文学フリマでのサークルスペース・ディスプレイ・デザイン
文学フリマは非常にシンプルなイベントである。文学というタイトルではあるが、実際には広く「文章系同人」のイベントととらえるのがよいだろう。いわば文フリ会場は「ロゴススフィア」といえる。
あるいは紙の本の愛好者の集まりでもある。そこで表紙デザインを含めたレイアウト、装丁といったものも「表現」の一環として捉えられている。あえてシンプルにして文字の力を強調する人もいるし、一方でフルカラーの凝った表紙を作ろうとする人もいる。わたしも以前は一色刷だったが、前回・今回はフルカラー表紙にし、今回はついにイラストを描いてもらった。
そんななかで、わたしはおそらく少数派だと思うのだが、与えられた長机の上の空間、すなわちサークルスペースのディスプレイ・デザインについても非常に凝りたくなってしまうのである。本をよりよく見てもらうためにはどうしたらよいか。手に取るためには目に入らなければならない。
おそらくわたしが文フリに参加しているのは、書き手でもあり、編集者でもあり、デザイナーでもあるだけでなく、棚の見せ方に工夫を凝らす書店員としての意識もあるのだと思う。
以下、今回のレイアウトに至る経緯である。
前回までの流れ:平面から立体へ
文学フリマの「1ブース」の面積は、90cm×45cm。決して広くはない。
わたしが最初に文学フリマに参加したのは第5回(2006年)。薄っぺらい冊子一つでの参戦で、いわゆる同人誌即売会的なものに出店者として参加するのも初めて。レイアウト的にはほとんど工夫をしない状態であった(ただ、こういうシンプルなのも文フリっぽい感じではあるし、実際にこれが主流である)。
ちょっと間が空いて第9回(2009年)のときのスペースレイアウト。机の上に平積み+見本のみ立てかけであるが、基本的に「机の上から見下ろす」パターン。このとき、隣がトルタさんで、鬼のように本を積み上げてゴージャス感を出していたので、非常に刺激された。
次いで第10回(2010年春)。紙袋をつり下げるポールを導入したが、基本的に平積み主体の平面レイアウト。お客さんは机の上から見下ろさないと何が何だかよくわからない。ただし、この回からの工夫として、自作したヴィレヴァン風POPを制作。目を引くことには成功した。
第11回(2010年冬)。「三菱東京UFJ銀行に合流した全銀行の系統図年表」というA2サイズの作品が登場したので背後に「壁」ができた状態だが、他の新刊含めすべて卓上に平積みである部分は従来と同じ。平積みの後ろにプライスリストなどを置いて立体化の試みはあるが、床と背後の壁のL字形状態である。
第12回(2011年初夏)。お客さんが近くまで来てのぞき込まなくても、遠くからの横からの目線で見えるように、本を立てた状態で見せたいと考えて導入したのがA5サイズの冊子を4冊立てられる卓上パンフレットスタンドだ。2つ買って2000円程度の出費である。ここに透明カバーをかけた見本を置いた。さらに前後で高さを変えるべく、100円ショップのキッチンコーナーにある積み重ね整理棚を導入した。
この写真でもわかるが、とにかくモノトーンである。作った本の色自体が薄い単色系で、どうしても地味になる。何か色を入れたい。
また、フォトスタンドなどを利用して立てたものを見せているが、面積も小さく、かえって見づらい感じもする。できれば本自体をすべて立ててしまいたい。
第13回での徹底的計画
そこで今回の第13回では、「本を平積みではなく立てて見せる」「色使いを増やす」ことを目指した。そこで百円ショップを物色していたところ、実にちょうどいいカラフルなワイヤーかごが見つかったのである。パステルもしくはPantone風の色でちょうどいい。A5サイズの本をちょうど立てて入れられるのだ。4つ色違いで購入した。さらに積み重ね整理棚も3色見つかり、これでスペースを構築することにする。以上、税込み735円。
事前にシミュレーションしてみようと考えて、今回はGoogle SketchUpというフリーソフトを導入した。本来はGoogle Earth用の建物3D素材を作るためのソフトだが、簡単に3Dで作るにはちょうど手頃であった。それで計画したところ、自分の思っていたようなレイアウトができそうだった。
また、サークル名を今まできちんと表示していなかったので、新刊表紙とサークル名のそれぞれの卓上POPを発注した。1枚約900円×2。その他、値段を示すための「L型カード立」をハンズでカゴの数に合わせて購入。値段をわかりやすく示すのもポイントである。テーブルに敷く布は「ことのは」のイメージカラーである黄緑色の布を90×90cmでハンズで切ってもらってちょうど税込み500円だった。
というわけで、Google SketchUp画像と、実際の会場での設営状況を並べて示そう(実際には後でヴィレヴァン風POPを追加している)。
サークルスペースのディスプレイ・デザインには「正解」はない。多くのサークルはこんな立体化など望んでもいないだろうし、多くのサークルが卓上での広げ方に工夫を凝らしている。その中で、どうしても本を起き上がらせて見せたがる酔狂な人間がこんなことをしてみた、という記録である。こういう「売る本の見せ方」もわたしの中では「表現」の一要素だ。
まあ、丸パクリだけはご遠慮いただくとして、(逆に悪い例としてであっても)何かの参考になれば幸いである。
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