イラクのゲリラ軍を最新鋭米軍が掃討できない数学的な理由
一つ前の記事「ランチェスターの法則は使えないときもある」の元記事では、以下の新聞コラムへのリンクがあった。
ジョン・アレン・パウロス教授による数学的見地から見たイラク派兵問題である。ランチェスターの法則はどんな場合にも当てはまるものではないが、特にゲリラ戦になった場合、いかに米軍が最新鋭兵器を有していても、人数が圧倒的なイラク人ゲリラには苦戦するということが示されている。
そこでこの記事を(またまた)全訳してみた。ちょっと古い記事だけど。
■ランチェスターの法則:アメリカ軍兵士は少なすぎ?
by John Allen Paulos
2003年3月30日
戦争の正義(あるいは正義がないこと)についてどんな意見を持っているかを問わず、イラク政権を直ちに崩壊させられなかったことについては多くの人が驚いた。
それは、アメリカの軍事戦略が楽天的すぎる見通しに基づいているからだ、という人もいる。例えばテレビの有識者に転じた退役将校バリー・マカフィーは、最近、ドナルド・ラムズフェルド国防長官がサダム・フセイン転覆のためにイラクに派遣した部隊は少なすぎ、物資も少なすぎる、と述べた。
軍事的な人々の発言に基づいて、私は議論に対してそれほど本質的ではない話を付け加えたいと思う。
それはランチェスターの二乗の法則についてだ。これは第一次世界大戦中に公式化され、それ以来軍で教えられてきたものである。古代からトラファルガル海戦、硫黄島決戦に至る紛争をモデル化するのに使われたこの法則は、イラクの状況とも関係があるかもしれない。
通常は微分方程式として扱われるが(私が最初に知ったのもその文脈だった)、ランチェスターの法則は以下のように言い換えることができる。「軍の部隊――航空、砲兵、戦車、ライフルを持った兵士――の力は、部隊の規模ではなく、部隊の規模の二乗に比例する」
これは何を意味するのだろうか?
■数の効果
イラクに当てはめる前に、もう少し、ランチェスターの法則について解説したい。単純化された二つの部隊の間の戦いで、「数」軍と「質」軍、それぞれが500ずつの大砲を持っているとする。
さらに、両陣営の大砲は効果がほぼ同等であり、一日に6パーセントずつ相手を破壊できると想定する。つまり、1日が終わったとき、相手の94パーセントがそれぞれ残っているという状況である。
いずれの側も優位ではないが、Derrick NiedermanとDavid Boyumの新刊「数が語るもの(What the Numbers Say)」に載っているいい例をもとに力のバランスを変えてみよう。「数」軍が1500部隊に増えたとする。「質」軍の3倍である。そのとき、何が起こるだろうか?
2つの結果がある。一つは、「質」軍の大砲は「数」軍から以前の3倍の砲撃を受ける。「数」軍は今や「質」軍の3倍の大砲をもっているからだ。このため、「質」軍は一日当たり18%の大砲を失うことになるだろう(3×6%)。
もう一つの結果は、「数」軍の大砲は「質」軍から以前の3分の1の砲撃しかうけない。「質」軍は「数」軍の3分の1の砲撃しか受けないからだ。このため、「数」軍は一日当たり2%の大砲を失うことになるだろう(1/3×6&)。
この場合のランチェスターの法則とは、「数」軍の大砲の数を3倍にすることによって、相対的に9倍有利になる(18%対2%)ということである。
■質の効果
軍隊は、大砲(でも飛行機でも戦車でも兵士でもいいが)の数を増やすだけでなく、質を高めることもできる。そこで、その力の均衡を考えてみよう。
「質」軍は、「数」軍の数の優位に対して、技術力によって対抗しようとしたとしよう。そうするためには、500の大砲それぞれを、「数」軍の大砲よりも9倍精度を高める必要がある。
もし「質」軍がこのように大砲を向上させることができたなら、「数」軍の大砲のヒット率は(もし「数」軍が同じ数だとしたら)もはや一日6%ではなく54%になる(9×6%)。しかし、「数」軍はまだ数において3倍の部隊を有しているから、「質」軍は一日わずか18%しか破壊できない(1/3×54%)。
それどころか、「数」軍の大砲が「質」軍を破壊する割合は、一日に18%のままとどまっている。
肝心な点。「数」軍の数が3倍増えるのに対抗するには、「質」軍の質は9倍増えなければならない。一般に、数がN倍になるのに対抗するには、質をNの二乗倍高めなければならない。
■イラクで
さて、限定された観点からすれば、共和国親衛隊とゲリラは「数」軍であり、アメリカ・イギリス軍は「質」軍となる。もし議論にのぼる部隊が航空機、巡航ミサイルなどを持っているなら、比較はできず、ランチェスターの法則は当てはまらない。戦車と大砲においてランチェスターの法則は当てはめることができる。そして、アメリカの質的な優位によって、その日の勝利を収めることができる。
そのバランスがあやうくなるのは、個々の兵士がライフルを持って個別に闘うレベルまで下りたときだ。
ランチェスターの法則では、アメリカ軍の兵士の優位がごくわずかであるなら、イラクの数の優位には勝てなくなるかもしれないということになる(ライフル銃よりも破壊的な兵器を駆使しない限り)。数において劣っている状態を克服するには、極めて大きな質的優位がなければならない。
もちろん、この分析は極めて単純化されたものであり、他の多くの要素を無視している。たとえば、イラク人の戦意が高いか否か、国連の援助のもとで広範囲に集められた軍ではなく、基本的にすべてアメリカ人から成る軍と闘うのか、ということで大いに変わってくる。
イラク戦争がどれだけ続くとしても、ランチェスターの法則によって、なぜ従来型の弱い兵力しか持っていない人たちが好んで都市ゲリラ戦に持ち込むのか、ということがわかる。厄介なことに、技術的な優越によってもたらされる利益はごくわずかでしかないというのが事実なのだ。
- テンプル大学数学教授にしてコロンビア大学ジャーナリズム学助教授のジョン・アレン・パウロスは、数学入門書を含むベストセラーの著書であり、近刊「数学者が市場に遊ぶ」の著者である。
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