ウェブログ民草ジャーナルの可能性について
blog::TIAOのMAOさんが、「一人民草ジャーナルをweblogでやってみて」というまとめ記事を3回に分けて書いている。今回の「神舟5号」関連についての振り返りだ。ウェブログとジャーナリズムについては、やはり編集・ライターとして触れざるを得ないテーマである。以下、長文。
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(旧: )
■マスコミと民間ジャーナリズムは「補完」の関係
最初に断っておくが、自分は「マスコミVS民間ジャーナリズム」という対立構造は想定していない。マスメディアでしかできないこともあるし、逆にマスメディアだからできないこともある。個人や自発的グループでは無理なことも多いし、逆に、民間だからこそできることもある。
プロの漫画家の人で、わざわざ同人誌を書いてコミケで売っている人がいる。もちろん、儲けだの手間だのを考えれば、単行本を出すことに専念した方がいいに決まっている。だが、同人誌でしか書けないこと、どうしても同人誌の形でやりたいこと、同人誌だからできることもあるわけだ。日本のガチガチの会社組織からそういう人が生まれるかどうかはわからないが、大手メディアの記者だが、ウェブログでスクープを飛ばしてみる、なんて人も出てくるかもしれない(最近、ニュースステーション降板が決まってからお菓子エッセイを怒濤のように更新し始めている渡辺真理アナウンサーは要注目だ。笑)。
■民草ジャーナリズムはこれから
このへんの話は日経トレンディ等で書いている武田徹氏の関心領域に入っていくのだろうが、そろそろ本題のMAOさんの話に入ろう。まずは以下の3ページを参照のこと。
・一人民草ジャーナルをweblogでやってみて・・・(1) ・一人民草ジャーナルをweblogでやってみて・・・(2) ・一人民草ジャーナルをweblogでやってみて・・・(3)
乱暴にまとめてみると、「神舟5号について、個人(あるいは数人)が独自に情報を流そうとしたが、思ったほどの反響はなかった。だが、民間が関与できる余地のある情報もあることがわかった。たとえば海外発の日本情報、日本で流れにくい海外情報だ」。そして、こういった分野の情報については、
民草ジャーナルはもし多くの人々が参加してその情報がネットワークとして集約されるようなシステムが確立すれば、現在のマスメディアを補完する以上の働きが可能だと思う。と結論づけている。
これは正しいと思う。もちろん、これ以外にも色々なジャンルでマスメディアを「補完する以上の働き」ができそうである。
それでは、さらに細かい部分について答えてみる。
■誤情報が流されることを怖れる必要はない
(1)の記事の中では、特にYahoo!掲示板などで誤った見解が流布されていた、という点が検証されている。もちろん、Yahoo!にしろ、2chにしろ、感情的な議論が目につきやすいというのも事実だし、その程度の浅い投稿に流されやすい人が多いのも事実だと思う(私は衆愚という言葉を否定しない)。だが、少し調べてみようという人なら、いくつかの手順を踏んだ末にMAOさんのページにたどり着き、そして真実を知るだろう。
インターネットはデマも流れやすいが、真実も(埋もれつつも)存在しうる(誰かが発信する必要はあるのだが)。「ファミレスのすかいらーくは美空ひばりにちなんで名付けられた」のがデマで、「ひばりヶ丘店が由来」という正しい情報もちゃんと手に入る。
少なくとも、MAOさんがきちんとしたサイトで見事に反論している以上、両方の情報を目にした人にどちらが説得力があるかは言うまでもないことであり、反論できる場所があること自体に意味があると思う。
■アクセス数は妥当なラインではないかな
(2)の記事は、思ったより神舟情報へのアクセスが少なかったとのこと。しかし、これは致し方ない部分がある。そもそも、日本人にとって海外情報は興味対象としては薄い。しかも、東洋への関心は明治維新以来低いままだ。
もう一つのネックは、公開しているウェブログそのもののgoogleでの位置づけが低いということ。googleではすでに定番のサイトで、なおかつ更新の多いサイトはすぐに情報が取得されるが、そうでなければデータベースさえも満足のいくものではない。MAOさんのサイトもまだまだこれからだし、「ことのは」に至ってはほとんどデータがないような状況である。これが半年、一年後には状況も変わってくるだろうと思う。googleで検索して引っかかるかどうか、は、そのテーマに関心のある人をどれだけ集められるかに直結する。
また、ウェブログをやっているからといって、その目的は何か。ジャーナリスティックな方面に関心のあるウェブログ、というだけでも日本では少数派だろう(最近の「氷山」調査を参照するまでもなくわかる)。ましてやその中で中国に興味があるか、あったとしても宇宙旅行にロマンを感じられるかどうか、といったら、非常に狭い。
狭いからこそ、商売にはならないし、マスメディアの隙間ともなったわけだ。話題性がある上、他に問題がないはずなのにマスメディアが取り上げないと言うことは、世間での関心が低いということでもある。売れない話題の本は、今でも弱小出版社からしか出なかったりするのである(涙)。
■メディアがやらない隙間は確かにある
(3)では、MAOさんは将来の民草メディアに期待を持っている。つまり、マスメディアが取り上げない分野があるということがはっきりしたということだ。そのとおり。スポンサーの関係で、あるいはその他の理由で書けないこと、でもだれかがやってほしいことをやってみせる。そこに「民草ジャーナリズム」の本懐があると思う。
■民間ジャーナリズムはどこまでやれるか
『博客――E時代的盗火者』では、第1章に
1 2003年6月、ウェブログによって記事捏造が暴かれたニューヨークタイムスの記者ジェーソン・ブレアとハウエル・レインズ編集主幹、ジェラルド・ボイド編集局長が辞職に追い込まれた。(関連記事:NYタイムズ捏造の構図、ブランドを汚したボスたちの責任、NYタイムズ編集トップ、ねつ造問題で引責辞任)
2 イラク戦争において、ウェブログの情報が既成メディアにまさっていた。(関連記事:速報イラク戦争 ネットで特集続々、イラン 自由に意見を語れたが・・・)
3 アメリカのトレント・ロット上院議員の人種問題がブログに取り上げられ、騒動になり、辞職に追い込まれた。(関連記事:大手メディアに警鐘を鳴らす「ブロガー」たち)
4 9・11テロで、ブログはマスメディア以上の生々しい情報を伝えた。これを契機にブログは社会現象となった。(関連記事は多いので一つだけ:米国同時多発テロ事件とウェブログ)
5 ドラッジ・レポートは、クリントン大統領のルインスキー・スキャンダルを大々的に報じ、各メディアが追随して一大事件となった。(ただしドラッジは、ウェブログツールを使っているわけではないし、当時からブログと名乗っていたわけでもない)
『博客』の著者は、このように「ブログが既成メディアに勝った」ということを強調しているので割り引いて考える必要があるが、確かに民草メディアにその潜在力はあるはずだ(ただし、朝日新聞に好意的に取材してもらって喜んでいるようではダメだ。既成メディアからどうせ素人だし、とバカにされていることがわからないのだろうか。本当に既成メディアの脅威となるような民草メディアなら、無視されるか、それとも潰しにかかってこられるか、それを乗り越えた末に対等に尊重されるかだ)。
■日本ではまだ「民間メディア」のパワーは弱い
日本ではどうか。ドラッジ・レポートを目標として創刊された【サイバッチ!】は、今や既成マスコミからは蛇蝎のように嫌われる存在となっている。それだけにヒットすれば大きい。最近は有料メルマガにシフトしているが、独自メディアとしてはむしろ健全かもしれない。
あとはどうかなあ。オタク情報系は別とすれば(オタク産業自体がそういうサイトと持ちつ持たれつだし)、「論談」とか「探偵ファイル」もちょっと商売っ気というか下心が見え隠れしてしまうので……。
あとは「萬晩報」や「ほぼ日」などがあるが(形態的にはこれはグループウェブログと言えるな)、もう少し飛び出たこともやってほしいところだ。
と、全然「狭義の」ブログじゃない話に終始しているが、英米ブログは9・11から注目されたこともあって政治がらみのものが多いけど、日本のブログ界隈にはほとんどそういうのがないでしょ? ブログ界隈の話と、新製品の話と、日常の日記と、あとニュースへのコメントが大半。他人のことは言えないが(それに自分自身、ここを政治問題ブログにするつもりは毛頭ないのだから言う権利すらないのだが)、「日本のジャーナリスティックなウェブログ」をピックアップしろというほうが難しい。あえていえば「田中宇」や「佐々木敏」あたりになってしまうが……。(ほかにあればぜひご教示ください)
■ネタは必ずヒットするわけではない
出版企画をいろいろ持ち込んだりする上でいつも感じているのは、「売れそうにない企画」というのはすぐに見て大体わかるが、「売れてもいい企画」の中でどれが実際にヒットするかは、まさにフタを開けてみないとわからないところがある、ということだ。つまり、売れそうにない企画は捨てることができても、残った中でどれが売れるかはまるでわからない。
だから、「売れるだけの要素を持っている企画」を次々とぶつけてみて、そのなかでいくつかヒットすればOKという感覚だ。野球選手でも打席ごとにヒットを出すわけではなく、トップバッターでも3割程度。ネットでも「これはいける!」と思ったネタのうち、3回に1回当たれば十分素晴らしいんじゃないかな。ましてや、ホームランともなれば、毎試合打てる方がおかしい。
その意味では、神舟ネタはヒットのうちに数えていいと思うし、今後に道を開いていると思う。こんな感じで「あ、このネタはほかでやってないぞ!」というのを見つけて公開する。そうやってるうちに、いつか大ヒットやホームランが出るはずだ。
マット・ドラッジもそれまでいろいろ「裏ネタ」を流してきた。その中の一つがルインスキー・スキャンダルだった。【サイバッチ!】だって、裏取りのない誤報とどうでもいい芸能ネタの嵐の中にまぎれて、所沢ダイオキシンのスクープとか、長崎の少年殺人事件の犯人少年の実名とかがヒットするわけである。
このサイトでも、狙いすましたタイトルを付けてみたりすることがある。「女子十二楽坊」関連記事で「12人の妹の力」という記事を見つけたときは、一部方面でウケるかと思ったが空振りに終わった(笑)。しかし、神舟5号のヤン中佐の名前を銀河英雄伝説とまぎらわしく書いてみたのは、DJノラさんに爆笑してもらえた。読者の反応はしばしば期待を裏切ってくれて、それはそれで面白い。
これはジャーナリズム以外でも同じだと思う。テキストサイトの代名詞となった「侍魂」も、先行者ネタでブレイクしたが、残念ながらその後、先行者を超えるネタはついに出なかったのも事実。一つの大きなネタの影には、無数の「埋もれたネタ」があって当然なのだ。
あと、明確な計画性なしに「毎日更新」とか「週何日更新」とかにこだわらないことだな。ネタがなければ放置すればいい。あれば数時間おきでも書く。そのほうが内容的には充実すると思う。【日刊プチバッチ!】(【サイバッチ!】有料版)が平日は毎日配信しているのは、金を取っているのだからそうする義務がある。でも個人ブログには更新の義務はない。
このウェブログは、あまりジャーナリスティックに行こうと思っているわけではない。ただ、関心のあるネタで、出してみたら面白そうだなと思うものを勝手気ままに出していくだけ。別にブログでも日記でもニュースサイトでも何でもいいのだが、MTの使い勝手はなかなか悪くないので使っている。別に「ブログ」をやろうと思っているわけではなくて、今のところブログという形式が更新するのに楽というだけのことである。もっといい(自分の表現したいものをよりよく表現できる)ツールが出てくれば、多分、じきに乗り換えると思います。
そうそう、今までのサイトだと逆リンク依頼が来たり、他のサイトからの言及を明記しようとすると面倒だったのが、トラックバックで勝手に他の人にリンク集追加をやってもらえるようになったのは楽ですね(笑)。関連記事からのトラックバックはどんどんやってください。
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(旧: )
松永さんが書いてくれるかな・・・、と少し期待していたら、期待以上に、いや本人以上に明晰に分析してくれたのでとっても嬉しいし、非常感謝。
>マスメディアが取り上げない分野があるということがはっきりしたということだ。そのとおり。スポンサーの関係で、あるいはその他の理由で書けないこと、でもだれかがやってほしいことをやってみせる。そこに「民草ジャーナリズム」の本懐があると思う。
・・・「民草ジャーナリズム」といっても、ぼくとしても社会正義を振りかざしたり、告発したり、運動をしようなんてこれっぽっちも考えていない。
・・・ただ、ぼく自身もこの日本という社会に暮らしているし、それなりの愛着もあるので、将来変なことになって欲しくないし、なるのが嫌なだけ。
・・・日本人っていつも欧米からどうみられているのか、自分たちは特殊でおかしいのではないのか、というようなコンプレックスがあったと思うし、そういった日本人論はいつも本屋にたくさん並んでいるから、きっと人気もあるのだろう。しかし、そういった誰かが造ってくれた「物語」に安心するのじゃ、これからはちょっと心もとない。
・・・昔のように海外情報が貴重で、手に入らなかった時代には、マスメディアや学者さんたちがその方面の専門職として情報を独占しても仕方がなかったのだが、いまは違う。
・・・日本的な身近な、安心できる関係の世界にまどろんでいないで、ちょっと窓を開ければ外にはもっといい風が吹いていたりする。それが誰にでもできる時代になったのだから、外へ関心を持って見てみようよ、ということなんだ。
・・・急成長する中国だって怖がっていてはいい関係は出来ないので、相手のことを知ったり、話してみればいい。意外といい友だちなれたり、仕事のパートナーにもなれるかもしれない。
・・・「民草ジャーナル」ってのはそういった外(別に外国じゃなくてもいい)への関心を自分で見つけて、それを人へ伝えることで新しい関係が生まれ、それは自分にとってもきっと役に立つ、ということをいいたいだけ。
・・・ハーメルンの笛吹きがこれからどんどん増えてくるから、判断は自分でしないといけない。そのための判断材料も自分で見つける必要がある。その気にさえなれば、きっと仲間も見つかるだろう。
インターネット放送局「くりらじ」は、Real Network 社の提供する Real
Media の技術を採用し、インターネットで音声(一部番組は画像付き)発信を行うインターネット放送局です。
放送時間は24時間。インターネットに接続したパソコンだけがあればお好きなときにお好きな番組をお楽しみいただけます。
…とのことです。
「CNNみたいなぁ~」
クリラジ初の国際ニュース番組!!。
海外留学経験のあるす~さんと不法入国経験者Dr.Kがお届けする国際ニュース番組です。日本ではニュースで取り上げられないソースを中心にお届けします。10月25日更新。アメリカ大統領選挙2004 プレビュー
・・・の話から、どんどん膨らんで、秋の特別番組に(笑)。。
ちょっと(?)長めの放送になってますので、覚悟して(笑)お聴きください(^^;
…とのことです。
http://radio.c-studio.net/20031025/cnn.html
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