幸福実現党の研究(6)衆院選の主要政策三本柱
実は、最初は『ザ・リバティ』7月号(「幸福実現党」結成!特集)と書籍『幸福実現党宣言』をもとに検証しようと考えていたのだが、『新・日本国憲法試案』でその要旨はほとんどカバーされてしまった(本研究第4回参照)。また、この間に東京都議会選挙があり、そして解散総選挙が行なわれることとなった。そのたびに、強調される部分は変化してきた。
幸福実現党の政策・思想のひとまずの締めくくりとして、幸福実現党オフィシャルページの「幸福実現党|幸福実現党の主要政策」を検証したい。もっとも、これは2009年8月の最新版である。幸福実現党の主張そのものは結党以来数か月、特に変わっているわけではなく、ただ、強調される部分や順序が違っているだけである。したがって、現時点での最新の表現をもとに、『幸福実現党宣言』の内容を参照するかたちで検証を進めたい。
なお、幸福実現党が結党以来行なってきた「行動」についての検証は、衆院選終了後に回したいと思う(最初のうちは、幸福実現党の発表する候補者の中で有名人や士業の人たちをピックアップしていたのだが、あまりにも変化が激しいのでそのうち追いかけきれなくなってしまったというのもある)。
■幸福実現党の研究シリーズ一覧
(1)新型インフル/(2)オバマ守護霊/(3)ノストラダムス/(4)憲法試案/(5)金正日守護霊/(6)主要政策/(7)活動年表/(8)得票数・率/(9)陰謀説/(10)ゆくえ
■主要政策 3本柱(2009年8月)
幸福実現党|幸福実現党の主要政策ページによれば、衆議院選での三つの政策として「消費税ゼロ、北朝鮮の核ミサイル阻止、GDP世界一」が掲げられている。
■1. 大減税による消費景気で、日本を元気にします。
・消費税、相続税、贈与税を全廃します。
冷え込んだ消費を喚起するため、大胆な減税路線をとり、消費税、相続税、贈与税などを全廃します。
3年以内に所得税や法人税も下方シフトします
・年率3%の経済成長を果たし株価を2万円台に乗せます。
積極的な金融緩和で資金繰りに困る企業を徹底支援します。大胆な減税、規制緩和で3%以上の経済成長を実現します。証券税制を全廃し、日経平均株価を2万台に乗せます。
減税することによって消費が増えるという。経済への国の介入ではなく、減税という形での景気回復策。それはまさに、「新・日本国憲法試案」でも語られたとおり、「小さな政府」的な発想である。
『幸福実現党宣言』第3章質疑応答「2 税金問題について」では、日本人は倹約型なので消費税率を上げても財布のひもが固くなるだけだ、消費税率を上げたら不況になる、という趣旨の回答がなされている。
一方で、課税最低限度額が決まっていて、年収がいくら以下だと税金を払わなくてよいのはおかしい、「税金を払わず生活保障ばかりを求める人は一部いてもかまいませんが、そうした人が数多く増えてくるような時代となっては、やはりよくありません」という考え方を示している。
消費税は上げないし、所得税や法人税も下方シフトするというが、「最高税率は五割もあれば十分です」というように、収入の高い人たちについてのことであって、低所得者層が課税されない現状を改め、安くてもよいので支払わせる、という考え方が示されている。
一方で、金融緩和により企業を支援するという。『幸福実現党宣言』では第3章質疑応答「7 経済政策について」ではこう書かれている。
幸福実現党を第一党にしていただけたならば、日経平均株価を、今の九千円台から、絶対に、二万円を超える状態に持っていきます。(中略)
今、潰れかかっているような各企業が、みな立ち直って元気になり、売り上げが伸びていけば、株価はそうなります。
そのためには、どうすればよいでしょうか。
資金の流れが止まったら経済が機能しなくなるので、金融関係が資金を出すようにしなくてはなりませんが、その資金が不良債権にならないよう、強くバックアップする体制が必要です。
したがって、やはり、金融面での力強いバックアップを行いたいと思います。
このように、まずは金融関係を強化します。金融機関、すなわち、銀行をはじめ、資金を提供する機関を徹底的に強化して、そのバックアップを行います。
そして、困っている企業が、大企業も中小企業も零細企業も資金援助を受けられるようにしますし、また、新しい起業家に関しても、どんどん融資を受けられるようにします。
ひたすら融資し続けて焦げ付いてしまった首都銀行東京の惨状を思い出してしまうのだが……。
■2. 北朝鮮のミサイルから、国民の安全を守ります。
・「毅然たる国家」として独自の防衛体制を築きます。
北朝鮮は、早ければ年内にも核ミサイルを完成させると言われています。北朝鮮が核ミサイルを日本に撃ち込む姿勢を明確にした場合、正当防衛として、ミサイル基地を攻撃し、日本を守ります。
・憲法9条を改正し、 国民の生命・安全・財産を守ります。
緊迫するアジア情勢の中にあって、国民の生命・安全・財産を確実に守るために、憲法9条を改正し、国家の防衛権を定めます。
アジア情勢が緊迫しているという主張の一つには、「金正日の守護霊」の発言が証拠として出されていることは、すでに検証した。それにしても、他の政党がまったく「北朝鮮の攻撃」を話題に上げておらず、国民の間でも北朝鮮のミサイル問題が重要政策課題の順序としては高いとはいえない現状において、こればかり強調するのは、選挙戦略的にもどうかと思ってきた。
ところで、幸福の科学の「防衛体制」であるが、ここに書かれたように、ミサイル基地を先制攻撃するというものである。それを実現するためには、国連をはじめとする国際社会の承認が必要だと思うのだが、それを認めさせる外交努力については述べられず、ただ憲法九条を改めるという国内向けの方針だけが語られている。
そして、幸福の科学は、ドクター中松を候補者とした。ドクター中松教授(と呼んでほしいと本人が希望)はドクター中松ディフェンス(DND)、いや、現在は「ドクター・中松ミサイルUターンディフェンスシステム」というらしいが(「【伝説の候補者列伝】(2)ドクター中松氏 「今回の選挙にも、秘策となる発明がある」」:イザ!参照)、これはミサイルを空中で180度方向転換する発明だそうである。
2003年のAll About記事からの孫引きになるが、週刊新潮のインタビューに、ドクター中松ディフェンスの仕組みとして、「まず、日本が独自に開発した偵察衛星で飛来するミサイルの位置情報をキャッチする。そして弾頭に埋め込まれた方向制御装置に信号を送り、90度づつミサイルを180度回転させる。」と述べている(北朝鮮のミサイルは「DND」がけん制!? ドクター中松は日本を守れるか? - [発明・アイデア商品・新技術]All About)。
ところが、ミサイルは慣性で飛び続けているので、方向制御装置に信号を送るだけで方向転換して元の場所に帰っていくなどということはありえない、という、物理学的な指摘がある。たとえば、ブログ「閑寂な草庵 - kanjaku - ドクター・中松と幸福実現党」によれば、
以前にも書いたが、弾道ミサイルは、ブースト段階の数分を過ぎれば、それ以降は慣性に従って放物線を描いて飛んでくる。
大雑把にいえば、発射後数分間に全ての推進力を使い果たし、あとは地球の重力に引かれて落ちてくる。
ドクター中松氏の提唱するミサイルディフェンス(ドクター中松ディフェンス=DNDというらしい)の中身は、「ミサイルの弾頭に信号を送ってミサイルを反転させる」というものだが、「ただ落ちてくるだけ」の弾頭の軌道を変えることが可能なら、弾道ミサイルより圧倒的に低速のホームランボールをUターンさせることなど朝飯前だろう。
というのだが、私もこの見解に賛成する。
もっとも、ここではドクター・中松教授の発明の妥当性を云々するのが本筋ではない。幸福の科学の先制攻撃という方法論と、「ドクター・中松ミサイルUターンディフェンスシステム」が根本的に矛盾するということを指摘したい。
先制攻撃するなら、ミサイルは飛んでこない。したがって、「ドクター・中松ミサイルUターンディフェンスシステム」は必要ない。逆に、「ドクター・中松ミサイルUターンディフェンスシステム」を使うためには、ミサイルが飛んでこなければいけないから、先制攻撃をしてはいけない。まさに、なにものであろうと貫く最強の矛(先制攻撃)と、なにものであろうと貫くことのできない最強の盾(DND)。その矛とその盾、両立はしない(これが「矛盾」の語源である)。どちらかがあればよいはずだ。
■3. 積極的人口増加策で、2030年にGDP(国内総生産)世界一を実現します。
・3 億人国家を目指します。
人口増加策によって、人口3億人と、GDP(国内総生産)世界一を実現し、財政や年金の危機を克服します。
・少子化問題の原因となっている「住宅」「教育」「交通」のボトルネックを解消します。
広くて安い住宅の供給、「塾にたよらない公教育」による教育費の負担軽減、全国的なリニア鉄道網建設や高速道路無料化などによる「交通革命」(通勤圏の飛躍的拡大)などを実現し、子育てしやすい環境をつくります。農村部では農業参入自由化などによって、雇用と居住者を増やします。
・海外からの移民を積極的に受け入れます。
在住外国人が日本語を習得する機会を増やすなど、外国人が住みやすい街づくりを行います。
この内容については、二つの観点がある。一つは、人口三億人にするための、海外移民受け入れ政策。もう一つは「交通革命」や「職住近接できる広くて安い住宅の供給」である。
東京都議会選挙のときには、このあたりがかなり強調されていた。特に、リニアなどを使って交通革命を行うという主張が一方にあり、もう一方で高層化による職住近接を実現するという政策が述べられていた。
高層化による職住近接。たとえば、六本木ヒルズと六本木ヒルズレジデンスである。高層化することによって多数の人が住むことができ、それであいた空間を緑化する、という、六本木ヒルズ型の都市計画は、ル・コルビュジエの「輝く都市」構想に由来する(森ビルの森稔氏はル・コルビュジエ信者である)。そして、日本にも多くのル・コルビュジエ礼賛建築家がいる。というより、ル・コルビュジエを悪く言う人は少ない。
しかし、それによって下町型の街が破壊されるのも事実である。私は、ル・コルビュジエ型の「輝く都市」計画がうまくマッチする場所と、そうでない場所があると考え、研究しているところである。
ところで、ここでは高層化による職住近接が是か非かということを論じたいわけではない。「交通革命」と「高層化による職住近接」が矛盾するということを指摘したいのである。
つまり、リニア等により交通革命が進めば、通勤可能圏が格段に拡大する。私の知っているあるデザイナーさんは群馬県の前橋から都心へ毎日新幹線通勤していたのだが、リニアによる交通革命が本当に行われたら、それくらいの距離の通勤ならごく普通のことになるだろうし、あるいは関東と中部くらいなら通勤圏になることも考えられる。とすれば、職住近接の必要がなくなるということである。職住分離が可能となる。交通網の発達とインターネット(などの通信網)の発展により、極端に言えば、日本全国SOHO化だってありえると私は思う。私が妄想すれば、日本全国首都化計画だってありえる(外務省は福岡、文部科学省は京阪奈、等々に分離しても何とかなるんじゃないか、と妄想したりする)。
話を戻すと、交通革命があるなら、職場と住宅は決して物理的に近くある必要はないのである。都議会選挙の時に私は「なんでこんな矛盾するものを並べて出してくるかな」と思った。
さて、もう一点、人口三億人にするための海外移民受け入れ政策である。それは無差別に外国人に参政権を与えることではなく、日本に五年以上住み、犯罪を犯さず、日本語能力があり、そして日本のために従軍できる外国人を受け入れることである、と動画で述べられている。そして、いろいろな民族や宗教が入ってくることで、新たな文化が生まれると言っている。
私は、幸福実現党を「エスノセントリズム」(自民族中心主義、自文化中心主義)と規定したが、類義語である「ショーヴィニズム」という言葉をあえて使わなかった。ショーヴィニズムは日本では「排外主義」と訳されることがあり(Wikipediaでは「ショービニスム」が「排外主義」に転送される)、また「male chauvinim(男性優越主義)」という言葉で使われることもある。原義のショーヴィニズムは確かにエスノセントリズムとほぼ同義で使われるが、「排外主義」という言葉になってしまうと、完全にニュアンスが異なってしまう。そして、Wikipediaに書いてあることを調べ直さずに信じる人が多い現状、ショーヴィニズムという言葉を安易に使うと、あたかも私が「幸福実現党は排外主義だ」と言ったかのように受け取られかねない。
しかし、幸福実現党は、移民を認める。多くの右翼民族派が移民を排斥することを述べているのと対照的に(その代表格がネオナチである)、なんと(計算上は)日本の人口一億二千万人を上回る一億八千万人の移民を受け入れると言っているのである。日本人が過半数を占められなくなってしまうのである(まあ、もともと日本人は何層にもわたる日本列島への移民者によって生まれた混成民族であるし、あるいはわずか五万年ほど前にさかのぼれば、現生人類の共通の祖先が出アフリカを果たしたのであるから、何の違いがあるものか、ということになるのだが、幸福実現党がそういうことを考えているとは思えない)。
人口を移民によって増やしたとしても、少子化や介護福祉問題が解決するわけではなく、単に先送りされるだけの話である。そして、日本列島は、三億人を養えるだけのキャパシティを持っているとは思えない。
また、億単位の移民となれば、その志願者の多くが中国(特に農村部からの「盲流」)の出身者であることは間違いないと思われる。日本語学習がネックだろうが、五年くらいおとなしくして軍役を受け入れることなど、彼らには何の障害でもない。
日本の人口を増やして日本経済を世界一にする、というくらいなら、むしろアジア経済圏(カスピ海から極東までの範囲)を構想した方が現実的だと思う。なぜそこまで幸福実現党は(日本人が過半数以下になるという極端な移民政策まで持ち出して)「日本」という国の繁栄にこだわるのだろうか。そこまで移民を受け入れたら、もはやそれは日本の繁栄じゃない、と突っ込みたい。逆に言えば、それは皮肉なことに、日本人だけではもう立ちゆかないという諦めでもあると思う。
ここまで「日本」という「国」の枠組みにこだわり続ける幸福実現党。そして、「宗教国家にします」という宣言以外に、これらの政策に宗教的なものを一切感じることができなかった。これらの政策に、「愛」や「平和」は感じられない。ただ、金銭・財産的な「繁栄」と「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を求める気持ちだけである。
「神仏の存在を認め、正しい仏法真理を信じる人々の力を結集して、地上に、現実的ユートピアを建設する運動を起こすつもりである」と、『幸福実現党宣言』には書かれている。しかし、地上のユートピアのための政策は、エスノセントリズムとナショナリズムでしかなかった。
「仏法真理」というのであれば、せめて、E・F・シューマッハーの提唱する「仏教経済学」について言及すべきではないか。シューマッハーは著書『スモール・イズ・ビューティフル』で「仏教経済学」という概念を提唱している。
しかし、この「仏教経済学」は幸福の科学の「繁栄」とはまったく逆である。シューマッハーはこう述べる。「消費は人間が幸福を得る一手段にすぎず、理想は最小限の消費で最大限の幸福を得ることであるはずだからである」「モノの所有と消費とは、目的を達成するための手段である。仏教経済学は、一定の目的をいかにして最小限の手段で達成するかについて、組織的に研究するものである」(『スモール・イズ・ビューティフル』p74,75)。
この仏教的な考え方からは、「日経平均二万円」や「GDP世界一位」などといった言葉は生まれるはずがない。すなわち、幸福実現党の地上ユートピアには、仏法はないのである。
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