海外からの還流を防ぐ必要なし。グラフで見る輸入盤問題

こういう問題については、図解にするとわかりやすいというのが最近の流行ですね。
「還流防止」を必死に推進しようとしている「日本レコード協会」が発表している数値を使って、この問題に関するグラフを淡々と作ってみました。
統計グラフ 以下、解説。

2004年5月 9日21:09| 記事内容分類:著作権, 音楽| by 松永英明
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2002日本レコード協会のデータを元にしたグラフまず、利用したデータは、社団法人日本レコード協会のオーディオディスクの輸出入状況オーディオレコード総生産数量の2002年の資料です(2003年は輸出入資料がないため)。

元の資料では「国内生産分」と「輸出入総数」が別の資料になっていますが、このグラフでは「国内で生産されたCDと、海外から輸入されたCD」の総数を出しています。本当は「海外に輸出されたCD」を引くと「国内で流通しているCDの総数」ということになるわけですが、輸出は381万と少ないこと、そのうちの邦楽・洋楽比がわからないので、全体を「日本と関係のあるCDの総数」ということでまとめました。

日本国内でプレスされたものでも「邦楽」と「洋楽」があります。レコ協の資料では、たとえば女子十二楽坊など「海外アーチストの作品」はすべて「洋楽」扱いですので、以下、それに従います。洋楽は欧州だけじゃないということで。

いわゆる「洋楽」は、「国内でプレスされた洋楽」+「輸入盤」ということになります(ごく少数の「海外でプレスされた邦楽」があるわけですが、これが問題なので、後述)。合わせて1億5000万枚くらい(うち輸入盤が6700万枚)、純邦楽が2億6000万枚。

あと、このグラフには海賊版は含まれていません。もともと違法だし、日本国内での流通はかなり少ないと思われます。

さて、この前提のもとに、今回の著作権法改正による「輸入権」の「本来の狙い」である「海外でプレスされた邦楽の還流」を考えてみますと、これは年間68万枚といわれています。つまり、これは全体の0.17%。国内プレスされた邦楽との比較でも0.26%にすぎません。ほとんど「誤差の範囲」といえます。この「0.2%の還流邦楽」がもう少し増えたとして、日本の邦楽市場にどれだけの影響を与えるのか。考えてみればすぐにわかることです。還流を制限するのは大げさだし、日本の音楽市場衰退の理由にするのは本末転倒といえます。

さて、これで影響を受ける範囲についてですが、厳密に運用されるならばともかく、税関での処分の問題を考えるなら、アジアからの輸入が大きな影響を受けます。また、最も影響が大きくなった場合は、欧米からの輸入も含めた輸入盤がすべて、税関を通りにくくなります。これは最大16%という割合になります。

全体の0.17%の問題のために、最大16%の輸入盤が影響を受ける。これが今回の「輸入権」問題の一つのポイントです。


ところで、レコ協の他の資料を見ていると、女子十二楽坊は「洋楽」扱いでした。つまり、「邦楽」というのは「日本人アーチスト」のものなのか、あるいは国内プロダクションを本拠とする人たちなのか、まあその辺みたいです。

もし、本来の趣旨どおり、極めて厳密な意味で「アジアからの邦楽の還流制限」と極めて限定していっているのであれば、女子十二楽坊のアルバムが日本で最初に企画・製造されたとしても、それは邦楽ではないので、制限されないということになります。また、BoAも冬のソナタサントラ盤も邦楽ではないので、制限されてはなりません。制限されるのは、たとえばアジアで大人気の中島美嘉の香港盤とかだけということになります。極めて厳密に、そのようにしか運用されないというのであれば、話はかなり変わってくるでしょう。

しかし、実際の法案ではそうはなっていないわけです。そのような限定された条文ではないので、BoAも冬のソナタも女子十二楽坊もひっかかりかねない。で、実際の運用を考えるならば、極めて絶望的な状況といえます。

で、邦楽と洋楽の定義だけでも、以下のようなパターンはそれぞれどうなるのかがわからない。

・中島美嘉の香港盤(これは明らかに「邦楽の還流」ですね)
・ブラックビスケッツ (ビビアン・スー+南原清隆+天野ひろゆき) は邦楽?洋楽? ビビアンだけなら洋楽ですが。
・倉木麻衣と孫燕姿のデュエット曲(これはどっち?)
・女子十二楽坊が日本で制作したアルバム「Beautiful Energy」「輝煌」(レコ協の扱いでは一応洋楽ですが……)

つまり、「邦楽の還流盤だけだから」と言われても極めて曖昧なわけです。で、その辺をきっちり規定している法律ではないわけですね。レコ協は年間わずか68万枚の「邦楽還流」をどうしても防ぎたいというのであれば、具体的にどのアルバムが該当するのか、すべてのリストを今すぐ公表すべきであり、条件を明示して、絶対に拡大適用されないように法に盛り込ませるべきです。

もちろん、私自身の意見としては「邦楽還流を制限するのは意味がない。それ以外にやることあるでしょ」ということです。つまり、音楽鎖国には反対です。


【関連記事】
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2004年5月 9日21:09| 記事内容分類:著作権, 音楽| by 松永英明
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随分遅いけれど、大きく取り上げられるようになってきたみたいですね。 基本的に、政治的なコトや贔屓の野球・サッカーチームの話題なんかはこういった場で扱わないって言うのがセ... 続きを読む

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68万枚は現状であって「未来的に増える」と予測されるため「輸入権を!」の流れのはずです。
どちらにしても、レコード会社の怠慢のため権利化したいと言う構図は変りませんが、動機をゆがめて紹介するのはどうでしょうか?
そもそもの動機自体が、消費者から搾取するものであることを示すべきでは?

動機をゆがめて、というのはどういう意味でしょうか?
「消費者から搾取」という共産主義じみた用語はよくわかりません。
「いい音楽を提供するのではなく、ゼニ儲けの手段として音楽を利用している」といわれるならわかります。また、そのためにまっとうな努力ではなく競争相手をつぶす方向で努力しているのが依田氏である、というのであれば理解できますし、そのとおりだと思いますが。
ただ、これが「還流盤」だけを本当の目的として言っているとは思えません。

搾取云々の言葉遊びは本質じゃないので。
「還流盤だけが目的とは思えない」には全く持って同意なのですが、「成立させようとする理由が還流盤」である以上、ここをくじけばよいと考えています。
しかしこのエントリでは「本流の理由である未来的な還流盤」に対してではなく、「本流としていない洋楽による副作用」にのみ集中するのはどうかと思ったまでです。
この問題、副作用「だけ」外しても意味ないのは、ご自身のエントリでも表明している通りですよね>切り捨てられるアジア音楽ファン【音楽関係者にまで裏切られた!?】 [著作権問題]
そもそも「アジア」とくくろうが、還流防止云々事態が問題なのであって、「本流」をももっと叩くべきではないかと思ったまでです。
「切り捨てられる~」の中「そもそも「アジア盤の邦楽CDの逆輸入防止」が必要か否かについて」の部分に焦点を当て、ここを崩しさえしてしまえば、この問題、成立させたい側のよりどころがなくなるだろうと。

このエントリーが「副作用にのみ」集中しているでしょうか?マーカーをつけている部分を含め、還流防止が不要であることを述べているつもりですが。

『全体の0.17%の問題のために、最大16%の輸入盤が影響を受ける。これが今回の「輸入権」問題の一つのポイントです。』
この一文を「門断点」としてるので、そういう印象が残ってます。
法文で付随されている 16% にかかる部分は一切関係なく、法律を成立させようとしている主題である 0.17 % が将来的に 2% になろうが 3% になろうが、それを止める法案は消費者の利益を余りにも損ねるものにしかならないと考えてるので。

ただし、No4 見る限り読み取りの違い/感性の違いに落ち着きそうですね。
輸入権反対の方向性同じでこれ以上言い合うのは無意味ですから黙ることにします。
お騒がせしました。

くそ

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