創刊の言葉
1 「ゲニウス・ロキ」?
はじめまして。
「絵文録ことのは」というブログを開設している松永英明と申します。
このたび、「松永英明のゲニウス・ロキ探索」というメールマガジンを発行することとなりました。
「ゲニウス・ロキ」?
耳慣れない言葉です。
おそらく、聞いたことがないという方がほとんどでしょう。
これは、ある場所の歴史、土地の記憶といったものを指す言葉です。
ある場所における建築計画、あるいは都市計画には、その土地にまつわる歴史的経緯ですとか、由来・由緒といったものを考慮する必要があるという考え方です。→詳しい説明は「ゲニウス・ロキ」を参照。
狭くは、ある一軒の家を建てる際の環境、広くは「東京」「ローマ」といった都市レベルでのゲニウス・ロキが考えられます。いずれにしても、それぞれの「場所」には「歴史」や「雰囲気」がまとわりついているものです。
東京の街を例に挙げましょう。
「渋谷109」や「ギャル」といった言葉と密接な関係のある、おしゃれな若者の街「渋谷」を基準に考えてみます。
渋谷のギャル要素をさらに純粋に高めたのが「原宿」「代官山」です。
渋谷のようなおしゃれ至上主義とは対極の趣味の街が「秋葉原」。ただし、秋葉原の「オタク」傾向は渋谷でも受け入れられています。
「新宿」は渋谷よりも年齢層が高くなります。
「巣鴨」は、「おばあちゃんの原宿」として知られています。
それぞれの街には、それぞれの雰囲気があります。それは、歴史的な経緯を経て作られてきたもので、少しずつ変化しながら、新しい雰囲気を作り上げています。
かつて「麻布日ヶ窪町」というところがありました。ここには、古墳もあったようです。江戸時代には町屋と並んで毛利家の屋敷がありました。赤穂四十七士のうち、10人がこの毛利邸で切腹しています。また、この屋敷は、明治時代の有名な軍人、乃木希典の生まれたところでもありました。
ここには戦後、ニッカウヰスキー東京工場が建てられます。さらにテレビ朝日本社が引っ越してきました。さらに、この「六本木六丁目」一帯は再開発によって、六本木ヒルズとして生まれ変わります。「日当たりのよい窪地」が時を経て「ヒルズ」に変わっていく歴史は、非常に興味深いものです。これは改めて掘り下げてみたいと思います。
東京だけでは面白くありませんので、今度は京都の話を。
わたしは京都にいたとき、千本中立売(せんぼんなかだちうり)の近くに住んでいました。この近くにはヤクザの事務所も数軒あり、銭湯に行くと立派な刺青の兄さんたちを見かけたものです。ここは、かつて水上勉の小説にも書かれた「五番町」遊郭の一帯でした。そういえば、住んでいた古い長屋も、遊郭っぽい雰囲気を出していました。
ところが、さらに歴史をさかのぼると、この一帯は平安京のど真ん中、天皇の御所の横にあった「宴の松原」という場所だったのです。千年の都の歴史の中で、天皇の館のあった場所が、応仁の乱では西の陣、すなわち「西陣」の一画となり、さらに遊郭へと変化して、そして今はひっそりとした街並みとなっています。
2 場所の記憶、都市の歴史で社会を読み解いてみる
土地の記憶、町の歴史を知ることで、その場所に積み重なった人々の暮らしや思いがよみがえってきます。
「住めば都」と言います。生まれ育った場所も、一時期住んだだけの場所も、それぞれに住人の思い出や記憶とつながっています。
その場所の持つ雰囲気や歴史、すなわち「ゲニウス・ロキ」は、無意識のうちにそこに住む人たちに影響を与えているのかもしれません。
グルジア共和国における南オセチア自治州の独立問題も、場所にまつわる複雑な歴史を抜きにしては語れません。中国共産党とチベット・台湾・東トルキスタン問題も、やはり「場所」にまつわる観点を欠かすことはできないでしょう。
現生人類はすべてがアフリカに起源を持ちます。そして、アフリカから出て世界全域に移ってきました。その歴史の中で、それぞれの土地にゲニウス・ロキを作り上げてきたともいえます。
ゲニウス・ロキを読み解くこと、それはわたしたちの住む環境を広く考えていくことにつながるのではないでしょうか。
それは、学問では人文地理学(社会地理学、都市社会学......等々)や、社会学、社会心理学、あるいは建築学(都市計画、ランドスケープ論)などに関わるものです。また、中国で発展した「地理風水」は、今の流行りのインテリア風水と違って、環境地理学ともいえる思想でありました。さらに発展させれば、地政学などとも関連してくるでしょう。
3 メルマガ【松永英明のゲニウス・ロキ探索】について
このメールマガジン【松永英明のゲニウス・ロキ探索】では、このような「場所」にまつわる視点で、さまざまな出来事を見ていこうと考えています。
風水師とまではいかずとも、場所に関する視点を持つならば、日々歩いている風景の中で、いろいろな意味を読み解くことができます。そして、ただ通り過ぎていただけの場所が、歴史の重みをもって訴えかけてきます。
そのような視点をもって見たとき、街並みはこれまでとはまるで違ったもののように映るかもしれません。あるいは、今まで見逃していたものを見つけることができるかもしれません。
読者の皆さんに少しでも考えるヒントを提供できればと考えております。
また、読者の皆さんからのご要望がありましたら、参考にさせていただきたいと思っております。
よろしくおねがいいたします。
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