松本復興大臣の発言の一番の問題点は「中央が上・地方が下」意識

宮城県庁を訪れた松本龍復興大臣の発言が波紋を呼んでいる。村井知事が大臣より後に入ってきたことに対して怒りを表明し、さらに「今の最後の言葉はオフレコです。絶対欠いたらその社は終わりだから」とも付け加えた。

しかし、この発言を東北放送(TBC)がニュースで報じたことから発言が拡散し、全国メディアでは一部の局しか報じなかったこともあって批判が起こっている。

この松本大臣の発言にはいろいろとツッコミどころがあると思われるが、その中でも一番の問題点は「中央が上、地方が下」という中央集権的意識ではないかと思う。

2011年7月 4日12:21| 記事内容分類:日本時事ネタ| by 松永英明
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松本大臣の発言

松本復興大臣「(知事が)先に部屋にいるのが筋だよなぁ」

笑顔で現れた応接質村井嘉浩知事に対して、松本大臣は握手を拒否。要望書は受け取ったが、その後、このような発言が出た。

「(水産特区は)県でコンセンサスを得ろよ。そうしないと我々なにもしないぞ、だからもう、ちゃんとやれ」
「今、後から自分(知事)入ってきたけど、お客さんが来るときは自分が入ってからお客さんを呼べ。いいか、長幼の序がわかっている自衛隊なら、そんなことやるぞ。わかった?はい。しっかりやれよ。(報道に向けて)今の最後の言葉はオフレコです。いいですか、みなさん。いいですか、はい。絶……書いたらもうその社は終わりだから」

ちなみに、「自衛隊」という言葉は、村井知事が陸上自衛隊東北方面隊(ヘリコプターパイロット)、宮城地方連絡部募集課に所属していた元自衛官(退官時は一等陸尉=大尉相当)だという事実を踏まえたものと思われる。

また、この前に会談した岩手県の達増知事に対しては「おれ、九州の人間だから、東北が……何市がどこの県とか、わからんのよ」とも述べている。

松本大臣の中央集権的「上から目線」

「自衛隊は年齢順ではないから「長幼の序」ではない」というような批判は些末な言葉尻であって、松本大臣の発言に潜む本質とはさほど関係がない。

最も重要なのは、松本大臣の「上から目線」である。それも「単に偉そうだからむかつく」という次元の話ではない。「政策なり恩恵というものは、上である国家から、下である地方に対して《下賜》されるもの」とでもいうような「中央集権的意識」を背景にしていることが最大の問題なのである。

政府と県と被災者が「話し合う」とか「協議する」とか「協力する」という関係(まさに「協」の字に象徴される関係)であれば、絶対に「お客さんが来るときは自分が入ってから」とか「長幼の序」という言葉は出てこない。国と県では役割が違うだけで、それぞれに分担して行政をやっていく必要があるというのに、あからさまに上下・優劣をつけている。

岩手県の会談では「知恵を出したところは助けるけれど、知恵を出さないところは助けない。そのくらいの気持ちを持ってやらないといけない」と述べたと報じられているが、これだって「知恵を出した・出さない」「助ける・助けない」を判断するのは国だ、という上から目線である。

松本大臣の発言や態度は、大日本帝国憲法に見られるような「地方は中央の出先機関」「お上(中央)の言うことを受け取るのが地方」という意識が背景にあるといえる。これは、道州制など地方分権を進めたい民主党のマニフェストとも正反対の、逆行する意識であるといえよう。

松本大臣(昭和26年生)が村井知事(昭和30年生)や達増知事(昭和39年生)に対して、年長者としての発言をしただけだという反論もあり得るかもしれない。だが、たとえ首相であっても「ご協力いただきたい」というように相手を尊重した物言いをするのが本来のあり方ではないか。しかも、協働の相手ではなく「お客さま扱いしろ」と言っているのである。

もしわたしが松本大臣の立場にあれば、同じ趣旨のことでもこのように述べるだろう。

「政府ががんばっても地元で意見が一致していないと難しいので、水産特区については県で県民との間にしっかりとコンセンサスを得ていただきたい。そこは県でないとできない仕事です」

「政府にお願いしますというだけでは、復興はうまくいかない。政府と地方がそれぞれに知恵を出し合い、協力しないとだめ。でないと、助けたくても助けられないという状況が出てくるかもしれない。これから一緒にがんばっていきましょう」

松本大臣の言いたかったことを最大限好意的に解釈すればこういうことになるだろうが、この大臣が「地方自治体は中央政府に従属するもの(さらに言えば被災者は自治体に従属するもの)」という「中央集権型の上から目線」を根本的に捨てない限り、復興対策大臣は復興の妨げとしかならない。

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2011年7月 4日12:21| 記事内容分類:日本時事ネタ| by 松永英明
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コメント(1)

数ある松本復興大臣に関する批評の中で、最も公正で納得できる意見だと思いました。他の記事では、松本市に関する、特に関係もない個人攻撃などがひどすぎるので非常に不愉快なものでしたが。
また「中央集権的」というキーワードも、よくぞ言ってくれたと思いました。これは地方軽視・過疎放置の政府の態度を如実に表しています。

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