「第10惑星」は冥王星より大きい。発見者による解説、惑星の定義、ならびにハッカーとの戦い

 第十惑星が発見されたという報道があった。その発見者は、1年半前に小惑星「セドナ」を発見したのと同じマイク・ブラウン氏である。

 セドナのときもブラウン氏のサイトの訳を掲載したが、これは今もセドナについてのよい基礎資料となっている(「第十惑星」セドナ(仮)の発見者は、惑星と考えていない [絵文録ことのは]2004/03/16参照)。今回は、ブラウン氏も「惑星だ」と主張しているが、正式名称はまだ決まっていない。冥王星より3倍遠い軌道を回り、冥王星より大きな新惑星は、おそらく氷と岩でできている。

 また、議論の多い「惑星」の定義についても、ブラウン氏は「もう冥王星より大きくて太陽を回ってたら惑星ってことでいいじゃん」と提案している。

 興味深いのは、今回の発表が「ネット検索などで他の人に研究成果を奪われて先に発表されかねない」ということで緊急になされた経緯もすべてブラウン氏自身によって記されていることである。

 そこで、備忘録的に以下に日本時間8/2 21時現在の内容を全訳して掲載しておく。

2005年8月 2日21:38| 記事内容分類:天文学・地学| by 松永英明
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パロマー観測所の天文学者が冥王星より遠い第10惑星を発見

Astronomers at Palomar Observatory Discover a 10th Planet Beyond Pluto)

lila.jpg
新惑星の発見画像。3つの画像は2003年10月21日の夜、1時間半おきに撮影。この惑星は3時間で天空をゆっくりと動いていることがわかる。

 この惑星は現在、仮に(不適切だが)2003UB313と呼ばれているが、パロマー天文台のサミュエル・オースチン望遠鏡での調査で、天文学者マイク・ブラウン(カリフォルニア工科大)、チャド・トルヒーヨ(ジェミニ天文台)、デヴィッド・ラビナヴィッツ(イェール大学)が発見した。我々はIAUに名前を提案してある。それが受け入れられたときには発表するつもりである。ウェブサイトのページ名に基づいて、今回提案された名前が「ライラ(Lila)」だと推測する人たちもいるが、これは徹夜明けの早朝に感傷的なパパが生後3週間の娘にちなんでつけたものなんで、マジメに受け取らないでほしいものだ(※原文ファイルは"planetlila"というディレクトリにある)。

 ここでの情報は第10惑星について新しいことがわかりしだい随時更新する。

lilasmall.jpg
惑星の想像図。遠くに太陽が見える。芸術的表現。by ロバート・ハート(IPAC)

これは何ですか?

 この新惑星(「惑星とは何ですか?」参照)は、1846年に海王星とその月トリトンが発見されて以来、太陽を回る軌道で発見された最大の天体である。これは1930年発見の冥王星より大きい。冥王星同様、新惑星はカイパーベルトの一部で、太陽を回る軌道上、海王星よりも遠い氷で覆われたかたまりである。これが発見されるまで、冥王星は惑星であると同時に「最大のカイパーベルト天体」と呼ばれている。冥王星は現在、2番目に大きなカイパーベルト天体となった。一方、新天体は現在知られているなかで最大のものである。

それはどこにありますか?

 新惑星は、太陽を回る軌道にある天体としては最も遠いものである。それは2年前に発見されたプラネトイド・セドナより遠い。それは太陽からおよそ100億マイル(160億km)のところにあり、次に近い惑星冥王星より3倍以上遠く、軌道を一周する時間は冥王星の2倍以上かかる。

lonly.jpg
北側から見下ろした太陽系の光景。4つの円は木星、土星、天王星と海王星の軌道。中心の黄色の点は太陽。地球は太陽を示す黄色の点の中におさまってしまう。2つの最も外側の惑星の軌道は、現在の場所も同時に見せている。

 発表時(2005年7月末)、新惑星は太陽が昇る前の数時間の早朝の空高く、クジラ座に見られる。この惑星は非常にハイエンドのアマチュア装置を使えば見ることができるが、どこにあるかを知っておかねばならない。(この惑星、あるいは太陽系の他のいかなる天体についても)正確な座標を見いだすのに一番いい方法は、JPLのホライゾン・システムだ。「目標を選択」をクリックし、小(!)天体の「2003 UB313」に入る。

 新惑星の軌道は冥王星よりも変わっている。冥王星と太陽の距離は、250年間の軌道のあいだに、太陽と地球の距離の30倍から50倍まで変動するのだが、新惑星は560年の軌道の間に、38倍から97倍まで変化する。

これはどれぐらいの大きさですか?

 通常我々が太陽系外で遠い天体を最初に見つけた段階では、大きさはわからない。それはなぜか? なぜなら、我々が見ることができるのは、光の点だけだからだ。ちょうどこのページの最上部のように。光のこの点は惑星の表面から反射された日光である(興味深いことに、日光が惑星に届き、それから地球まで反射してくるまで、ほぼ1日かかってしまう!)。しかし、その天体が明るいのは、それが大きいからなのか、反射がいいからなのか、それとも両方なのか、わからない。しかし、この新惑星の場合、それが特別に反射しやすい(たとえば新雪のように)としても、冥王星より大きくなければこれほど明るいわけがない、ということがわかっている。つまり、正確な大きさはわからないが、それが確かに冥王星より大きいことはわかっているのだ。表面がどういうものであるかに基づいて、それがどれくらいの大きさかを推測してみた。

表面のタイプ反射率推定惑星直径冥王星との比較
未知の物質100%2210km97%
地球上の新雪90%2330km102%
南極大陸平均80%2475km108%
冥王星と同じ60%2860km125%
カローン
(冥王星の月)
38%3550km156%
(スピッツァー宇宙望遠鏡の予備観察によれば、この惑星はこれ以上大きいとは思えない)

 スピッツァー宇宙望遠鏡での観察は、外太陽系の天体の大きさを見るのにいい方法である。スピッツァー望遠鏡は対象からくる熱量を測定する。もし我々が火の大きさを測ろうとすれば、たとえば、その火から来る熱の総量を測ることによって可能となろう。マッチの炎とたき火は、温度的には同じであるが、ずっと大きいたき火の方がもっと多くの熱を発散する。同じことが遠い惑星についてもいえる。我々はこの惑星がどれくらい遠くにあるかわかっているので、その表面温度はかなりよくわかる(氷点下405度という冷たさ!)。こうして、熱の総量がわかれば、その天体がどれくらい大きいかがわかる。残念ながら、新惑星は遠くにありすぎて、これほど冷たいので、スピッツァー望遠鏡でさえもそれを検知することができなかった(もっとも、分析は薦められている。おそらくその信号を見つけることはできるだろう)。しかし、このことからわかるのは、惑星がおよそ3550kmより大きいはずがないということだ。分析が進むにつれて、この数はもっと正確になってくるだろう。

 大きさを測定する次のステップとしては、ハッブル宇宙望遠鏡で惑星を観察することだ。そして、非常に注意深い分析をできれば、プラネトイド・クワイアー(Quaoar)の場合は充分だった。これらの観察はすでに予定されている。まもなく始まるだろう。

新しい惑星は何でできていますか?

 遠い天体から反射される日光によって、その構造が調べられる。たとえば、地球の表面に反射した日光は、特に地球大気の酸素の特徴、光合成植物、豊富な水の特徴を示す。我々はハワイ州マウナケアのジェミニ観測所を使って、新惑星の表面から反射される光を測定し、その惑星が冥王星に非常ににていることがわかった。二つの比較は以下に示した。日光の反射が赤外線近くにあることがわかる。このタイプの光は、人間の目に見える部分を超えており、この外太陽系の天体表面に氷のようなものがあると思われる。

spectrum.gif

 このグラフは、新惑星から反射される異なった色(周波数=wavelength)の赤外線光量を、冥王星と比較したものだ。光量のくぼみは矢印で示されており、凍り付いた個体メタンで表面が覆われている場合に特有な特徴だ。冥王星と新惑星はどちらもこの特徴を示している。冥王星と新惑星のように非常に低い温度では、地球上ではガスの形の目たっんも凍って個体になる。惑星内部は、冥王星内部と同様、おそらく岩と氷の混合だ。

 しかし、冥王星と新惑星は完全に同一ではない。冥王星の表面はやや赤いが、新惑星はほとんどグレーに見える。なぜ色が異なるのかについては、わかり始めたところだ。

 冥王星と新惑星は他の8つの惑星と異なっている。水星、金星、地球、火星は地球型惑星と呼ぶ中サイズの岩でできた天体である。木星、土星、天王星、海王星はずっと大きく、巨大惑星と呼ばれる。これらすべての惑星は太陽の周りを旋回している薄いディスク上の円形軌道にある。2つの遠い惑星は完全に異なったタイプだ。どちらも氷と岩からできており、非常に風変わりな軌道上にあって、他の惑星と比べて傾いた軌道である。新惑星は他の惑星と比べると45度も傾いているのだ!

新惑星はどのように発見されましたか?

 南カリフォルニア州パロマー天文台で、パロマーQUESTカメラサミュエル・オースチン望遠鏡を使って、外太陽系での測量を進めてきた。この調査は2001年秋から始まり、2003年夏の QUESTカメラ事故まで続いた。それまでに我々はおよそ80の明るいカイパーベルト天体を見つけた。

 天体を見つけるために、我々は3時間にわたって夜空の小さい地域の3枚の写真を撮り、動くものを探す。空に見える何十億という星や銀河は動かないように見えるが、一方で、衛星、惑星、小惑星、彗星は動くように見える。下の映像は、2003年10月21日、我々が新天体を見つけたフレームである。動いている天体が見えるだろうか?

lila.gif

 この天空ショーの範囲は、我々が毎晩見ることのできる空の面積のおよそ0.015%にすぎない。しかし、毎晩、空の広大な範囲を調査しても、それはまだパロマー天文台から目に見える空のすべてを観察するには、あと5年かかる。

 我々(と家族)にとって幸運なことに、仕事の多くはコンピューターでなされる。望遠鏡はロボット的に制御されており、そのデータは毎朝パサデナに送信されて、カリフォルニア工科大学の10のコンピューター群で解析される。毎朝、コンピューターは人が見なければならないおよそ100の動いている可能性のある天体を見つけ出す。その大多数はカメラ上の何らかの傷であって、本物の太陽系物体ではない。しかし、時折、上に見られるように、本当の対象がその存在している。

 新惑星は我々が見つけたほとんどの天体よりも非常にはるか遠くにあるので、ゆっくりと動いている。我々のコンピュータが最初にはそれに気付かなかったというくらいゆっくりと動いていたのだ! 我々は毎年一回の特別な再解析後、特に非常に遠い物体を探し始めた。最初のデータが得られてからおよそ1年半後、この再解析で、2005年1月8日に新惑星を見つけた。

本当の名前は何になるんですか?

 新天体が見つけられたとき、国際天文学連盟(IAU)は、最初に発見された日付に基づいて一時的な名称を与える。こうして2003 UB313は、この天体が2003年10月後半に見つかったということを示している。その次に、発見者が恒久的な名前を提案する。我々は名前を提案してあり、IAUからの裁定を待っているが、それはすぐに来てほしいものだ。しかし、それまでは名称を秘密にする義務がある。それでも命名の哲学を論じることは自由だ!

 宇宙の他のすべてと同様、太陽系の新天体も命名されなければならないという公式ルールがある。興味深いことに、この新惑星は、だれも新惑星発見を予期していなかったので、どのルールに従うべきかは明確でないし、実質的に存在しない。もしこの天体が他のカイパーベルト天体と同様の命名ならば、それは創造神話に登場する神々にちなんで命名しなければならない。我々はそのルールの枠組みに従うことにした。

 他の惑星はすべてギリシアかローマの神々から命名されている。そこで、新惑星もそうすべきだという考え方が出ても当然だ。残念ながら、ギリシアやローマの神々の名前の多くは(特に主要な神として扱われがちな創造に関連する神々は)最初の小惑星が見つかったころに使われてしまっている。すでに小惑星で使われている名前なら、IAUはその名前を再利用させはしない。適切な名称案の一つとしては、ペルセポネー(Persephone)がありえた。ギリシア神話のペルセポネはハーデース(ローマ神話のプルートーン=冥王星)に(誘拐された)妻で、毎年地下で6カ月間をハーデースとともにすごす。新惑星は同様の用語で描ける軌道上にある。その半分は冥王星の近くにあり、半分ははるか遠くにあるからだ。悲しいことに、ペルセポネーという名前は1985年、第399小惑星の名前として用いられている。もっといいローマ神話版の名前ペルシピナ(Persipina)は、もっと前、第26小惑星の名前として使われている。同じことは、他のどんなギリシア・ローマの神々についても同じような結果となってしまう。この名前の枯渇に対する一つの例外は、ローマの火の神ウルカーヌス(Vulcan、ギリシアのヘーパイトゥス=Hephaestus)だ。しかし、天文学者は長期間にわたってこの名前を予約してある。今は存在しないことがわかっているが、水星よりも太陽に近い仮想天体の予約名となってきたのだ(太陽に近いのが火の神というのはいい名前だ)。こんなに冷たい新惑星に、こんな名前を付けたくはない!

 運のいいことに、世界は神話や神秘的な物語で満ちている。過去に我々はカイパーベルト天体に、ネイティブアメリカン、イヌイット、(マイナーな)ローマの神々の名前を付けた。我々の新提案名は、別の伝統に広がる。それがIAUによって受け入れられることを希望しており、その後、それがすべてに受け入れられればと願っている。

この天体は本当に惑星ですか? 冥王星は惑星ですか? 惑星とは何ですか?

 冥王星は惑星とみなすべきか否かという話題についての近年の議論の末にも、天文学者のあいだで合意に近づいたようには思えない。わたしは2004年3月、セドナを発見したときにこれについて広範囲に書いた。わたしの考えはその時から進展しているので、1年半前に言ったことを見てもらえれば面白いかもしれない。U・C・バークレーでの同僚Gibor Basriと一緒に「何が惑星なのか?」という話題についてこの夏、科学的なレビュー記事を書いたのだが、これにおおきく影響され、彼の洞察には感謝している。我々の太陽系で惑星を定義する際の主な障害は、科学的に、冥王星が確かに他の惑星と同じカテゴリーに入れられないことは非常に明確であるということだ。若干の天文学者が冥王星を惑星にしておいて解決しようとしたが、ほとんど絶望的だ。そのすべては満足できるものではなかったし、他の何十もの天体を惑星と呼ぶ必要が出てくる。何か未知のものが発見されたら惑星数を9から10にしようとするときなのに、もし天文学者が突然「我々は今、実は惑星が23あるということに決定しましたのでお知らせします」と言ったなら、多くの人々が幸せにはなれそうにもない。太陽系の残りに大きな影響を与えることなく、冥王星を惑星としてとどめておくための科学的な方法はないのである。

 しかし、文化的には、冥王星が惑星だという考え方は、9惑星を含む太陽系プラスチックテーブルマットからオフィシャルNASAウェブサイトまで、学校の生徒が9惑星を覚えやすくする名称、合衆国切手まで、何百万もの方法で定着している。我々の文化は冥王星が惑星であるという考えを完全に受け入れており、同様に大きな小惑星のようなものや大きなカイパーベルト天体は惑星ではないという考えも完全に受け入れている。「この文化的な見方は科学的に一貫していない!」と天文学者は叫ぶ。科学者は、惑星という単語がもう自分たちだけのものではないということをわかっていなかった。しかし、本当にはっきりしているが、科学者だけのものではなくなっているのだ。科学者が科学的に使っていると考えている単語を手放すのは当然難しい(わたしの職名だってそうだ。惑星天文学教授!)。しかし、手放す必要がある。単語「惑星」は現代科学よりずっと長く身近なものとなっていた。

 これからは、だれもが科学者のややこしい討論を無視すべきだ。そして、我々の太陽系にある惑星は、数千年もの文化的用語を科学的に再定義しようというようなやり方ではなく、その文化を受け入れることのみによって定義すべきだ。文化が惑星だと言っているのだから、冥王星は惑星だ。

 このとき、二つの文化的な選択が残されている。

(1) 冥王星を境界線として、これ以上惑星は存在しないと言う。

(2) 冥王星を境界線として、これよりお奇異天体は惑星だと言う。

 どちらも文化的に受容できるだろう。しかし、わたしの場合は(2) だけが意味のあることだと思う。加えて、(2)は、探究すればますます多くの惑星が見つかるだろうという可能性を残し続ける。それは、(1)の可能性よりもずっと面白い。

 だから、わたしたちは「冥王星より大きな新天体は、実際に惑星である」と宣言する。文化的な惑星、歴史的な惑星。わたしは、これを科学的な意味での惑星だとは言わない。なぜなら、我々の太陽系と我々の文化がぴったり合うような科学的な定義がないからだ。そして、わたしは文化を優先させることに決めたからだ。我々科学者は科学者としての討論を続けることができる。しかし、わたしは、科学者が一般の人たちから無視されることを望んでいる。

そこにはほかに何がありますか?

 2005年7月の最後の週は外太陽系にとって面白かった。2日間に3つの新天体の存在が発表された。そして、それぞれの天体が(冥王星以外の)これまでに知られているカイパーベルト天体のすべてより明るかったのだ。最初の天体、2003 EL61はスペインのチームによって発表された。2番目の2つ、この惑星ともう1つの新天体 2005 FY9は、翌日我々の調査から発表された。それほど多くの明るい天体がすぐに出てくるというのでは大変だ。一覧早見は以下のとおり。

天体2003 UB3132003 EL612005 FY9
発見者ブラウン、トルヒーヨ、ラビナビッツオーティズその他。ブラウン、トルヒーヨ、ラビナビッツ
大きさ冥王星より大きい !~冥王星の1/2~冥王星の1/2
明るさカイパーベルト天体(KBO)で4番目に明るいKBOで3番目に明るいKBOで2番目に明るい
(冥王星と2003 UB313惑星を勘定に入れているが、それは明らかにカイパーベルト天体であって、その一番明るいのが冥王星であるということに注意)
現在の距離97 AU52 AU52 AU
(AUは地球から太陽までの距離)
軌道周期560年285年307年
近日点38 AU35 AU39 AU
遠日点97 AU52 AU52 AU
惑星と比較した軌道の傾き44度28度29度
衛星?未知ある!ない
表面成分冥王星に似ている冥王星に似ている
見える時期晩夏、秋、初冬晩冬、春、初夏

 これらの極めて明るいカイパーベルト天体の現在の太陽系における位置はこの図。

big3.jpg

なぜあわてて発表したんですか? ハッキング? ここで何が起こってるんですか?

 報道機関で広く報じられたように、新惑星発表はかなりあわただしいやり方で行なわれた。それは、我々の発見がウェブサイトをハックして天体がどこにあるかという情報にアクセスしていた何者かによって公開されるおそれがあったためである。詳細はもう少し複雑で、用語を考え直してもいいだろう(「ハックされた」? 「かぎつけられた」? 「盗まれた」? 「偶然見つかった」?)。どれも100%はっきりはしないが、わたしにわかる限りの発表までの経緯は以下のとおりである。若干の様相がわからないままだ。

 7月中旬、9月の会議で提供するための科学的談話の短い要約がウェブに公開された(こことか)。我々は、2004年のクリスマスごろに見つけ、2003 EL61と呼ばれている天体について話すつもりだった。そして、この要約は、会議に参加する科学者の関心を引くように意図されたものだった。これらの概要では、その天体をソフトウェアが自動的に割り当てた名前であるK40506Aと呼んでいた(2004/05/06に発見された最初のカイパーベルト天体、ということ)。この名前を使うことは、我々にとって非常によくないことだった! 我々は知らなかったのだが、この天体を研究するのに使われてきた望遠鏡のいくつかは観察者の公開ログを保存していて、どこで観察し、何を観察していたかがわかる。「K40506A」をGoogle検索すると、2秒でこの観察ログが出てくる。いたたたた。我々にとって悪い知らせだ。要約が公になった瞬間、ウェブに接続できてこの「K40506A」天体について少しでも好奇心のある人はだれでもどこにあるか見つけることができたはずだ。この星のだれもが、そこそこの大きさの望遠鏡でも天体を見つけて、自分が発見したと主張できてしまった。

 興味深いことに、それから起こったことはそうではなかった。J.-L. オーティズ率いるスペインのグループは、2~3年前からの独自のデータで合法的に天体を発見した。データがウェブで利用できるようになった数日後にこの発見が起きたという事実は、偶然の一致だとわたしは信じている。しかし、そのとき、仲間のうちの数人は、この偶然の一致が本当に偶然の一致というのはよくできすぎているし、我々の天体の場所をだれかが見つける方法があったかどうか知りたいと述べた。わたしはそれが不可能だったと強く主張した。だが、間違っていた。わたし自身、スペインの発表があった夜遅くにGoogleに行って、GoogleでK40506を見つけたとき、ため息をついた。スペインのグループがそんなことをしたはずがないと信じているけれども、あまりにも小さな努力で我々の天体を見つけることができたことがわかった。あまりにも明らかなので、最初の日から、公式発見者名はオーティズたちに与えられるべきであり、それ以外のだれでもないとわたしは述べた

 我々が使っていた望遠鏡がどこにあるかを示すような情報のあるウェブサイトを知っただれかが、このウェブサイトをもう少しじっくり読もうとするだけで、天空で動いているほかのものを我々が見たかどうかがわかってしまう、ということが金曜日の朝までにわたしにもわかった。この時点でわたしは電子メールで国際天文学連合の小惑星センター(MPC)のブライアン・マースデンと連絡をとり、今まで発表していない二つの天体(2003 UB313と2005 FY9)について秘密裏に話した。そして、だれかが違法に我々のデータを見つけられることが可能かもしれないので、この天体の発見者として主張しようと考えている、と告げ、アドバイスを求めた。1時間以上も遅れてきた回答はぞっとするものだった。何者かがすでにMPCウェブサービスを使って、ある天体の過去の観察結果を使って今晩の場所を予測しようとしたという。過去の観察結果とは、我々が使っていた望遠鏡からのログそのものだった! 犯人は、我々が使った名前の変更(K31021Cは2003 UB313、K50331Aは2005 FY9)にさえも悩まされていなかった。この時点で、7月最後の金曜日午後4時にあわただしく記者会見を開く以外に選択の余地はなかった。おそらく、聞こうという人が誰もいないニュースを告げるには唯一の最善の時刻だっただろう。

 このすべては3つの要素の完全な組み合わせによって起こった。我々は実際のコードネームを公にした概要で使っていた(これは我々の落ち度)。インターネットから情報を引き出して理解したりしないだろうと想定していた(我々の世間知らず)。天文学の知識を持つ何者かがわずかの努力でデータを得ようとしていた(犯人が非倫理的)。情報がどこかのサイトに押し入らなくても使えたのは事実だ。わたしが家のカギをかけないことがあるのも事実だ。だからといって中に入って、わたしのものを盗っても問題がない、などと考えないでほしい。

 我々はこの件で悲しんだが、大きな教訓も得た。しかし、倫理に欠けて確信を抱いた人たちが、どんな分野でも問題を起こし続けるということはありそうなことだ。

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2005年8月 2日21:38| 記事内容分類:天文学・地学| by 松永英明
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参考まで。
新発見惑星の表面温度の「氷点下405度」を摂氏に変換すると-243度、絶対温度30Kです。

誤:これよりお奇異天体は...
正:これより大きい天体は...

誤:これよりお奇異天体は...
正:これより大きい天体は...

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このページは、松永英明が2005年8月 2日 21:38に書いたブログ記事です。
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