を断つとよい。敵が退却したら、ひそかに奇兵を送り、その帰路を遮り、兵を放って追撃すれば、破ることは確実である。
 兵法にいう、「補給充分で飢えを待つ」[孫子・軍争編]
55 労戦
 敵と戦うのに、もし便利な地に敵が先に陣をしいており、自軍が後れて戦いに向かったならば、自軍は疲労して敵が勝ってしまう。
 兵法にいう、「後れて戦地に到着し、戦いに赴く者は疲労する」[孫子・虚実編]
56 佚戦
 敵と戦うのに、自軍が勝ちをほこって気を抜いてはならない。まさにますます厳重な警戒を加えて敵を待ち、安佚であってもやはり気を配るべきである。
 兵法にいう、「備えあれば憂いなし」[春秋左氏伝・襄公十一年]
57 勝戦
 敵と戦うのに、もし自軍が勝って敵軍が敗れても、おごり高ぶってはならない。まさに日夜厳しく備えて待機すべきだ。そうであれば敵が来たとしても、備えがあれば害はない。
 兵法にいう、「すでに勝ってもそうでないときと同じようにする」(司馬法・厳位)
58 敗戦
 敵と戦って、もし敵が勝って自軍が負けたとしても、おそれおびえる必要はない。害のなかにも利益があることを思い、兵器を整備し、士卒を激揚し、敵が倦怠したのをうかがって撃てば、勝つ。
 兵法にいう、「害によって憂いを取り除くとよい」(孫子・九変編)
59 進戦
 敵と戦うのに、もし敵に勝つはずだという理由があることが詳しくわかったときには、すぐに速やかに兵を進めて突けば勝たないことがない。
 兵法にいう、「可を見たならば進む」(呉子・料敵)
60 退戦
 敵と戦うのに、敵が多くて自軍が少なく、地形が不利で、力で争うことができなければ、急いで退却して避け、軍を全うすべきだ。
 兵法にいう、「難を知って退く」[呉子・料敵]
61 挑戦
 敵と戦うのに、城塞を築いてお互い遠く、勢力がお互い等しいときは、軽騎兵で挑んで攻めるべきだ。伏兵を置いて待っていれば、その軍を破ることができる。もし敵がこの策謀を用いたならば、自軍は決して全力で迎撃してはならない。
 兵法にいう、「遠くから戦いを挑むのは、相手に進んでほしいからだ」(孫子・行軍編)
62 致戦
 敵を来させて戦わせることができれば、敵の勢いは常に虚となる。戦いに赴くことができなくなれば、自軍の勢力は常に実となる。手を尽くして敵が来るようにし、自軍の便利な地で待てば、勝たないはずがない。
 兵法にいう、「相手を思うままにし、相手の思うままにはならない」[孫子・虚実編]
63 遠戦
 敵と水を隔ててお互い防ぎあっているとき、自軍が遠い場所から渡ろうとするときには、船などを多く用意して、近くから渡るように見せかけるべきである。そうすれば敵は必ずや兵力を集めて応じてくるから、自軍はその隙に乗じて渡ってしまう。もし船がなければ、竹や木、蒲、芦、土瓶、瓶、槍の柄などを連ねて筏を作り、みな渡すことができる。
 兵法にいう、「遠くにあって近くに見せかける」[孫子・始計編]
64 近戦
 敵と水を挟んで布陣しているときに、自軍が近くを攻めようとするときには、かえって遠くからであるようにみせかける。擬兵を多く用意して、上流・下流の遠くで渡れば、敵は必ずや兵を分散して応戦してくるだろう。自軍は潜って近くから攻撃すれば、その軍を破ることができるだろう。
 兵法にいう、「近くにあって遠くに見せかける」(孫子・始計編)
65 水戦
 敵と戦うとき、岸辺に陣を置くのも、水上に船を泊めておくのも、みな水戦という。もし水に近く陣を置く者は、できるだけ水から離れるべきである。一つには敵を誘って渡らせるため、一つには敵に疑いを抱かせないためである。自軍が戦おうと思うときには、水に近いところで敵を迎撃してはならない。それなら渡ってこれなくなってしまう。自軍が戦いたくないのなら、水を防いで阻み、敵を渡らせないようにする。もし敵が兵を率いて渡ってきて戦うならば、水辺で、敵が半ば渡り終わったところを見計らって迎撃すれば、勝利できるだろう。

 兵法にいう、「水を渡って、半ば渡ったところを撃つべし」[呉子・料敵]

66 火戦
 戦うとき、もし敵が草むらの近くにおり、営舎が茅や竹でできており、馬草を積んで食糧を集め、天候が乾燥していたら、風に従って火を放って燃やし、精鋭を選んで攻撃すれば、その軍を破ることができる。
 兵法にいう、「火攻を行なうには、必ず理由がある」[孫子・火攻編]
67 緩戦
 城を攻める方法は、最も下策であり、やむをえずやるものである。三か月で道具を整備し、三か月で対抗する盛り土を作れば、六か月かかる。自軍のために攻撃を戒める者が、軽率に攻城具を持たずに士卒を張りつかせ、死傷者が多くなることをおそれるからである。もし敵の城が高く、堀が深く、人が多くて食糧が少なく、外に救援がないのであれば、包囲攻撃して陥落させても勝利が得られる。
 兵法にいう、「その徐(しず)かなること林のごとし」[孫子・軍争編]
68 速戦
 城を攻め、都市を包囲するとき、もし敵の食糧が多くて人が少なく、外に救援があるのであれば、速攻するといい。勝つ。
 兵法にいう、「兵は拙速を貴ぶ」(孫子・作戦編)
69 整戦
 敵と戦うとき、もし敵の行軍・布陣が整然としていて、士卒が落ち着いているなら、軽々しく戦ってはならない。その変化をうかがって撃てば、勝利がある。
 兵法にいう、「正正の旗を迎撃してはならない」[孫子・軍争編]
70 乱戦
 敵と戦うとき、もし敵の行軍・布陣が整わず、士卒が落ち着いていないなら、急いで兵を出して撃てば、勝利がある。
 兵法にいう、「乱して取る」[孫子・始計編]
71 分戦
 敵と戦うとき、もし自軍が多くて敵が少なければ、平坦で広い地を選んで勝つことができる。もし敵の五倍あれば、三を正面にし、二を奇襲とする。敵の三倍であれば、二を正面にし、一を奇襲とする。一方は正面に当て、一方はその背後を攻めるのである。
 兵法にいう、「分けようとして分けられないのを縻軍という」[李衛公問対・下]
72 合戦
 兵が散れば勢力は弱く、集まれば勢力が強いというのは、兵家の常識である。もし自軍が数カ所に分屯しているときに、敵がもし大軍で攻めてきたならば、軍を合わせて撃たねばならない。
 兵法にいう、「集めようとして集まらないのを孤旅という」[李衛公問対・下]
73 怒戦
 敵と戦うとき、士卒を激励し、憤怒させてから戦いに出るべきである。
 兵法にいう、「敵を殺すのは怒りである」[孫子・作戦編]
74 気戦
 将が戦えるのは、兵のためである。兵が戦えるのは、意気があるからである。意気が盛んになるのは、太鼓のためである。士卒の意気をおこさせるのは、あまりに頻繁であってはならない。あまり頻繁だと気も衰えやすい。あまりに敵から遠くてはいけない。あまり遠いと力も尽きやすい。敵が六、七十歩いないになったところを見計らって、太鼓を鳴らし、士卒を進めて戦わせるべきだ。敵は衰え、自軍が盛んならば、必ず破ることができる。
 兵法にいう、「気が充実すれば戦い、気が奪われれば退却する」[尉繚子・戦威]
75 逐戦
 奔走するのを追い、敗走するのを追撃するには、それが本当かどうかを明らかにしなければならない。もし旗がそろっていて太鼓も応じており、号令が一つにまとまって兵力が多いときには、退却といっても負けではない。必ず奇襲があるだろう。このことを考慮しなければならない。もし旗がバラバラでそろわず、太鼓が大小で呼応せず、命令は騒々しくてそろわないのは、本当の敗北による退却だ。全力で追撃すべきである。
 兵法にいう、「追撃は怠ってはならない。敵が敗走中にとどまったときには警戒せよ」(司馬法・用衆)
76 帰戦
 敵と攻め合っているとき、もし敵が理由なく退却するときには、必ずよく偵察しなければならない。力つきて食糧がつきているのなら、軽装備の精鋭を選んで追撃すべきである。もしこれが本国への撤退ならば、とどめてはならない。
 兵法にいう、「帰国する軍をとどめてはならない」[孫子・軍争編]
77 不戦
 戦いで、もし敵が多くて自軍が少なく、敵が強くて自軍が弱く、兵勢は不利であったり、敵が遠くから来ていても糧道が絶えないなら、これと戦ってはならない。壁を堅くして持久戦に入り、疲労させれば敵を破ることができる。
 兵法にいう、「戦わないことは自軍が決める」[李衛公問対・下]
78 必戦
 出兵して深く敵の領土に入ったが、敵が壁を堅くして自軍と戦わないなら、こちらの軍を疲れさせようとしているのである。そこで敵の君主を攻め、根拠地を突き、帰路を断ち、糧道を断てば、敵もやむを得ず戦おうとするだろう。自軍が精鋭の将官で撃てば、敵は敗れる。
 兵法にいう、「自軍が戦いたいときには、敵が溝を深くし、城壁を高くしていても、自分と戦わざるをえないようにさせるために、敵が必ず救おうとするところを攻める」(孫子・虚実編)
79 避戦
 戦いで、もし敵が強くて自軍が弱く、敵が初めて来て気力も鋭いなら、避けて、敵の疲弊を狙って攻撃すれば、勝つ。
 兵法にいう、「敵の鋭気を避け、衰えているところを攻撃する」[孫子・軍争編]
80 囲戦
 包囲戦の方法は、その四方を囲むときには必ず一角を開けて、逃げ道を示しておく。敵の戦いが堅くならないから、城を落とすことができ、軍を破ることができる。
 兵法にいう、「囲む軍は必ず欠けさせる」(孫子・軍争編)
81 声戦
 戦いで、声というのは虚声を上げることだ。東といって西を撃ち、あちらといってこちらを撃ち、敵がどこを備えていいかわからなくさせれば、自軍が攻める場所は敵が守らない場所ということになる。
 兵法にいう、「攻撃の優れた者は、敵がどこを守っていいかわからない」[孫子・虚実編]
82 和戦
 敵と戦うとき、必ずまず使者を派遣して和平を交渉させるべきだ。敵は許諾したといっても、言葉が矛盾していれば、その油断を見計らって、精鋭を選んで攻撃すれば、敵軍は敗れるだろう。
 兵法にいう、「約束もないのに和平を請うというのは謀略だ」[孫子・行軍編]
83 受戦
 戦いでは、もし敵が多くて自軍が少なく、急に来て自軍を包囲したとしても、兵力の大小・虚実の状況を観察して、軽率に逃げてはならない。追尾されるだけである。円陣して外に向かい、敵の包囲を受けるべきだ。逃げ道があっても、それを自ら防いで、士卒の心を固め、四方に向けて奮戦すれば、勝利を得ることができる。
 兵法にいう、「もし敵が多ければ、敵を観察して敵を受ける」(司馬法・用衆)
84 降戦
 戦うとき、もし敵が投降してきても、必ずその真偽を調べなければならない。夜明けには遠くまで斥候し、日夜備えを行ない、油断をしてはならない。厳しく細々と命令して兵を整えて待てば、勝つ。そうでなければ、敗れる。
 兵法にいう、「降伏を受けるときには、敵を受けるようにする」[旧唐書・裴行倹伝]
85 天戦
 出兵し、民衆を動かし、罪を伐ち、人民を弔おうとするときには、天の時に従うべきで、迷信の類や成り行きであってはならない。すなわち君主が暗愚で政治が乱れ、兵は驕って民は苦しみ、賢人を放逐し、無辜の民を誅殺し、干ばつ・イナゴ・氷・雹に襲われている状況に敵国があれば、兵を挙げて攻撃して勝てないわけがない。
 兵法にいう、「天の時にしたがって征討を制する」(司馬法・定爵)
86 人戦
 戦いで、人というのは、人士を推して凶兆を打破するものである。行軍の際、みみずくが旗に集まったり、杯の酒が地に代わったり、司令官の旗竿が折れたりしても、主将のみが決断できる。もし順によって逆を討ち、直によって曲を伐ち、賢によって愚を撃てば、みな疑念がなくなる。
 兵法にいう、「邪を禁じ、疑いを去れば、死に至るまで心移りがない」(孫子・九地編)
87 難戦
 将たる道は、艱難辛苦を兵たちと共有するところにある。もし危険な状況に遭っても、兵を捨てて自分だけ生き延びようとしてはならない。難局にあたって逃れることができなければ、護衛をまわして、生死をともにするのである。このようであれば、三軍の士が自分を忘れるようなことがあろうか。
 兵法にいう、「危難を見て、その兵を忘れることなし」(司馬法・定爵)
88 易戦
 攻戦の方法としては、易いところから始める。敵がもし駐屯して備えているのが数カ所あれば、必ず強弱・大小がある。その強いところを避けて弱いところを攻め、多いところを避けて少ないところを撃てば、勝たないはずがない。
 兵法にいう、「戦いに巧みな者は、勝ちやすいところで勝つ者である」[孫子・軍形編]
89 離戦
 敵と戦うとき、ひそかに隣国君臣の交わりに隙があることを知れば、間諜によってこの仲を裂くべきである。敵がもし疑いあえば、自軍は精鋭によって乗じ、必ず望むとおりの結果を得る。
 兵法にいう、「親しめば、これを離間させる」[孫子・始計編]
90 餌戦
 戦いで、餌というのは、敵兵の飲食に毒を盛ることではない。利益で誘うのをみな餌兵というのである。戦闘の際、牛馬を捨て、財物を捨て、物資を捨てていても、取ってはならない。これを取れば必ず敗れる。
 兵法にいう、「餌兵を食らうことなかれ」[孫子・軍争編]
91 疑戦
 敵と陣地を向かい合わせ、自軍が敵を襲おうとするときには、草むらに草木を集め、旗・のぼりを多く張り、人が駐屯しているように見せ、敵を東に備えさせておいて、自軍が西を撃てば、必ず勝つ。自軍が退却しようとするときには、偽って虚陣を作り、駐留地を設けて退けば、敵は必ずあえて自軍を追ってはこない。
 兵法にいう、「多くの草が多くかぶせてあるのは、偽装である」[孫子・行軍編]
92 窮戦
 戦いで、もし自軍が多く、敵が少なく、敵がこちらの軍勢をおそれ、戦わずして逃げるなら、決してこれを追ってはならない。窮まれば反撃してくる。兵を整えてゆっくりと追えば、勝つ。
 兵法にいう、「窮地の敵には迫ってはならない」[孫子・軍争編]
93 風戦
 敵と戦うのに、もし順風に遭えば、勢いで撃つ。逆風であれば、不意に出て突けば、勝たないはずがない。
 兵法にいう、「風が順ならば勢いでこれに乗じ、風が逆ならば、陣を堅くして待つ」(呉子・治兵)
94 雪戦
 敵と攻め合っているとき、もし雨・雪がやまなければ、敵の備えがないところをうかがって、兵を潜めて撃つべきである。敵の軍政は敗れるであろう。
 兵法にいう、「敵の戒めていないところを攻める」[孫子・九地編]
95 養戦
 敵と戦うのに、もし自軍がかつて敗れていれば、士卒の士気を調べなければならない。士気が盛んならば激励して再び戦い、士気が衰えていればしばらく鋭気を養い、使えるようになるのを待って使う。
 兵法にいう、「慎み養って疲労させてはならない。士気をあわせ、力を積め」〔?〕
96 畏戦
 敵と戦うのに、軍中におそれおじけ、太鼓でも進まず、鉦を聞く前に退却する者がいれば調べて彼らを殺し、兵を戒めるべきである。もし三軍の士がみな恐れてしまったら、誅戮を加えたり、軍の威厳を重壮にしたりしてはならない。顔色をおだやかにし、恐れる必要がないことを示し、利害を説き、死にはしないことを説明すれば、兵の心は安まっていく。
 兵法にいう、「とらえて殺戮するのは恐れることを防ぐためだ。大いに恐れているときは殺戮してはならない。おだやかに話し、生きるということを告げよ」(司馬法・厳位)
97 書戦
 敵と陣地を向き合わせているとき、兵士に家と手紙のやりとりをさせたり、親戚に行き来させたりしてはならない。おそらくは情報が一つにならず、兵たちは心を惑わせてしまうだろう。
 兵法にいう、「通信を交わせば、心に恐れが出てくる。親戚が往来すれば、心に名残が生まれる」
98 変戦
 兵法の要点は、変に応ずるところにある。いにしえを好み、兵を知り、挙動のまえには必ず敵を探る。敵に変動がなければ待つ。変化があればそれに乗じて反応すれば、勝利がある。
 兵法にいう、「敵に従って変化して勝利を得る者、これを神という」[孫子・虚実編]
99 好戦
 兵は凶器である。戦争は逆徳である。やむを得ず使うものである。国が大きく、人口が多くても、力を尽くして征伐してはならない。戦いを争って終わることがなければ、ついには敗亡し、悔いても仕方ない。しかし、兵は火のようなものである。収めなければ、まさに自らも燃える憂いがあるだろう。武をけがし、兵を苦しめれば、災いは自らにふりかかってくる。
 兵法にいう、「国が大きくても、戦争を好めば必ず亡ぶ」[司馬法・仁本]
100 忘戦
 平安でも危急を忘れず、治世で乱を忘れないのは、聖人の深い戒めである。天下にことがなくても、武を廃してはならない。配慮が及ばないところがあれば、防御できない。必ず濃くないでは文徳を修め、外に対しては武備を厳密にし、遠国を懐柔し、不慮の事態に警戒すべきである。いつも武の演習をするのは、国が戦いを忘れていないことを示すためである。戦いを忘れないためには、民に軍事訓練から離れないよう教えるのである。
 兵法にいう、「天下平らかであっても、戦争を忘れれば必ず傾く」[司馬法・仁本]

注記

このデータは、もともとこのサイトの編集者がまとめたものであるが、一時、百戦奇略サイトにて同意のもと掲載されていた。このたび、再度自らの手で一部修正して掲載するものである。