ゴーストライターズ2「著者のネームバリュー」の呪い
前回の記事「ゴーストライターとは何者か」には色々と反響があった。特に「ゴーストの名前も、編集協力者など何らかの形で出した方がいいのではないか」という意見が目立つ。この辺は出版社の意向もあるようだが、例えば「担当編集者は裏方なのだから、名前を出さない」というところは、ゴーストの名前も出さないのが普通。逆に担当編集者の名前が必ずあとがきに入っているようなところでは、そもそもゴーストライターを使うようなことが少ないかもしれない。
さて、今回はその反響の中にあった「有名ゴーストライター」さんの情報と、あと「出版業界ではなぜ著者のネームバリューがここまで重要視されるのか」という話を少し書いてみたいと思う。
●ゴーストライターズ
■知ったかぶり週報より重松氏のことは知りませんでしたが、すごい人だ。見習おう。本の片隅に「取材・構成/○○○○」と入っているケースも見られるが、書かれていないケースのほうが多いか。ちなみに、ゴーストライター出身で最も有名になったのが作家の重松清氏。小説を書き始める前の著書は100冊以上と言われ、うろ覚えだけど「わずか18ページのインタビュー原稿を膨らませに膨らませて1冊のタレント本を書いた」伝説もあるとか。これぞプロ中のプロの芸。
・重松清さんインタビュー ちなみに、あとがきとかで「ライターの○○さんには多大な協力をいただいた」とか書いてあれば、ほぼ間違いなくゴーストさんですね。
菜ノ花彩さんのことは知りませんでしたが、アニメの登場人物かよ!ゴーストライターといえば菜ノ花彩さまですね。
「ゴーストっ!ゴーストっ!!ゴーゴーゴーゴーゴーストッッ♪!!」
しかし競作という形でもいいから名前を出して欲しいかも。
・十兵衛ちゃん2スタッフ&キャスト「自由の父親で小説家。といえば人聞こえはいいが、実は時代劇小説を書く優秀なゴーストライター。自由はそんな父に、ゴーストライターではなく自分の小説を書いてほしいと願う。娘想いのよき父親。」
小説のゴーストは難しいぞ。
●著者名の呪い
出版業界ではなぜ著者のネームバリューがここまで重要視されるのか。それを説明する前に、まず出版業界の流れを知っておいてもらわなければならない。出版社が本を作ったら、それは「取次」と呼ばれる会社に流れる。取次は、本の問屋さんと思ってもらえればいいだろう。現在、日販とトーハンの2大取次会社が君臨しており、あといくつかの小さな取次会社がある。そして、取次から一般の書店に「配本」されるのが普通である。もちろん、出版社からの「直販」というルートもあることはあるが、面倒な手間が増えるので、直販ではなく取次の方が好まれる。
さて、この「取次」は、今の出版流通で大きな力を持っている。出版社がいい本だ、売れる、と思って部数を刷ったとしても、取次が「こんな本売れねーよ」と思ったら仕入れてもらえない。いくらいい内容の本でも「これは売れ筋ではない」と取次に判断されたら、在庫を抱えてしまうということになる。
もちろん、取次の判断は常に正しいというわけではなく、「蓋を開けてみたらベストセラーであわてて出版社に発注」という場合もあるわけだが……。また、書店の側が「配本してくれ」と注文しても、取次の方が「どうせ売れないからこれくらいでいいだろ」と、希望された冊数を卸さないこともあるようだ。このへんは書店員さんに聞いてください。
では、取次さんのおおざっぱな判断基準は何かというと、極めて乱暴にまとめてしまえばこういうことになる。
・今、そのテーマが話題になっている。
・似たような本やシリーズがすでに売れている。
・この人の本なら売れるだろうという有名人が書いている。
つまり「実績のある本」は有利ということだ(これは本を買う読者がそういう消費行動をしている、という裏返しでもあるのだが……)。
そうなると、出版社の方もある程度はこの取次さんに買ってもらえるような作り方をする必要が出てくる。いくら内容がいい本でも「ブームではない本」は余裕があるときにしか出せない。今みたいに出版業界全体の経営が苦しい時代には、どうしても上記3項目に当てはまる本が中心となる。
この中でも重要視されるのは「著者のネームバリュー」だ。話題になっているテーマを扱っていて、まったく同じような内容でも、やはり有名人が書いている本の方が売れるわけである。そこで、なんとかして有名人の名前を本に載せたいと考えるわけだ。有名人が自分で書いてくれる余裕があればいいが、そうはいかない場合、以下のようなやり方がある。
・ゴーストライターを使って、有名人の書いた本として出版する。
・本文はライターや編集プロダクションが書いて、有名人が「監修」する(有名人が内容のチェックはしており、その責任は監修者のものとなるが、実際の作業はライターである)。なお、翻訳の場合「監訳」という形で有名人の名前を借りることもある。
・有名人の「インタビュー」や「対談」を少し入れる。
・有名人の「解説」を巻末に入れる。
・有名人の「推薦」が帯に入る。
これらの合わせ技もあるが、上から順に有名人への依存度が高いことになる。でも、著者が無名だったりすると「誰か推薦でも入れられませんかねえ」みたいな話が取次から来たりする例も実際にあるようだ。
それだったら最初から全部有名人を著者にして、ゴースト使えばいいじゃん、という出版社があってもおかしくはないわけである。
なお、コンピューター本やインターネット本、あるいはオタク向けなどの専門分野では、著者名より実用性という面もあるので、必ずしも著者ネームバリューにこだわってはいないようである。また、小さな出版社では、専門的で誰も知らないような人の本をこつこつ出しているところもあるが、当然、経営は苦しい。
こういうと何だかさもしく感じられるかもしれないが、大出版社でも「売れ筋の本で儲けたら、その余剰で、売れ筋でなくてもいい本を出す」という発想があったりする。必ずしも「売らんかな」の姿勢だけというわけではないので、誤解なきよう。とにかく、出版社が倒れてしまったら元も子もないのだ。
- 【広告】★文中キーワードによる自動生成アフィリエイトリンク
トラックバック(1)
鉤(文春文庫) ドナルド・E.ウェストレイク著 木村 二郎訳 久しぶりに翻訳物を読んだ。伊坂幸太郎を読んだときに、解説にウェストレイクの名前が出ていたし、このミス第5位とい... 続きを読む
なか○にあきひろ先生のように、
常人では考えられないペースで、
本を出している人ってのは、どうなんでしょう?
口述して、誰かがテープ起こししてるのかな?
それとも…
テレビドラマのシナリオについてもゴーストがいる場合があるそうです。大抵なの売れていない新人の作品で、スポンサーを安心させるために、既に売れているライターの名前を使うのだと聞きました。本当かどうかは分かりませんが…。
本題と関係の無い質問で恐縮なんですが、アマゾンなどのネット書店の場合も、取次との力関係というのは通常の書店と同じようなものなのでしょうか?(アマゾンも取次を利用しているんですよね?)
あー、amazonの話は書きかけてやめにしたんですが(笑)、Amazonは取次を利用しつつ、ものによっては直接版元出版社から仕入れているようです。将来的には、Amazon自体が取次・販売の機能を備えていくようになるのかもしれません。というのも、今までの取次は、実際に日本全国の書店に本を「配本」させる必要があったわけですが、ネット書店だと直接配送なので、力関係は変わってくる可能性があると思います。
それ以前に、Amazonは事前注文に対して予約特典をきちんとつけるべきだ! 具体的には女子十二楽坊カレンダー(笑)。一般CDショップで買ってればカレンダー付いてたのに!
……あ、これは関係ないですね(笑)
はじめまして。てるゆきと申します。
で、いきなりオフトピで申し訳ないのですが
>Amazonは事前注文に対して予約特典をきちんとつけるべきだ!
の部分に反応してしまいました・・・・:-)
ゲームソフトでも予約特典がつかないんですよね、Amazonって。
でも出荷側からすると予約分として処理されてるはずですよね?
その分のノベルティとかって、一体どこに行っちゃうんですかねぇ。不思議。
まぁ、ポスターだのクリアファイルだのが欲しいという訳ではないんですが・・・・
あ、ゴーストライターの話でしたね。
自伝とか随筆とか暴露本とかで代筆・代編をするのは全然アリだと思います。というか、
そういうのってそもそもゴーストライターって呼ばれないんじゃないかという気も。