シャープ「ガラパゴス(Galapagos)」登場で考える「勝てる電子書籍リーダーの条件」

シャープから新しい電子書籍リーダー「GALAPAGOS(ガラパゴス)」が発売されることとなった。しかし、その製品をぱっと見ての感想としては、「iPadもどき」としか思えなかった。

汎用機器iPadは正直「イマイチ」――読書専門機器キンドルとの対比、電子書籍のレイアウト[絵文録ことのは]2010/06/01」で書いたように、iPadとキンドルはまったく別の機器である。だからこそ、iPadかKindleか、という選択肢はある意味ナンセンスで、本を読むならKindle、いろんなことをしたいならiPadと割り切ればよい。しかし、ガラパゴスとiPadの違いはほとんど見えてこない。

実質的に今、電子書籍リーダーはiPadとKindleの二大巨頭が優位に立っている。Sony ReaderやSharp Galapagosをはじめとする第三極が「生き残る」ために必要な進化の条件は何かを考えてみた。なお、私は「iPadよりKindle派」であることを最初に明記しておく。以下の文章もそういう偏りがあるはずだ。

2010年9月29日13:35| 記事内容分類:機器, 電子書籍| by 松永英明
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1. 読むためなら断然E Ink

読書のためには、自ら光を発する液晶画面(透過光)は見づらい。一方、紙の本はもちろん、Kindle・Sony Readerの採用するE Inkは反射光で、自ら光を発しない。透過光と反射光の根本的な違いについては「Amazon Kindle(アマゾン・キンドル):「反射光の電子ブック」という革命的に新しいメディア[絵文録ことのは]2009/12/28」で書いたとおりである。実際に私がKindleを見せたとき、ほとんどすべての人が初見で言うのは「読みやすいね」ということだ。そして長文を読み続けられることは私自身が体感している。PCのモニターでこんなに読み続けたら疲れてしょうがない。

つまり、もし読書体験ということを追求するのであれば、E Ink一択で他の選択肢はない。

  • E Ink反射光:Kindle、Sony Reader
  • 液晶透過光:iPad、Galapagos

その点、Sony Readerは「E Inkなのにタッチパネル」ということで、Kindleよりも一歩進んでいるといえる。

2. 「母艦」PCなしで本を購入・読書できること

PCに接続できてもよいが、PCに接続しないと使えないのではまったくだめである。単体で使えること、親となるPC(母艦)がなくても(つまり、電波が通じる限りいつでもどこでも)本が買えることは非常に重要だ。

私はKindle 3ユーザーだが、無料の3Gを使って電車の中でKindle Storeに入り、興味のある本のサンプルをまずダウンロードする。ボタンを押してから数十秒待てば読み始められる。ある程度読んで、全部読んでみたいと思えばそこで購入。再び数十秒待てば、一冊の本を手に入れることになる。これがすべてKindleだけで完結する。「すぐ読める」。これは必要不可欠な条件だ。もちろん、PC内のpdfなどをUSBで接続したりすればコピーできるのだが、母艦は「あれば便利、なくても困らない」。

Sony ReaderはDaily Editionのみ3G/WiFi対応だが、Touch Editionは未対応。これが全機種3G/WiFi対応すればまさにKindleを脅かす存在になりえると思う。

iPadでは母艦PCは「なくても一応使える」が、機能を生かすには母艦が「ないと不便」。これがiPadの弱みでもある。

一方、ガラパゴスは母艦PCも接続環境も必要。これではだめである。

3. 目的ははっきりしているか

Kindleは、「本を読む」ことに特化された機器である。それに不要な機能はあえて削る。それが、愛書家の心をわしづかみにしている。

「カラー版キンドルはすぐには出ない」「キンドルストアとデバイスは別ビジネス」ベゾス氏発言[絵文録ことのは]2010/05/26」でまとめたように、「キンドルは読むことに集中する」という機能限定機器である。私は機能限定のこだわり機器に弱いので当然のようにポメラの愛用者でもあるのだが、ポメラ・キンドルのコンビは最強である。

この点、Sony Readerも同じ発想の傾向にあるのではないかと思う。

一方、iPadとGalapagosは「何でもできる」を売りにしていこうとしているように見える。少なくとも「電子書籍も動画もアプリも」という流れである。しかし、何でもできる電子書籍リーダーは、小さなPCと何が違うのかがわかりにくい。「何でもできる」は「別になくてもよい」につながりやすい。

「もうiPadに飽きた」という声はツイッターなどでも散見される。だが、「Kindleに飽きた」という人は寡聞にして知らない。そもそも、Kindleは飽きる対象ではない。読書すること自体に飽きない限り、Kindleには飽きないのだ。Kindle=読書体験なのである。

そもそも、本というのは時間軸と切り離され、一覧性に優れたメディアだ。それは、どうしても時間に縛られる音楽レコードや動画と比較すればわかる。それを同じ画面で組み合わせることは、ネットでは当たり前になってきたものの、「読書デバイス」としては必ずしも必要不可欠とは言い切れないのである。

4. 縦書き・ルビ問題

KindleのAZW形式(実はMobipocket形式そのまま)も、iPad/iPhone等で主流のePub形式も、西洋から出た規格であるため、縦書きやルビに未対応だ。今、縦書き・ルビ対応については日本から提案が進んでいるが、現状ではやはり「電子書籍で縦書きをしたければPDF」というのが実態と思われる。

しかし、シャープのXMDF規格は縦書き・ルビにフル対応している。言い換えればこれこそ「ガラパゴス電子書籍リーダー」としての真骨頂ではないだろうか(名称的にも意味合い的にも)。CJK(日中韓)での表示に最適化されたアジア圏向け電子書籍リーダーとしての地位を確立するなら、「いやあ、縦書き本なら断然iPadよりGalapagosだよね」と言う人が出てくるだろう。

そのためには、組版関係者も納得するレベルでの整形表示を実現すること、XMDF規格をオープンな規格として開放し、ePubとの連携を持たせて世界基準に持って行くことである。

今の電子書籍リーダーにないもの

KindleにもiPadにもSony ReaderにもGalapagosにもないが、必要と思われる内容を列挙してみる。

  • 文字サイズを変えてレイアウトが変わったとしても、注釈(脚注)を本文の注記の必要な箇所と常に同じページ(画面)内に表示させる機能。ポップアップではなく注記欄を分けて表示されること。これは、特に電子教科書や語学書においては必要不可欠な必須機能である。本文とは別の形で注釈がどれくらいの分量存在しているかを同じページで示すことは、表現における重要な課題である。
  • 新聞紙大の電子ペーパー電子書籍リーダー(折りたたみ可)が出てきたとき、紙の本は一気に電子化の流れを示すだろう。これはもちろん、ファッション系大判雑誌見開きサイズの電子書籍リーダーなどの登場を意味している。そのときこそ「この本はこのサイズのリーダーで読みたい」という要望をかなえることができるようになる。同じデータが表示されていても、版面の面積が違えば実は別の表現物だ、ということに人々が気づく時代がいずれ必ずやってくる。
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2010年9月29日13:35| 記事内容分類:機器, 電子書籍| by 松永英明
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