下北沢を中心とした再開発の動きの中で、いま「グリーンライン下北沢」を考える動きが活発になってきています。これからしばらく、この話題を追ってみたいと思います。
下北沢再開発の現状まとめ
東京都世田谷区の下北沢の再開発については、大きく二つの要素があります。一つは「小田急線複々線化・地下化工事」という鉄道の問題であり、もう一つが「補助54号線・区画街路10号線」という道路の問題です。この二つは本来は別のものなのですが、予算的には密接に絡んでいるというややこしい状況です。
とりあえず、予定より遅れてはいるものの、小田急線の地下化工事はすでに進んでいます。一方で、道路の方はまだ着工されていません。
下北沢の再開発問題について、小田急線の地下化そのものについては反対は現在ほとんど見られません。開かずの踏切解消や駅のバリアフリー化などについて、駅デザインや構造について意見は出されているものの、地下化自体に反対という声はほとんどないのが現状です。
一方で、すでに栄えている商圏のど真ん中に広い道路を通すことについては、賛否両論の激しい議論が展開されています。これは、東西を結ぶ幹線道路としての補助54号線と、駅前ロータリー整備の区画街路10号線の計画ですが、ロータリーによって外国人観光客にも評判の高い「下北沢北口驛前食品市場」がなくなるなど、数々の問題があります。
そして、地下化工事と道路の工事がセットで認可されているため、慎重論があるにも関わらず、道路を「作らねばならない」という前提がありました。
また、下北沢では駅周辺に商業地があり、そのすぐ外側を住宅地が取り囲んでいます。古くからの住人、新しい住人、道路の通る北口の商店街、道路の影響のない南口の商店街、本多劇場に代表される演劇・音楽の街に集まる人々、東大・明大などの学生……。それらの人々の間に微妙な対立意識もあり、意見もまとまりにくい状況にあります。
ただし、東日本大震災後、状況は少し変わっています。元社民党の保坂展人氏が区長となり、防災の観点も含めてこの下北沢再開発問題を根底から見直そうという流れになってきているのです。
グリーンライン下北沢
さて、これからしばらく扱いたい「グリーンライン下北沢」は、小田急線の地下化と結びついています。
新宿に近い方から、小田急線の東北沢駅、下北沢駅、世田谷代田駅の三駅が地下化されます。ということは、当然、その「あとち」に空白地帯が生まれることになります。
全長2.2km、幅40メートルの巨大な「あとち」が、都会のど真ん中に突如生まれることになるのです。このあとちをどのように利用するか。それが「グリーンライン下北沢」という仮称で考えられています。
地図はこちらをご覧ください。Googleマップの航空写真に、駅名や通り名だけを入れてあります。しかし、東北沢駅・下北沢駅・世田谷代田駅をつなぐ空間として、航空写真でもわかるくらいの幅のラインがはっきりと見えると思います。
日本においては、これまで線路の立体化はほとんどが高架化によって行なわれており、今回のように地下化によって地上部に広大なあとちができるという事例はほとんど経験していないようです。
法的には、あとちの所有権は85%が鉄道会社、残り15%が自治体ということになっているのですが、これも従来の高架下は用途が限られることなどから決められた数字で、グリーンライン下北沢の場合はこれまでとは事情が異なっています。
世田谷区の案では、全体を歩けるように(また緊急時に緊急車両が通れるように)歩道を整備するということにはなっていますが、具体的にどのような空間にするかについてはどうしても「お役所仕事」としての制限があるようです。一方、小田急については駅舎付近のデザインぐらいしか提示されていないのが現状です。
そこで、近隣の住民をはじめとしてあとちの利用に興味のある人たちが、その利用法について考え始めています。
最近の動向
2011年の動きをまとめておきましょう。
- 3月「あとち世田谷区案」に対して世田谷区が意見募集
- 3月11日 東日本大震災
- 4月 世田谷区長に保坂展人氏就任
- 7月「小田急線あとちを考える会(あとちの会)」 が「グリーンライン下北沢」 に改称
- 9月 世田谷区が「小田急線上部利用オープンハウス」を開催
グリーンライン下北沢3回連続セミナー開催『みんなでつくるグリーンラインと下北沢』
- 第1回 10月30日 -- 「みんなでつくるグリーンライン~2.2キロのランドスケープを考える~」 -- 「ニューヨーク、高架鉄道あとちが公園になった!ハイライン・レポート」 -第2回 11月10日 -- 「グリーンラインとまちづくり~世田谷の公共交通・線路のあとち利用を考える」 -- 「下北沢から新しいまちづくりと公共交通・あとち利用を考える」 -第3回 12月4日(予定) -- 「みんなでつくるグリーンラインと下北沢~公共空間を楽しもう!」
このように、みんなで考えていくという前向きな動きが始まっているのは、非常によいことだと思います。
住人・商人・来訪者のすべてにとって「よい空間」を作れるならば、それは全国的にも注目される事例となるでしょう。昔からの住人(特に高齢者が多い)も、下北沢の雰囲気や文化が好きな若い人たちも、商店主も、みな喜べる空間をいかにして作っていくか。
わたしはこのプロジェクトに強く興味を持っています。連続セミナーにも過去2回続けて参加しました。第3回にも参加予定です。それだけではなく、このメルマガという媒体を持っているわけですから、自分自身のアイデアも出していきたいと思っています。
できるだけ多くの人がいろんなアイデアを出す。それが今大切なことなのです。批判よりもまずは自分の案を出すことです。
前提となる話
ケヴィン・リンチは都市を五つの要素に分類しました。
- 移動路=パス
- 境界=エッジ
- 地区=ディストリクト
- 結節点=ノード
- 目標=ランドマーク
下北沢では特にパスとノードが目立ちます。
下北沢駅自体が「ノード」の最たるものといえるでしょう。それは、新宿と小田原を結ぶ小田急線、渋谷と吉祥寺を結ぶ京王井の頭線という二つの「パス」の交点です。また、南北のラインとして茶沢通り・鎌倉通りが駅近くを通り、また環七も少し西を走っています。
わたしが最近強く思うのは、パスは同時にエッジでもあるということです。特に強固なパス、すなわち通行量の多い道路や線路は、一方で二つの場所をつなぎながら、その左右の交通を遮断してしまいます。小田急の場合は、いつまで経っても踏切が開かない「開かずの踏切」がありました。この存在自体が、「エッジとしての小田急線」の性質を示しているように思われます。 世田谷代田の駅近くにはかつては中原という地区が栄えていましたが、環七が通ることで分断され、今はその面影はほとんどありません。
96号(有料版)「水の東京を訪ねて東京水辺ライン」のときには、逆にこれまで「エッジ」だと思ってきた隅田川がまさに「パス」であるということを体感しました。川もまた「エッジ」であり「パス」なのです。
ディストリクトは、ひとまとまりの街の雰囲気といえばいいでしょうか。下北沢駅周辺の低地=沢の一帯が商圏になっているのに対し、そこから少し丘を登るとすぐに住宅地が広がります。これほどの規模の商業的な街のすぐ近くに住宅街があるというのは、世界的に見ても珍しいそうです。これは、下北沢が丘と沢のある起伏に富んだ地形であるということも関連していると思います。
リンチの5つの要素は、必ずしも揃っていなければいけないものではありません。下北沢の場合、無理に「ランドスケープ」を設定する必要はないでしょう。特に視覚的なランドスケープとしては、高い建物が低地に建てられていることもあって、建物の形自体の印象はさほど強くありません。あえて言えばスズナリなどの印象的な場所はありますが……。
リンチの都市の5要素をざっと見てみましたが、次回から、これまでのセミナーなどで学んだことなど含めて自分の案を作っていきたいと思います。
グリーンライン下北沢3回連続セミナー 第3回告知
12月4日(日)13:30~16:30 代沢小学校講堂(体育館)
「みんなでつくるグリーンラインと下北沢~公共空間を楽しもう!」
- 保坂展人(世田谷区長)
- 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授)
- 太田浩史(建築家/東京大学生産技術研究所講師/東京ピクニッククラブ)
- 柏雅康(しもきた商店街振興組合理事長)
- 吉田圀吉(下北沢南口商店街振興組合理事長)
- 渡辺明男(おやじネット下北沢代表)
- 首藤万千子(羽根木プレーパーク世話人)
- 高橋ユリカ(グリーンライン下北沢代表)
モデレーター:小林正美(明治大学理工学部教授)
- 主催:グリーンライン下北沢
- 共催:しもきた商店街振興組合
- 後援:世田谷区
- 協力:下北沢南口商店街振興組合、おやじネット下北沢
ちらしの写真はこちら→ http://bit.ly/tjmUbg
グリーンライン下北沢 http://www.greenline-shimokitazawa.org/
いろいろな立場の人たちが勢揃いする有意義なパネルディスカッションになりそうです。
101号より無料化!無料分バックナンバーは全公開しています。
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