ネットの著作権:著作物を適切に使う方法(日経パソコン記事への異論)

 あなたは訴えられるかもしれない……ネットに散らばる“お宝素材”、勝手に使うと「法律違反」? / デジタルARENAに掲載された日経パソコン誌コラムだが、ネット上での著作権について注意を促す内容となっている。また、この記事についてのはてなブックマークでも、この記事を正しいものとして受け入れている人が多く見られる。

 しかし、この記事には間違いが多い。あまりにも著作権を拡大解釈し、使っていいものまで使わなくさせてしまいかねない。そこで、自分なりに改めてまとめてみたい。

2005年9月25日21:48| 記事内容分類:著作権| by 松永英明
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1 本の表紙画像、勝手に載せても大丈夫?――○

 確かに本の表紙には、表紙の装丁をデザインしたデザイナーや、そこで使われた写真の撮影者の著作権が存在している。しかし、本の紹介として表紙画像を出版物上で使うことは、これまで出版業界の慣例として認められてきた。これはネット上でも受け継がれているようだ。

 もちろん、本の表紙画像のデザインをそのままウェブサイトのデザインとして使ったら、明らかに著作権違反である。しかし、本の紹介として表紙画像を使うのは問題ない。というのも、それは宣伝になるからだ。著作権侵害として訴えられることはまず考えられない。

 もちろん、AmazonやYesAsiaその他のアフィリエイト(アソシエイト)プログラムで提供されている表紙画像を使うならば、絶対安全ということになる。

2 Webサイトに掲載されているニュース記事は流用できる?――○

 著作権法では、「事実の報道」には著作権が認められない。したがって、単純な事実のみの部分については、新聞社・雑誌社・テレビ局なども著作権を主張できない。

 ただし、記者の独自の見解やまとめ方については著作権が発生する場合もある。社説や署名コラムなどは、完全に著作権で保護される対象となる。

 しかし、完全に著作権で保護されている記事であっても、必要な場合には適切に利用できるようにするのが著作権法の中の「引用」規定である。引用にはいくつかの条件があるが、原則は以下のとおり。

  1. 本文が主、引用部分が従でなければならない。単にコピペして一言コメントは不可。
  2. 必要最小限の範囲で引用しなければならない。
  3. 引用部分が地の文と区別されなければならない。
  4. 引用部分は改変してはならない。基本的に誤字脱字もそのままにする。強調する場合は「強調は筆者」といったように明記する。
  5. 出典を明記しなければならない。こんなのは論外で不可。ブログならリンクをつけよう。

 正しい引用方法を守っているならば、ニュース記事を引用することは可能である。

3 最新映画のあらすじをブログで公開した――○

 おおざっぱなあらすじならば、自分でまとめたものであれば著作権に触れることがない。ただし、ネタバレをネタバレと書かずに公開するのは人間としてどうかと思うが。

 日経パソコンの記事では、海外のあらすじの一部を自分で翻訳して掲載すると翻案権に抵触するというが、どういう状況かよくわからない。レビューを書くことが翻案に当たるというのは不可解だ。翻訳権というほうがまだわかる。ただし、海外の映画会社のコメントを訳して載せたところで、それは広告扱いなので、問題となることはあまりないだろう。

4 好きな曲の歌詞をブログに載せた――△

 「例えサビの一部分だけであっても、勝手に掲載するのは違法だ」と言い切っているが、それは嘘。全部掲載は著作権違反だが、一部分ならば、上記の引用の条件を守っていればOKである。歌詞も文章である以上は「引用」の適用を受ける。ただし、これは本当に最小限に留めておくのが無難だ。というのは、JASRACは著作権法の引用規定を無視して独自の判断で「歌詞利用は部分であってもカネを払え」と主張しているからである。

 ちなみに、音データについては「引用」と主張するのは難しいので、無断で音データを掲載するのは完全アウト。きちんと著作権者の許可をもらうなり、JASRACにカネを払うなりして、堂々と使用するといいだろう。

 なお、曲名や、作詞・作曲・編曲・演奏家の名前に著作権がないのは当たり前である。さらに言えば、書籍のタイトルにも著作権は存在しない(だから、他人の本と同じタイトルの本を出しても法律上は問題ない。倫理上は知らないが)。

5 芸能人の画像をホームページに掲載した――×

 この項目は、日経パソコンの記事でも大筋は間違っていない(ちょっとニュアンスが気になるが)。ウェブページに芸能人の画像を掲載するのは、自分が撮った写真でも問題がある。それは、肖像権とパブリシティ権が絡んでくるからだ――というのは原文にあるとおり。写真は、撮影者に著作権があるが、撮影された人には(一般人でも)肖像権があり、有名人の場合は所属事務所などにパブリシティ権があるので、勝手に公開することは認められない。許可をもらえば別であるが。

 だから、アキバBlogみたいに、たまたま写ってしまった人の顔を消しまくるのが一番無難だ。

 よくある違法行為としては、テレビのキャプチャ画像がある。これは著作権的には真っ黒。番組を製作したテレビ局に著作権があるから、許可がなければ本来すべて違法である。たまにならともかく、キャプチャ画像メインのブログは犯罪サイトであると認識すべきだろう。

 芸能人画像をどうしても載せたい場合の逃げ道は3つ。

  1. Amazonなどの商品ジャケット・表紙で顔が写っているものを商品紹介として掲載する。
  2. 似顔絵にする。似顔絵の場合は肖像権が及ばないと考えるのが一般的だ。例:女子十二楽坊資料館
  3. 所属事務所から許可をもらう(たいていもらえないけど)。

最後に

 以上、ほとんどの部分で異論を唱えたい内容の記事だったと思う。その上で、結論はまったく同じなので、原文から引用したい。

 知らずに法律を犯してしまうのは問題外だが、複雑だからと言って危険がありそうなもの全部を排除してしまうのももったいない話。基礎的な知識を身に付けて、ホームページやブログをよりいっそう魅力的なものしてほしい。

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2005年9月25日21:48| 記事内容分類:著作権| by 松永英明
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コメント(6)

いくつかの出版社では表紙画像の使用を許可していないそうです。
http://www.aga-search.com/sub1.html

書影については、禁止とか言ってる出版社もAmazonや他の出版社での使用には何も言わないはずなので、個人向けだけ制約を加えようとしてるわけですね。まあこの辺は実際にどうこう言われることはあまりないレベルだと思います。

TV画面キャプチャですが、画像・動画系っていうのは適切な「引用」にすることがものすごく難しいので、あえて避けて通っている部分もあります(写真や画像の場合、部分を切り抜くと改竄になりかねないが、かといって全部引用はそのままの使用なので微妙すぎる)。ウェブでは報道の検証みたいな真っ当なキャプチャ引用ではなく、アニメのストーリーがわかるように多数の連続キャプチャだったり、アイドルの登場画面をキャプチャしまくったりといったパターンが多いですね。これは真っ黒。キャプチャサイトの大半は黒といえます。
もちろん、適切な引用なら可能という点には異論ありません。あとで上に追記しておきます。

はじめまして。ご意見読ませていただきましたが、芸能人が×で、書影が○と言うのがよく分かりません。「まず訴えられないだろうが、場合によっては訴えられるかも知れない。あとは自己責任で」と言うのは、双方とも同じなのではないでしょうか。それとも、肖像権は侵害しては駄目だけど、著作権は侵害しても良いと言うことなのでしょうか。

簡単に言うと、解釈ではなく、これまでの慣例に基づいて述べています。

他の本の装丁をそのまま使うのがいけないのは当然として、本の紹介あるいは表紙を含む書影は一般に使用されてもとやかく言わないという慣例が存在しています。

一方、肖像権・パブリシティ権については厳しく対処する芸能プロダクション等は多く、たとえばジャニーズ事務所所属のタレントの写真は、ウェブ上で紹介される雑誌の表紙画像からもすべてカットするとか、自分で撮影した写真でも載せていたらサイトを閉鎖に追い込むとか、そういう強硬な慣例もありますし(まあ事務所にもよりますが)、著作権を超えるいろいろな権利が絡んでいて引用や紹介というレベルでは手に負えなくなるので、事実上使えないという話です。

なお、引用の条件が難しいと脅かすのも1つの考え方だとは思いますが、きちんと引用の条件を学ぼうとしないであきらめたり、逆に無視してやりたい放題やることは問題だと思います。「引用は難しいから何も使うな」というふうに「安全圏」に引きこもらせるのはおかしいですね。

慣例があると言っても出版社間の話ではないでしょうか。No.3のリンク先を見る限り、その慣例が一般向けに適用されるか疑問ですね。個人的には、慣例で判断するのは危険だと思いますので、使用する際は出版社に確認をとった方が無難だと思います。将来的にはブログやサイト運営者で団体を作って、出版社と交渉なりルール作りなりを進めるようになるのでしょうね。

Amazonは全ての出版社と契約していた記憶があります。
契約できていない場合は特定出版社の書影が一切ない場合は当然あります。

出版社同士の場合、日本書籍出版協会を始めとした団体に所属しているならクロスライセンス契約に近い相互利用契約が存在したはずです。

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