現代中国語の中の日本語「外来語」問題

産経新聞で、「現代の中国語で、近代の西洋の言葉を翻訳したことばの多くが日本での訳語を採用したものだ」という記事が載った。

相変わらずの産経論調ではあるが、ここで述べられていることは事実である。

さて、ここで参照されている資料が王彬彬氏による『現代漢語中的日語“外来語”問題(现代汉语中的日语“外来语”问题)』という文章である。これはわたしも数年前に見ていて、非常に興味深いので訳しかけたことがあったが、結構長文なのでくじけていた。現在に至るも、全文の完全な翻訳は見あたらないので(一部訳されていないものならあったが)、今回、全文の完全訳に挑戦した。それが完成したので、こちらで公開する。

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2008年8月30日00:09| 記事内容分類:中国時事ネタ, 言葉| by 松永英明
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全文については上記リンクを参照していただくとして、ここでは概説をまとめておこう。

  • 日本の明治維新・文明開化の時代、そしてそれに少し遅れて中国の清末以降、日本と中国はそれぞれに西洋のことばを翻訳していった。
  • 日本人は、漢字を操るが、漢語は母国語ではない。そのため、意味をわかりやすく、上手に訳すことができた。また、古典語の意味とは異なる言葉や、場合によっては意味が逆転するものもあったが(たとえば「民主」は中国の古典では「民の主」すなわち君主のことを意味する)、日本人は融通無碍に翻訳を進めていった。
  • 一方、中国人も独自の翻訳を進めていった。その中で、厳復という人物は、中国の古典に基づき、美しさを重視した「厳訳」の数々を生み出していった。たとえば、日本語の「進化」に相当する言葉として「天演」という言葉を作っている。ただし、これは難しく、知識人にしかわからないといった欠点もあった。
  • ここで登場するのが、梁啓超という人物である(わたしはこの人物に非常に興味を抱いている)。梁啓超は西太后に対抗し、戊戌の政変を起こした清末の改革派であるが、戊戌政変に敗れて日本に留学する。そこで発行した新聞で、日本語もよくわからないのに漢字が読めるからということで政治小説『佳人之奇遇』『経国美談』を中国語訳して載せた。ここで、日本に生まれた訳語がそのまま採用されるという事態となった。梁啓超の清末の中国人革命家における影響力は非常に大きく――たとえば、「四大文明」という概念を生み出したのも彼であれば、「中国」「中国人」という言葉を作ったのも梁啓超である――、それは中国語が西洋の知識を取り入れる際に日本での訳語を採用するきっかけとなった。
  • その結果、産経新聞が記すように、「中華人民共和国 共産党一党独裁政権 高級幹部指導社会主義市場経済-という中国語は、中華以外すべて日本製」という事態に至ったのである。

産経新聞では、「漢字は中国で生まれましたが、その漢字を生かした和製漢語のおかげで中国は世界を知り、学ぶことができたのです」という言葉が記されている。もちろん、この表現はいかにも「産経」的だと思う。淘汰されてすたれたとはいえ、中国の独自訳もあったわけだから、「和製漢語」がなければ中国は世界を知ることができなかったとか、遅れたままだっただろうというような考え方は間違っているとわたしは思う。

ただ、中国で生まれた漢字が、日本で新たな言葉を生み出し、それが中国での訳語を駆逐して中国本土で採用されるに至ったという経緯については、非常に興味深いと思う。日本と中国は長い歴史の中で互いに学びあってきた。相手のよいと思えるところは素直に採用する。お互いにそういう態度があれば、お互いに成長することができるだろう。

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2008年8月30日00:09| 記事内容分類:中国時事ネタ, 言葉| by 松永英明
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コメント(3)

興味深く拝読しました。産経的表現というところにも納得です。日本人が勝手に作った訳語も、本国日本では最近はカタカナに駆逐されていっているような気がしますね。

ところで最後から二つ目のパラグラフがきちんと終わっていないような気がするのですが、いかがでしょうか。

閾ペディアのほうで「丑学」とあるのは「醜学」としたほうがいいです。「丑」は現代中国での「醜」の略字です。だから美学と対比しているわけです。

mewさん、mujinさん、ありがとうございました。修正いたしました。

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