恵方巻商戦2012コンビニ8社全比較分析(附:コンビニ売上高グラフ)
当サイトではこれまで「恵方巻」の起源と歴史について扱ってきた( 恵方巻 - 閾ペディアことのは)。
これに加えて2011年の恵方巻商戦の状況などを加えた記事を、第12回文学フリマで発行した冊子『事物起源探究2011』に収録してある。
今回はこの事物起源探究2011に掲載した調査から1年を経て、2012年のコンビニ8社の節分恵方巻商戦を定点観測的にまとめてみた。
恵方巻について
以下、『事物起源探究2011』より一部自己引用する。
恵方巻きは「切らずに、一気に、黙って、恵方を向いて食べる」のがルールであり、少々滑稽な雰囲気を醸し出すのが大阪発祥らしさを示している。なお、一気に食べるというのは、かぶりついたら最後までくわえたまま食べきるということである。途中でペースダウンしてもよいが、口から外してはならない。そして、その間はものを言ってはならない。当初は早食いも行なわれていたが、あまり本気でやると喉につまるので無理はしなくてよい。なお、「笑いながら」と付け加える作法情報がネットで散見されるが、それは何か別の風習と混同した誤った情報である。
なお、この「巻きずし」(関西式)は本来、すし飯に高野豆腐、厚焼玉子、カンピョウ、シイタケ、三つ葉などを巻き込んだ海苔巻きのことを指す(関東でいう太巻き寿司にあたる)。ただし、近年はスーパーやコンビニの展開の中で異なるタイプの巻きずしや、そもそも寿司でさえないロールケーキなどを関連商品として販売する例も増えている。
現存する最古の確実な資料としては、昭和七年の宣伝チラシの存在が確認されている。昭和五十二年ごろにすし業界・海苔業界・厚焼業界が宣伝を仕掛けて、大阪を中心とした関西圏で定着していった。これが平成に入る前後から西日本へと広まり、一九九〇年代後半以降はコンビニ業界などの主導する広告活動によって全国へと伝わった。二〇〇〇年代以降は新しい習慣として全国的に定着しつつある。
定着・伝播には業界の宣伝が大きく関わっている点で、バレンタインデーのチョコレートと同様のフォークロリズムであるとして批判的に見られることも少なくない。一方、「家族そろって夕食時に食す」風習であることが高く評価される面もある。
全国に広まったのはまさに平成に入ってからである。これを広めたのはセブン-イレブンと南野陽子だ。同じく『事物起源探究2011』から該当部分を再掲しよう。
・平成元年(一九八九年)、セブン-イレブンの広島県内の店舗個人オーナー(大阪出身)が「大阪ではこんなものを食べる」と提案して商品化した。「縁起のいい風習」として紹介し、商品名を「恵方巻」とする。恵方巻という名称はここに始まる。
・同年二月三日放送「ミュージックステーション」に出演した南野陽子(兵庫県伊丹市出身)が節分に太巻きを食べる風習について知っている旨の発言をしたという。
・一九八六年一月~一九九〇年六月に放送されていたラジオ番組「南野陽子 ナンノこれしきっ!」で南野陽子が節分の太巻きについて言及していたという情報あり。また、南野陽子は他の番組でも節分の太巻きに言及していたという情報もある。
・平成二年(一九九〇年)からセブン-イレブンでの販売エリアが次第に拡大。
・一九九五年、セブン-イレブンの関西以西の地区で恵方巻を販売。
・一九九六年以来、節分の日に札幌市中央区の北海道神宮境内で巻きずしが振る舞われるイベントを毎年開催。「海苔で健康推進委員会」北海道ブロックが海苔の消費拡大を狙って開始した。
・一九九八年、全国のセブン-イレブンで恵方巻きを販売。
・一九九九年、ローソンが全国で発売開始(前年までは近畿以西のみ)。
・二〇〇三年、ファミリーマートが全国販売開始(前年までは関西地区限定)。
・二〇〇四年、am/pmが全国販売開始。
・二〇〇五年、サークルKサンクスが全国発売開始。
奈良県出身のわたしが恵方巻を食べるようになったのは、確か80年代半ばからだったと思う。当初は大阪の厚焼き業界や海苔業界が一生懸命流布につとめていたが、その後、全国に広める牽引役となったのがコンビニ業界だった。そこで、今年もコンビニ大手8社の恵方巻商戦についてまとめてみた。
コンビニ大手8社
まずはコンビニ大手を網羅したい。そこでコンビニ業界の年収・給料、売上高ランキング-年収ラボで平成22年7月~平成23年6月の決算時データによる売上高ランキングをチェックした。
- セブン&アイ・HD(コンビニエンスストア事業) 2兆0359億円
- ローソン 1兆6828億円
- ファミリーマート 1兆4404億円
- サークルKサンクス 9231億円
- ミニストップ 3220億円
- スリーエフ 1034億円
- ポプラ 907億円
- 山崎製パン(コンビニエンスストア事業) 647億円
これをグラフにしてみると、上位グループの圧倒的強さがわかる(グラフではわかりやすく代表的な店舗名で書いている)。セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートの「3強」に、サークルKサンクスを加えた「四天王」がずば抜けており、5位のミニストップが後方から追う。スリーエフ、ポプラとセブンでは実に20倍の違いとなる。
そこで、今回はこのコンビニ大手8社の店舗を実際にまわり、各店舗で恵方巻の予約チラシを入手した上で比較調査してみた。もちろん各社からは一銭も見返りを得ていない。
※北海道でコンビニシェアトップのセイコーマートは、2010年の売上高が約1700億円であり、ランキング6位に入るところであるが、グラフは上記サイトを参考にして作成した。なお、今回の調査において、セイコーマートは北海道・茨城・埼玉にしか店舗がなく、実際にチラシを取りに行くには不便であったことから今回は省いた。(参考:北海道コンビニ首位守るセイコーマートの独自性(1) | 企業戦略 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン)
各社恵方巻基本データ
恵方巻/丸かぶり寿司/ロールの後の数字は、長さcm×幅(直径)cm(×高さcm)である。
◆セブン-イレブン
業界最大手にして、平成の全国普及のきっかけとなり、「恵方巻」という名称の名付け親でもあるセブン-イレブン。今年のちらしの題字にはNHK大河ドラマ「平清盛」の題字を書いた書道家・金澤翔子さんを起用している。アピールポイントは、具材へのこだわりと、保存料・合成着色料不使用。他社に多い海鮮恵方巻がなく、サラダ恵方巻で攻めているのが大きな特色だ。チラシはB5判4ページ。
- 恵方巻(3本パック=13×4.5、レギュラーサイズ=13×4.5、ミニサイズ=8.5×4.5)
- 9品目の彩りサラダ恵方巻(3本パック=8×4.8、サラダ恵方巻=8.5×4.8)
- 節分そば(節分そば、八割蕎麦(温かい蕎麦用、八割蕎麦(冷たい蕎麦用)、石臼挽き蕎麦粉の節分かき揚げ蕎麦))
- 節分つみれ汁
- 丸かぶりロール=15×4.8
◆ローソン
業界2番手のローソンの恵方巻は「すべて京都・清水寺で厄除開運のご祈祷をいただいた縁起の良い海苔を使用しています」という。「我が家に福呼ぶ」「縁起の良い末広がりにちなんだ八種類の具材入り」「七福神にちなんだ七種類の具材入り」など、「縁起のよさ」をアピールしているのが目立つ。また、ハーフサイズをメインに据えているのも特徴的だ。チラシはA4判両面。
- 〈上〉海鮮恵方巻(ハーフ)=9×5
- 海鮮恵方巻(ハーフ)(3本入、1本)=9×5
- 恵方巻(3本入、1本)=18×5
- 蕎麦(節分レンジかき揚げそば、節分レンジ鶏そば、節分冷しダブル海老天そば)
- 節分ロール(節分ロール=16×5、もち食感節分ロール=16×5、もち食感ミニ節分ロール=6×3.5)
◆ファミリーマート
am/pmを合併して3強としての地位を固めるファミリーマートは、ライバル・セブンが命名した「恵方巻」という名称はあくまでもサブとして用い、メインはあくまで「まるかぶり寿司」という名称にこだわる。「牛カルビ焼肉巻」など「選べるおいしさ、まるかぶり」というキャッチフレーズどおり、恵方巻そのもののバリエーションがウリである。前出2社と異なり、予約チラシ上で節分そばはアピールしていない(店頭販売は行なわれる)。チラシはB5判4ページ。
- まるかぶり寿司(1本、3本入)=長さ14
- 海鮮恵方巻(1本、3本入)=長さ9
- 上恵方巻 海鮮巻=長さ9
- 上恵方巻 牛カルビ焼肉巻=長さ9
- ファミリーにぎり寿司セット(28貫)、にぎり寿司セット(13貫+厚焼玉子)
- 節分スイーツ(節分バナナ&いちご巻き=16×5×高さ4、節分フルーツロール=16×5×4、節分紅白ロール2本入=12×5.5×4.5)
◆サークルKサンクス
サークルKサンクスはハーフサイズをメインに据えている。異色の恵方トルティーヤなど、通常の恵方巻以外のバリエーションがコンビニ四天王の中では最も目立つ。チラシはA5判4ページ(最小)。
- 極の恵方巻(予約限定)(ハーフサイズ)=8.5×4.5
- 丸かぶり海鮮恵方巻(ハーフサイズ)=8.5×4.5
- 丸かぶり恵方巻=17×4.5
- 丸かぶり寿司(ハーフサイズ)=8.5×4.5
- 恵方海鮮トルティーヤ、恵方チキンと7種豆カレートルティーヤ=15.5×3.5
- 7種のフルーツロール=16.0×4.5×3.5、栗たっぷり和ロール=10.5×4.5×3.5
- 節分そば(八割ざるそば、レンジ海老天そば)
- 寿喜焼重(すきやきじゅう)
- 7種野菜といわしのつみれ汁
◆ミニストップ
ミニストップのチラシは金文字の「幸福恵方巻」で「幸福」がキーワード。「彩り鮮やか、うまみ豊かな具材」予約割引やポイントが強調されている。「こどもの恵方巻」は細めにして具材も子供向けに工夫されている。恵方巻の予約チラシに「福豆セット」「鬼セット」や酒を載せているのはここだけ。チラシはA4判4ページ(最大)。
- 幸福恵方巻(1本、3本入り)=18×4.5
- 海鮮恵方巻(1本、3本入り)=9×4.5
- 〔上〕海鮮恵方巻=9×4.5
- こどもの恵方巻=10.5×3.5
- プレミアムフルーツロール=11.5×7×5.5、もちもち食感フルーツロール=17×5.5×4
- 節分割子そば
- 鬼面付き福豆セット
- なりきり鬼セット
- 酒(清酒・越路乃紅梅、麦焼酎・閻魔)
◆スリーエフ
コンビニ勢力図 [ 2011年 ]|新・都道府県別統計とランキングで見る県民性 [とどラン]によれば2011年、高知県で首位に躍り出たスリーエフ。子供向けのマヨベース回線恵方巻ハーフや、いなり皮の「黄金恵方巻」など独自商品がさりげなく紛れ込んでいる。チラシはA4判両面。
- 恵方巻(1本、3本入)=18×4.5
- 特選海鮮恵方巻ハーフ(1本、3本入)=9×5.5
- 海鮮恵方巻ハーフ(1本、3本入)=9×4 ※子供向けマヨベース
- 黄金恵方巻ハーフ(1本、3本入)=9×4.5 ※いなり皮
- 丸かぶりもちもち餅あんロール=15×5、丸かぶりしましまいちごロール=17×5
- 太巻き風竹炭ロール4個入り=各2×5
- 節分そば(福豆付)
◆ポプラ
ポプラも「こどものえほう巻」を提供。5・6・7位の各社が揃って子供向けをアピールしているのが興味深い。そのほかはオーソドックス。チラシはA4判両面。
- 恵方巻(1本、3本入)=17.5×4.5
- 特上恵方巻(1本、2本入)=18×4.5
- 海鮮巻ハーフサイズ(1本、3本入)=8.5×5
- こどものえほう巻(えびかつ巻)=14.5×3.5
- 節分ロール(7種フルーツロール、苺ダブルクリームロール)=16×4.5
- 節分蕎麦(節分二八なま蕎麦海老天付(温)、節分二八なま蕎麦(冷)、レンジ節分蕎麦)
デイリーヤマザキ
山崎製パンには「Yショップ」もあるが、個々の店舗の特徴が強すぎるので今回は除外した。デイリーヤマザキのラインナップはやや少なめ。オーソドックスタイプの組み合わせで勝負しているが、不二家のクレープロールは出色。チラシはA4判両面。
- 恵方巻=18×4
- 恵方巻(サラダ巻)=18×4
- 恵方巻2本セット(恵方巻とサラダ巻)
- 特撰恵方巻ハーフ=9×4.5 ※天然焼真穴子
- 恵方巻(海鮮巻ハーフ)=9×4.5
- 恵方巻ハーフ3本セット
- 節分とろろ蕎麦
- 節分3種のフルーツロール=16.5×5.5 ※黄桃・パイン・リンゴ
- 不二家 恵方巻クレープロール=14.5×6×3.5
8社の共通点と相違点
まず、それぞれのシリーズがどのコンビニチェーンで採用されているかをまとめてみよう。各社の名称が違っても同類のものはセットにするため、名称は適宜変更している。
以下、セブン-イレブン=7i、ローソン=Lw、ファミリーマート=FM、サークルKサンクス=KS、ミニストップ=MS、スリーエフ=3F、ポプラ=Pl、デイリーヤマザキ=DYと略す。
- 恵方巻 7i、Lw、FM、KS、MS、3F、Pl、DY(全8社)
- 恵方巻ハーフサイズ 7i、KS、DY
- サラダ恵方巻 7i、DY
- 海鮮恵方巻 Lw、FM、KS、MS、3F、Pl、DY
- 子供向け恵方巻 MS、3F、Pl
- 牛カルビ焼肉巻 FM
- いなり皮恵方巻 3F
- 恵方トルティーヤ KS
- 節分ロール 7i、Lw、FM、KS、MS、3F、Pl、DY(全8社)
- 節分そば 7i、Lw、KS、MS、3F、Pl、DY
- 節分つみれ汁 7i、KS
- すき焼き重 KS
全8社で提供しているのがレギュラーサイズの恵方巻と、節分ロールである。セブンイレブンが節分ロールを発売したのが2007年で、他社もそれくらいの時期からと思われるが、すでに「恵方巻と節分ロール」は定着したようだ。
節分そばは、ファミリーマートを除く7社が恵方巻予約チラシに盛り込んでいる。ファミリーマートもチラシには載せていないだけで、前後には節分そばを発売するので(2011年 ファミリーマートの“まるかぶり寿司” 特選素材を贅沢に使った高級タイプ“上恵方巻”3種類も新発売!|ニュースリリース|FamilyMart)、これも実質的に全8社が提供するといえる。なお、節分そばは旧正月の「年越しそば」が由来なので、これは確実に恵方巻より起源が古い。
最近、レギュラーサイズより目につく気がするハーフサイズだが、上のまとめでは3社しかない。なぜか。実際には、通常の恵方巻はレギュラーサイズ、ハーフサイズはサラダもしくは海鮮恵方巻として提供されているからである。海鮮恵方巻はセブン-イレブンを除く7社で、その代わりにセブン(とヤマザキ)ではサラダ恵方巻が提供されており、いずれもハーフサイズである。奈良出身のわたしでも最近は(年齢のせいか)レギュラーサイズはきつく思えるので、ハーフサイズはありがたい。女性にもこれはよいだろう。ただ、単純に半分にすると売上額も半減するので、「ハーフサイズはちょっと高級にして値段をあまり下げない」という戦略が多く取られているように思われる。
したがって、「恵方巻(レギュラー、ちょっと高級なハーフ)、節分ロールスイーツ、節分そば」の4種はどのコンビニでも見られる定番セットといえよう。
なお、8社の中で5~7位に位置する三社がいずれも子供向け恵方巻商品を提供している。女性向けのハーフサイズの次は子供がターゲットというのはわかりやすい。いずれ大手も採用するのではないかと思う。
一方、節分つみれ汁を採用しているのはセブン-イレブンとサークルKサンクスの2社のみ。節分にイワシを食べるというのはもともと西日本の風習で、邪気を払うためにイワシの頭を門口に指した。これが「イワシの頭も信心から」という言葉の由来でもある。邪気払いのイワシが節分と結びつくのは民俗学的にはよく理解できる風習だが、これが現代のコンビニで「つみれ汁」として甦ったようだ。なお、サンクスでは「いわしのつみれ汁」と明記されているが、残念ながらセブンのつみれは何の魚か(チラシでは)わからない。イワシについては、むしろスーパーでの展開が主になっているようである。
まとめ
節分と言えば豆まき、というのは少なくとも戦後の日本の家庭の「常識」であったと思われる。しかし、平成以後のコンビニによる恵方巻の全国化で「節分は恵方巻と節分そばと豆まき」というセットが定型になってきているようだ。恵方巻自体は昭和からの新風習であってフォークロリズム(作られた疑似伝統)とも見なしうるが、数年のうちにはすっかり「伝統」として収まっていくと思われる。それが、古い伝統である節分そばや豆まきと共存しているのが興味深い。
現在、すでに女性層を狙ったハーフサイズとロールが定着しているが、次は子供向け恵方巻商品が全体に広がりそうな予感がする。ただし、古い風習であるイワシを用いた「つみれ汁」が今後コンビニでどう展開するかは正直わからないところだ。
なお、個人的嗜好として、お稲荷さんが大好物であるわたしにとって、スリーエフのいなり皮で作られた黄金恵方巻は極めて魅力的であることを書き添えておく。
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