ルビ(ふりがな)の指定の仕方(付:ルビの語源と活字サイズ名一覧)
ルビの指定方法各種(ニフティ、青空文庫、未來社、JIS規格、W3C勧告)と、それからルビという名称の由来についてちょっとさかのぼってみた。
■きっかけ
はてなブックマーク - ウェブ社会[本当の大変化]はこれから始まる……浅倉卓司さんのコメントがそもそものきっかけだった。((ブックマークされたページの内容はまったく関係していない。))
#新潮社{しんちょうしゃ}ではルビはこうやって#指定{してい}してるのね。それとも一般的?
ルビ部分を{ }でくくるのはNiftyのもの書き系フォーラムで定着した作法のような気がするが(これは『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』にも載ってないと思うので記憶による)、ルビ範囲を#で明確にするというのはあまり見たことがないように思うので、新潮社流ではないだろうか。
ちなみに、今のところ、各出版社に渡すデジタル原稿でルビの指定方法を指定されたことはない。愛・蔵太さんも「ルビ指定の方法に関しては、確かにひとつの著作の中で統一されてれば特に問題ないですね。」とのことで、出版界での統一規格は特にないというのが実情だと思う。
■データ上におけるルビの指定方法
というわけで、テキストデータ上でどのようにルビを指定するかという方法について気になったので、記憶と検索からまとめてみた。補足情報があったらぜひご教示ください。随時追記します。
■ニフティのフォーラム……中括弧{なかかっこ}
上述したように、ニフティの文芸系フォーラム以来、ルビを{ }(中括弧、ブレース)で囲む作法がある程度広まっているように思う。
■青空文庫……|青空文庫《あおぞらぶんこ》
青空文庫では《 》(二重ヤマカッコ)で囲むことになっている。工作員作業マニュアル 2.入力-1 (5)特殊な表記 【ルビ】には、
◆ルビ処理の基本
●ルビは、ルビの付く文字列のあとに、「《》」(区点コード0152・0153、JISコード2154・2155、シフトJISコード8173・8174)でくくって入力します。(学術記号の≪≫区点コード0267・0268、JISコード2263・2264、シフトJISコード81E1・81E2と混同しやすいので注意してください。)
と書かれている。以下、かなり細かい指定がなされている。ルビの範囲なども指定できる詳細な記法である。
■新潮社……#新潮社{しんちょうしゃ}
上記のとおり、「#文字{ルビ}」という記法と推測される。青空文庫形式の変形のようにも見える。
■未來社……_^未來社【みらいしゃ】^_
未來社アーカイブでは、日本工業規格「日本語文書の組版指定交換方式JIS X 4052:2000」の試案に基づいて作られた未來社でのルビ指定方法が紹介されている。『出版のためのテキスト実践技法』増補・改訂版 執筆篇 第3章 執筆のためのテキスト入力マニュアル 3-5-1 ルビ、傍点、欧文特殊文字の扱いは記号による指示でよい(2002/4/26)ならびに[執筆と編集のためのパソコン技法] 52 傍点とルビの指定タグ(2004/3/19)に同様の方法が書かれている。詳細を省いて簡単に引用するなら、
◆ルビ指定は対象文字列(親文字)の前に_^(全角アンダーライン[JIS記号2132]+半角キャレット[JIS記号005E])を入力し、親文字 のうしろにルビ文字を【 】に入れ、最後に^_を入力。例=_^丁寧【ていねい】^_。
◆圏点指定は文字列の前に_¨(JIS記号212F)、うしろに¨_を入れる。例=_¨圏点¨_。
これはJIS規格試案をもとにしているらしいが、実際にはこういう書き方は広まっていないと思う。未來社の例は特殊ではないだろうか。少なくともわたしはこのように指定するよう求められたことがない。
ちなみに、未來社アーカイヴはデジタルで文章を書こうという人には役立つ資料が惜しみなく公開されているのでおすすめ。
■記者ハンドブック……記載なし
それぞれの出版社で漢字表記の基準を独自に全部決めるのは大変なので、基本は共同通信社の『記者ハンドブック』に準拠し、具体的な一部の例を出版社ごとに用字統一表として決めてあることが多い(類書に『朝日新聞の用語の手引』があるが、表記統一基準としては記者ハンがよく使われている)。
ただし、これは新聞のための用字用語集である。で、新聞では(ここ数年で例外も出てきたが)ルビをつけない。一部引用すると((手元の取りやすい所にあった第8版より。今の最新は第10版なのであとで確認する))
読み方の難しい地名は、カッコして平仮名で読みをつける。〔例〕沖縄県東風平(こちんだ)町 石川県羽咋(はくい)市……(「地名の書き方」の項より)
読み方の難しい姓名には、丸カッコして平仮名で読みを入れる。……(略)……〔例〕武者小路実篤(むしゃのこうじ・さねあつ)……(「人名、年齢の書き方」の項より)
要は、普通に括弧(かっこ)して読みがなを示すだけの話である。
■JISX 4052:2000でのタグ指定
2000年10月20日制定の日本工業規格「日本語文書の組版指定交換方式JIS X 4052:2000」では、ルビなどの指定方法が示されている((未來社の記法は、この試案段階のものを参考にしたと思われ、実際にはかなり違っているように思われる。))。家辺勝文氏による“JIS X 4052:2000(日本語文書の組版指定交換形式)”と“Ruby Annotation, W3C Recommendation 31 May 2001”におけるルビ・マークアップ方式の開発(PDFファイル)という論文によれば、基本は次のようなタグとなる。
<RUBY>
<RBC><RB>五月</RB><RB>晴</RB><RB>れ</RB></RBC>
<RTC><RT>さつき</RT><RT>ば</RT><RT></RT></RTC>
</RUBY>
■W3C勧告2001年5月31日「ルビ付注」
HTMLのタグの書き方など、ウェブ標準を決めるW3Cの勧告でも、ルビタグが制定されている。基本形として使いやすい「括弧つき単純ルビマークアップ」は、以下のようになる。
<ruby><rb></rb><rp>(</rp><rt></rt><rp>)</rp></ruby>
ルビタグに対応しているブラウザならルビ表示、そうでなければ( )でルビ部分がくくられる。この記法のなかで( )を{ }や《 》に変えても差し支えない。
複雑ルビマークアップは、JIS X 4052:2000の記法とほぼ同じだが、タグ内部が全部小文字になる。
なお、厳密なことを言うと、このルビタグはXHTML1.1でのみ定義されているので、HTML4.01やXHTML1.0で記述されているウェブページでは本当は使えないタグである。しかし、各種ブラウザではHTML4.01以降であればルビタグを認識するようになっているので、多くのサイトで活用されているようだ。
■どの記法を使うか
XHTML1.1のウェブページでは、迷わずルビタグを使えばいいだろう。しかし、普通に出版社に渡すような原稿でルビタグやJIS形式のタグを用いると、意味不明なものにもなりかねない。どこまでルビを執筆者側で指定しなければならないかという必要性にもよるが、どんなふうにルビをふるかがわかるように、一つの原稿内で統一されていればそれでよし――というのが、特に指定のない多くの出版社における現状であろう。
もっとも、本格的でない場合、たいていは記者ハンドブック形式、つまり単に括弧に入れておくだけでも充分に用が足せそうだ。愛・蔵太の言うとおり「ひとつの著作の中で統一されてれば特に問題ない」のである。
■ふりがなはなぜルビと呼ばれるようになったか
さて、も一つついでに、ルビの語源について調べてみた。これはちょっと検索すればすぐに出てくる。W3Cルビ付注勧告には、
「ルビ」という名前は、実は、イギリス印刷業界での 5.5 ポイント活字サイズの名前に由来する。これは、一般に地のテキストに使われる 10 ポイントの活字サイズの約半分である。
と書かれているし、ルビ - 語源由来辞典にもこうある。
ルビは、5号活字の振り仮名に用いた7号活字の大きさが、イギリスで「ruby」と呼ばれる欧文活字と同じ大きさだったため、仮名用の活字を「ルビ」と呼ぶようになり、振り仮名のことも「ルビ」と呼ぶようになった。
ただ、語源由来辞典では、これにに続く解説で「欧米では活字の大きさを宝石名で呼び」と書かれているのだが、少しひっかかったので調べてみると、どうやらそうではない。活字の大きさを呼ぶ名称の中で、宝石名は少数派である(あることはあるし、ルビーの語源は宝石の紅玉にあるから、この限りにおいては間違いではない)。
このあたりのことについては、英語の掲示板| Historical type sizes | Typophileに詳しかった(ただし、すべてが正確だったわけでもない)。以下、そこからたどって調べたものである。
■ドイツの活字サイズ名称
掲示板によると、"Mut zur Typographie" by Jurgen Gulbins and Christine Kahrmann, p. 281 という本には次のように書かれているという(右端の列は英訳)。孫引きで失礼。
1pt | Achtelpetit | 1 eighth petit |
2pt | Viertelpetit | 1 fourth petit |
3pt | Brillant | brilliant |
4pt | Diamant, Halbpetit | diamond, half petit |
5pt | Perl | pearl |
6pt | Nonpareille | nonpareil |
7pt | Kolonel, Mignon | minion |
8pt | Petit | |
9pt | Borgis, Bourgeois | |
10pt | Korpus, Garmond | |
11pt | Rheinlander, Brevier | |
12pt | Cicero | |
14pt | Mittel | |
16pt | Tertia | |
18pt | Paragon, 1.5 Cicero | |
20pt | Text | |
24pt | Doppelcicero | double cicero |
28pt | Doppelmittel | |
32pt | Kleine Kanon | |
36pt | Kanon 3 Cicero | |
42pt | Grobe Kanon | |
48pt | Konkordanz, 4 Cicero | |
54pt | Grobe Misal | |
60pt | Sabon, 5 Cicero | |
72pt | Principal, 6 Cicero | |
96pt | Imperial, 8 Cicero |
■マイクロソフトによる活字サイズ名称
また、Now for the real treat 「Microsoft活字」活字用語集には以下のような表がある(左右の列は入れ替えた)
3pt | MINIKIN |
3.5pt | BRILLIANT |
4pt | GEM |
4.5pt | DIAMOND |
5pt | PEARL |
5.5pt | RUBY or AGATE |
6pt | NONPAREIL |
7.3pt | MINION |
7.6pt | BREVIER |
8.5pt | BOURGEOIS |
9.5pt | LONG PRIMER |
10.5pt | SMALL PICA |
12.2pt | PICA |
12.5pt | ENGLISH |
15pt | 2-LINE BREVIER |
約17pt | GREAT PRIMER |
約19pt | PARAGON |
約21pt | DOUBLE PICA |
約24.4pt | 2-LINE PICA |
約25pt | 2-LINE ENGLISH |
5.5ポイント活字をルビーまたはアゲートと呼ぶことが示されている。しかし、その使い分けはよくわからない。
■ウェブスター辞書
Webster 1913年版(米国、著作権切れ)における活字サイズ名称一覧をまとめた「type sizes @ Everything2.com」によれば、英米での活字サイズ一覧は次のようになる(一部修正((研究社リーダーズ+プラスを参照して確認した。)))。
- 1pt American アメリカン(アメリカ人)
- 1.5pt German ジャーマン(ドイツ人)
- 2pt Saxon サクソン(サクソン人=英国人の祖)
- 2.5pt Norse ノース(スカンディナヴィア人)
- 3pt brilliant ブリリアント(輝かしい)英国で使われる最小サイズ(ウェブスター新国際辞典第2版(NI2)では3.5ptと定義)
- 3.5pt ruby ルビー(紅玉)旧システムでは英国でアゲートのサイズ(5.5pt)を指していた
- 4pt excelsior エクセルショール(詰め物用かんなくず*1)NI2では3ptと定義
- 4.5pt diamond ダイヤモンド(金剛石)合衆国で通常使われる最小サイズ
- 5pt pearl パール(真珠)
- 5.5pt agate アゲート(瑪瑙)旧システムでは、英国でルビーと呼ばれていた
- 6pt nonpareil ノンパレル(無類の)
- 6.5pt emerald エメラルド(翠玉)英国でのみ使われた。
- 6.5pt minionette ミニオネット エメラルドの別名。
- 7pt minion ミニオン(かわいくて繊細な/お気に入り)
- 8pt brevier ブレビヤ
- 9pt bourgeois ブルジョア(中産階級市民)ダイヤモンドの倍なので、two-line diamond(2行取りダイヤモンド)ともいう。
- 10pt long primer ロングプリマー / two-line pearl 2行取りパール
- 11pt small pica スモールパイカ / two-line agate 2行取りアゲート
- 12pt pica パイカ(教会掟集)/ two-line nonpareil 2行取りノンパレル
- 14pt English イングリッシュ(英国の)/ two-line minion 2行取りミニオン
- 16pt Columbian コロンビアン(米国の)/ two-line brevier 2行取りブレビヤ
- 18pt great primer グレートプリマー / two-line bourgeois 2行取りブルジョア
- 20pt paragon パラゴン(模範)/ two-line long primer 2行取りロングプリマー
- 22pt double small pica ダブルスモールパイカ / two-line small pica 2行取りスモールパイカ
- 24pt double pica ダブルパイカ
- 28pt double English ダブルイングリッシュ
- 36pt double great primer ダブルグレートプリマー
- 40pt double paragon ダブルパラゴン
- 48pt canon キャノン(教会法規)特別な名称のついたサイズとしては最大。4行取りパイカと同じ。これ以上のサイズは5行取りパイカ、6行取りパイカ、等と書く。
というわけで、それぞれのサイズがなぜそのように呼ばれたかということまでは現時点では不明だが、ともあれ、日本でふりがな用に使われた7号活字と同じ大きさの活字は、英国式の5.5ポイント活字、すなわち「ルビー」であった。
- *1: ニューヨーク州の標語で「更に高く!」「向上!」といった意味もある
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