結核文士の治療記(6)外界との隔離

「膿を出す」のはいいことだとされるが、膿がいつまでも出続けるのも困ったものである。再びの個室、試練は続く。

2006年9月11日13:20| 記事内容分類:書評, 闘病記| by 松永英明
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家賃と郵便物

 新しい個室からは、千鳥ヶ淵を挟んで武道館が見渡せる。眺めがいいのは気休めともなるが、いつまで経っても出られないのも困りものだ。

 あとで聞いたが、ここは岩城さんが入っていたまさにその病室なのだそうだ。

 困ったといえば家賃のことがあった。自動振り込みの手続きがまだ終わっていないので、直接払わねばならず、督促が来ていたのだ。しかし、手元にはそれだけのカネがない。外出食う余暇も出ないので、引き出しにも行けない。

 数日考えて、友人にカードで下ろしてきてもらうことにした。本当は暗証番号を誰にも教えるべきではないのだが、たとえ聞いても悪用するような人ではないと信用して、引き出してきてもらった。家賃は保証会社の人に病室まで取りに来てもらった。また、入院中に自動振り込み手続きがうまくいったようで、翌月からは問題なかった。

 さらに別の友人に頼んで、自宅の郵便物などを持ってきてもらうことにした。あやしいわーるど掲示板の住人で、実は会ったことはなかったが、いろいろ助けてくれるというのでお願いすることにした。鍵を渡して、部屋の中のものも持ってきてもらった。宅急便の不在票が数多く入っていたが、時間切れでどうしようもない。その他、電話代などの振り込み用紙も入っていた。幸い、一か月の間に盗まれたものはないようだった。

 一人住まいの入院は、お金と郵便物がとにかく心配事となる。

ネットのもめごと

 5月の末に、面会に来てくれた友人が掲示板の投稿をプリントアウトしたものを持ってきてくれた。女子十二楽坊の私設ファンサイトが荒らされているというのである。同じ投稿を片っ端からマルチ投稿し、あたかも私がファンの名簿を流用・横流ししたかのようなデマを流して、恐怖心を煽ろうとする悪質なものだった。

 じっくり読んでみると、ファンを装うこの投稿が決してファンによるものではないことがはっきりとわかった。ファンであれば絶対に書くわけのない事実誤認やおかしな言い方が多い。ネットを使えるファンであれば、このサイトが個人サイトとして出発し、やがて人が集まるようになったが、公式サイトとは常に一線を画してきたことは「常識」であるのに、その前提さえも崩れていた。また、ファンであるなら疑問に思ったりしないことを問題視していたり、よほどのアングラ系ネットワーカーでなければ口にしないはずのことも言っていた。

 というわけで、すぐに犯人の目星がついたので、楽坊板の古参であるその友人に代理投稿してもらうよう、メモを渡した。デマについては淡々と事実を述べて誤りを正し、またその投稿がマルチポストや他人名(メンバー名)を騙るというルール違反を犯していることを指摘した。また、この時点で面と向かって指摘するのも野暮なので、楽坊ファンならこういう「人を貶めるようなことはやめましょう」と一般論を記しておいた。それで、犯人も、気付かれたとわかったのだろうか、荒らしはおさまったようである。

再手術?

 さて、肝心の病状であるが、膿はドクドクと出続け、一日2回ガーゼを取り替える。傷口も少しずつ開いてきているようである。好転した感じはしない。それどころか、出る膿も増えているように思える。

 呼吸器の先生によると、結核患者の場合、傷口がなかなかふさがらず、また開いてくることもあるという。過去にもそういう患者がいて、半年くらいかかったそうだ。だから「気長に治療するしかない」し、基本的には毎日飲んでいる飲み薬しか対策がないという。

 あまりに膿が出てくるので、再手術の可能性も検討しているとのこと。しかし、再手術をしたからといってそれで完治するわけではない。もしかしたら何度も手術を繰り返すことになるかもしれない――

 ということで、先生方が協議した結果、週に2回、背中の傷口にストレプトマイシンを直接筋肉注射することになった。6月1日から開始した。血管が少ないところなので、飲み薬が効きづらい可能性もあるからだという。

 筋肉注射は激痛で、また膿を出やすくするためにわざと傷口を開いてガーゼを詰めるのも痛かった。ガーゼ交換は毎日一回、なかなかの苦行である。

 しかし、その傷みにもやがて慣れてきた。そして、ストレプトマイシン効果で傷口も少しずつよくなり赤みも引いてきたのだった。ストレプトマイシンの副作用で耳が聞こえにくくなることがあるそうだが、聴力検査でも特に問題はないようである。

本を買いあさる

 6月に入ると面会に来てくれる人もほとんど途絶え、何もすることがなくなってきた。6月後半に受けるつもりだった検定試験までに退院できるかどうかも怪しい雲行きとなってきたので、勉強にも今ひとつ力が入らない。

 そこでまたテレビを見るようになった。ただし、今回の個室はテレビカードを買わなければならない。1000円で約11時間、1円で40秒足らず。だらだらと見ていると、2~3日でカードを一枚使ってしまうペースになる。

 しかし、このころは秋田の子供殺しの「鈴香容疑者」の話でつまらない。騒ぎすぎだ。テレビもつまらない、パズル誌も解き終わった、勉強ばかりやる集中力にも欠ける。となると仕方ないので、本を読むことにした。個室なので、一応携帯を使っても怒られはしなさそうだ。というわけで、Amazon.co.jpで本を検索し、レビューで評判を確認した上で、楽天ブックスで注文することにした。クレジットカードは楽天カードだけを使っているので、楽天で買えばポイントが2倍になるのだ。どうせDVDもCDも視聴できないのだから、楽天で充分である。もっとも、一部は中古をAmazonで買ったが。

 送付先は病院の個室。ストレスを本で紛らわせようとしたのだった。

 問題はケータイの電池だった。もともとケータイ禁止と言われていたので、乾電池を使う緊急用の充電器しか持ってこなかった。ところが、これで充電できる量は限られている。Amazonで数冊検索するとアウト。楽天での申し込み中に電池切れで消えてしまう。そこで、電池をまとめ買いしたりもした。いずれにしても、最小限の利用しかできないのである。他のサイトを見る余裕など、残念ながら全くない。

 せっかくなので、小説のネタでも暖めようと思い、資料になる本を集中的に購入した。このブログの常連読者の方ならおわかりだろうが、こういう場合、とにかく関連本、特に一次資料に近いものを徹底的に読みまくるのが私の流儀である。諸説あるなら、その諸説を一通り本人の言葉で読んでみる。それぞれに説得力と欠点があるので、片っ端から読むうちに自分の考えがまとまってくるのだ。

6月前半に買った本

外界との分断

 週刊アスキーの連載「仮想報道」で自分のことを取り上げられたと知り、実物を見てみたいと思ったが、なかなか機会がなかった。病室の窓からアスキーの入っているビルも見えるのに、雑誌一つ買えないのである。

 そんな不便を感じていた6月6日の夜、ついにケータイの電池が完全に切れた。充電も不可能。つまり、ケータイがまったく使えなくなったのである。

 実は、乾電池式の充電器は、完全に電池切れになると充電ができなくなる。まだ少し残っているところで充電しなければならない。言い換えれば「外出時に切れそうなときの緊急用」でしかないのだ。完全に切れてしまったら、コンビニの充電器やコンセントからのAC充電でないとだめなのである。

 こうして、ケータイも使えなくなった。もとよりネットは使えない。外出の許可は出ない。個室に閉じこもらなければならないという完全軟禁状態におかれた。外界の接点は新聞・テレビと窓の景色のみ。本を新しく注文することもできない。アウン・サン・スーチーさんの気持ちがわかるような気がする。

 テレビも厳選して見ないと、テレビカードがもったいない。NHK大河ドラマはちょうど本能寺の変の前後だったので、光秀が死ぬ回までは見た。あと、必ず見るようになったのが、昼ドラの「吾輩は主婦である」と、「ウルトラマン・メビウス」。

 それ以外の報道番組には飽き飽きしていた。ただ、その中でも、いい報道がないわけではなかった。6月10日土曜日だったか、朝のみのもんたが出ている番組で、現場から中継しているレポーターのコメントはよかった。みの氏が「鈴香容疑者とはどういう人物だったのか、さらに情報がほしい」と言ったところ、下村レポーターはこういうような内容の話をしたのだ。

「鈴香容疑者については、子供をかわいがっていたという情報と、面倒を見ていなかったという情報があります。しかし、悪い話はご近所さんから出て、近所に広まっている話なんです。あんなことをするのをするのは普通の人ではない、悪い奴だというふうに思いたい心理から、そのおうな話がクローズアップされている可能性がありますから、わたしたちは慎重に取材を進めていきたいと思います」

 まさに正論であり、「悪者」を隔離して自分は悪者じゃないと満足する多くの報道番組やワイドショーに対する批判も込められているように感じた。

 それでも、こういう情報番組には飽きていき、結局、まったく見なくなってしまった。

 その他では、ドラマで渡辺典子を久々に見たときには幸福感を味わった。渡辺典子は何歳になっても最高である。それから、しょこたんと川上麻衣子も見れたので、不幸のどん底ということにはならなかった。

初めての外出

 ストレプトマイシンがよく効いてくれて、傷の方も大分よくなってきた。そしてついに外出許可が出たので、6月17日土曜日、入院後初の外出を果たした。といっても、往復時間含めて3時間なので、買いためた本を自宅に置いてくるのが主な作業である。

 ずっしりと重い荷物を両手に持って駅までの坂を下る。入院前と違って、本来の自分の歩くスピードで歩いていけるのが嬉しい。

 家に着いて、郵便物の束を取り込み、中に入る。そこで異変に気付いた。電気がつかない。どうやら電気が止められているようだ。こわくて冷蔵庫が開けられない。

 6月後半の検定試験は断念したので、教材なども全部家に置いていく。そして100円ショップと本屋で少し購入。またパズル誌を3冊買った。家からはケータイ用AC充電コードを持ってきた。さらにATMで入院費などを引き出し、コンビニでケータイ代などを振り込み。これでタイムアウトである。

 すっかり体力が落ちていて、帰ってきたら筋肉痛になってしまった。

水虫治療

 どうせなら悪いところは全部治してしまえということで、水虫の治療も始めた。結構足の裏がぼろぼろで、新聞・テレビでもしきりに宣伝されている爪水虫もあり、皮膚科にかかることになった。

 結核の薬との相性が悪いので使えない薬があった。そこで、イトリゾールのパルス療法をやることになった。1週間、朝夕食後すぐに4カプセルずつ飲む。その後3週間は薬を飲まずに休み、ということを3か月繰り返す。そして6か月後に爪の状態をチェックするというものだ。薬は6月16日に飲み始めた。

 また、塗り薬も出た。

 薬を飲み始めて数日で効果があらわれた。足の裏も急にきれいになったのである。多少は残っているが、あまりにも変化が大きく驚いた。

 というわけで、水虫のある人はためらわずに皮膚科に行くといいと思う。

6月後半に買った本

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2006年9月11日13:20| 記事内容分類:書評, 闘病記| by 松永英明
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