「ヘテロニム」の版間の差分
(ページの作成: '''ヘテロニム(heteronym)'''は、言語学における'''同綴異音異義語'''、ならびに文学における'''別名仮想人格'''を指す言葉である。こ…) |
|||
1行目: | 1行目: | ||
'''ヘテロニム(heteronym)'''は、言語学における'''同綴異音異義語'''、ならびに文学における'''別名仮想人格'''を指す言葉である。このページでは双方の内容を記す。 | '''ヘテロニム(heteronym)'''は、言語学における'''同綴異音異義語'''、ならびに文学における'''別名仮想人格'''を指す言葉である。このページでは双方の内容を記す。 | ||
+ | |||
+ | ヘテロ(heter-)は「他の、異なった」、オニム(-onym)は「名前、語」を意味するギリシア語由来の言葉であるため、「ヘテロニム」を直訳すると「別の名前」や「別の語」という意味になる。 | ||
[[File:ホモグラフ・ホモフォン.png|thumb|472px|ヘテロニムと関連する言語学的な概念のベン図]] | [[File:ホモグラフ・ホモフォン.png|thumb|472px|ヘテロニムと関連する言語学的な概念のベン図]] |
2010年3月3日 (水) 15:48時点における版
ヘテロニム(heteronym)は、言語学における同綴異音異義語、ならびに文学における別名仮想人格を指す言葉である。このページでは双方の内容を記す。
ヘテロ(heter-)は「他の、異なった」、オニム(-onym)は「名前、語」を意味するギリシア語由来の言葉であるため、「ヘテロニム」を直訳すると「別の名前」や「別の語」という意味になる。
別名仮想人格としてのヘテロニム
文学におけるヘテロニムの概念は、ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソア(Fernando Pessoa)が生み出したもので、異なったスタイルで書くために一人の書き手によって作られた仮想人格を指す。ヘテロニムはペンネーム(あるいは筆名=pseudonyms)とは異なる。筆名は単に本名ではない別の名前だが、ヘテロニムは名前ごとに体格、伝記、執筆スタイルなどを有した独自の人格となる。
ペソアのヘテロニム
ペソアの場合は少なくとも70のヘテロニムがあったという(ペソアの編集者テレサ・リタ・ロペスの最新のカウントによる)。そのいくつかはお互いに知人であり、それぞれの作品を批評したり翻訳したりしていた。ペソアの主要な3つのヘテロニムは、Alberto Caeiro, Ricardo Reis, Álvaro de Camposである。後の二人は最初の人物を主人だと考えていた。さらにペソアがセミヘテロニムと呼ぶ2人の人格があった。それはBernardo Soares と the Baron of Teiveで、これは散文で書く半自叙伝的な人物であった。最後にorthonymとして著者の名前としてのFernando Pessoaがあったが、それはCaeiroを主人だと考えていた。ヘテロニムたちはペソアの社会的生活にも介入することがあった。ペソアは生涯に一度恋愛をしたことがわかっているが、その時期に嫉妬深いCamposが相手の女性に手紙を書いた。その女性はゲームを楽しみ、返事を書いたという。
その他の書き手とヘテロニム
- セーレン・キェルケゴール(Søren Kierkegaard):デンマークの哲学者。10以上のヘテロニムを持ち、それぞれが別の伝記と人格を有していた。
- デヴィッド・ソルウェイ(David Solway):カナダの書き手。アンドレアス・カラビス(Andreas Karavis)というギリシア人詩人のヘテロニムがある。
- ケント・ジョンソン(Kent Johnson):アメリカの学者。「Araki Yasuda」という日本詩人のヘテロニムを有する。
- ロビン・スケルトン(Robin Skelton):カナダの詩人・オカルト研究者。フランス人シュルレアリストのジョルジュ・ズク(Georges Zuk)というヘテロニムがある。
- フェアチャイルド(B.H. Fairchild):アメリカの詩人。ロイ・エルドリッジ・ガルシア(Roy Eldridge Garcia)として書いている。
日本では作家がペンネームを使い分ける(あるいは本名名義と筆名名義が分離する)例があるが、それらの人格が経歴も含めて完全に分離している例は少ない。
- 色川武大(純文学)・阿佐田哲也(麻雀小説)・井上志摩夫(時代小説)
- 林不忘(丹下左膳)・牧逸馬(犯罪実録小説)・谷譲次(めりけんじゃっぷ)
- 栗本薫(小説)・中島梓(評論)(『作家の肖像』は栗本薫と中島梓の共著)
言語学における同綴異音異義語としてのヘテロニム
ヘテロニム(heteronym)もしくはヘテロフォン(heterophone)は言語学において同綴異音異義語と訳されるが、同じ綴りの単語が異なる発音によって別の意味を有するものである。言い換えれば、それはホモフォン(異形同音異義語/異綴同音異義語)ではないホモグラフ(同形異義語/同綴異義語)である。したがって、row(ロウ=櫂を用いて船を漕ぐ)とrow(ラウ=口論)はヘテロニムとなるが、mean(ミーン=意図)とmean(ミーン=平均)はヘテロニムではない(発音が同じだからである)。ヘテロニムの発音は、母音認識、強勢パターン(語頭強勢による名詞化など参照)、その他の方法で変化する。
- Do you know what a buck does to does? :雄鹿が雌鹿(does=ドウズ)に何をする(does=ダズ)か知っているか?
- I like to read. In fact, I read a book yesterday. :読む(read=リード)ことが好きだ。実際、昨日も本を読んだ(read=レッド)。
- Don't desert me here in the desert! :この砂漠(desert=デザート)で見捨て(desert=ディザート)ないで!
- With every number I read, my mind gets number and number.:数字(number=ナンバー)を見るたびに、心がどんどん麻痺(numb-er=ナマー)していくよ。
ヘテロニムはたいてい二重である。三重のヘテロニムはきわめて稀であるが、例としてはsinがある(シン=罪、サイン=三角関数sineの略、シーン=シュメールの月の神)。固有名詞はヘテロニムになりやすい。たとえば、Oregonはアメリカ合衆国の州の住人はオレギンのように発音されるのに対して、ウィスコンシン州の村名としてはオレゴンのように発音されている(※日本語ではオレゴン州と表記されるが)。
ヘテロニムは非表音文字言語でも起こりうる。たとえば、中国語の「行」は、「háng(ハン)」と発音されれば「行く」、「xíng」と発音されれば「差し支えない」という意味になる。
「ヘテロフォン」という用語の場合、文字通りに直訳すると「異音」という意味しかなく、綴りと無関係に異なって発音される語を指すのに使うこともできる。このような定義であれば、ある言語内のほとんどすべての言葉を二つ取り出せば音が違うわけで、何でも当てはまってしまう。したがって「ヘテロフォン」という用語をあえて使うのは、異なった音を強調する特別な理由がある場合に限定されるのが普通である。たとえば、ダジャレはホモフォン(異形同音異義語)で使われるのが普通だが、場合によってはヘテロフォンの場合もある。それは二つの言葉の音が違うが、充分に似ていて、想起できる範囲のものである(たとえば、mouthとmouse)。
英語のヘテロニムの実例としてあげられるものとしては、完全に異義のものもあるが、発音の違いによって品詞や時制が変わるものも含まれる。
ヘテロニムの実例
綴り | 発音 | 品詞 | 意味 |
---|---|---|---|
abuse | əˈbjuːs | 名詞 | 濫用 |
əˈbjuːz | 動詞 | 濫用する | |
advocate | ˈædvəkeɪt | 動詞 | 擁護する、唱道する |
ˈædvəkɨt | 名詞 | 代言者、擁護者、唱道者 | |
agape | əˈɡeɪp | 副詞 | 口を開けて、ぽかんとして |
ˈæɡəpiː | 名詞 | アガペー、非打算的な愛 | |
alternate | ˈɒltərnət ~ ælˈtɜrnət | 形容詞 | 交替の |
ˈɒltərneɪt | 動詞 | 交替する | |
appropriate | əˈproʊpri.ət | 形容詞 | 適切な、適正な |
əˈproʊpri.eɪt | 動詞 | 充当する、着服する | |
attribute | ˈætrɨbjuːt | 名詞 | 属性 |
əˈtrɪbjuːt | 動詞 | 帰する | |
axes | ˈæksiːz | 名詞 | axis(軸)の複数 |
ˈæksɨz | 名詞 | axe (斧)の複数 | |
bass | ˈbeɪs | 名詞 | 音楽のバス、ベース |
ˈbæs | 名詞 | 魚のバス | |
blessed | ˈblɛsɨd | 形容詞 | 神聖な、恵まれた |
ˈblɛst | 動詞 | bless(聖別する)の過去形 | |
bow | ˈboʊ | 名詞 | 弓 |
ˈbaʊ | 動詞 | 腰をかがめる、お辞儀する | |
名詞 | 船首 | ||
buffet | bəˈfeɪ ~ ˈbʊfeɪ | 名詞 | ビュッフェ、簡易食堂 |
ˈbʌfɨt | 動詞 | 打ちのめす | |
close | ˈkloʊz | 動詞 | 閉める |
ˈkloʊs | 形容詞 | 近い | |
compact | kəmˈpækt | 動詞 | 盟約を結ぶ |
ˈkɒmpækt | 形容詞 | 小型の | |
conduct | ˈkɒndəkt | 名詞 | 行為 |
kənˈdʌkt | 動詞 | 導く | |
console | kənˈsoʊl | 動詞 | 慰める |
ˈkɒnsoʊl | 名詞 | 操作卓 | |
content | ˈkɒntɨnt | 名詞 | 内容、中身 |
kənˈtɛnt | 形容詞 | 満足して | |
convict | kənˈvɪkt | 動詞 | 有罪宣告する |
ˈkɒnvɪkt | 名詞 | 罪人 | |
desert | ˈdɛzərt | 名詞 | 砂漠、荒野 |
dɨˈzɜrt | 動詞 | 見捨てる | |
does | ˈdoʊz | 名詞 | doe(雌鹿)の複数形 |
ˈdʌz | 動詞 | do(する)の三人称単数直説法現在形 | |
dove | ˈdʌv | 名詞 | 鳩 |
ˈdoʊv | 動詞 | dive(潜る)の過去形 | |
entrance | ˈɛntrəns | 名詞 | 入り口、入場 |
εnˈtræns | 動詞 | 感極まらせる、失神させる | |
house | ˈhaʊs | 名詞 | 家 |
ˈhaʊz | 動詞 | 住む | |
intimate | ˈɪntɨmeɪt | 動詞 | 暗示する |
ˈɪntɨmət | 形容詞 | 親密な | |
invalid | ɪnˈvælɨd | 形容詞 | 論理的に矛盾した、根拠のない |
ˈɪnvəlɨd | 名詞 | 病人、病弱者 | |
laminate | ˈlæmɨneɪt | 動詞 | 薄板にする |
ˈlæmɨnɨt | 名詞 | 薄板状のもの | |
lead | ˈliːd | 動詞 | 導く |
ˈlɛd | 名詞 | 鉛 | |
learned | ˈlɜrnɨd | 形容詞 | 学問のある |
ˈlɜrnd | 動詞 | learn(学ぶ)の過去形 | |
live | ˈlɪv | 動詞 | 生きる |
ˈlaɪv | 形容詞 | 生きた | |
minute | maɪˈnjuːt | 形容詞 | 微少な |
ˈmɪnət | 名詞 | 分 | |
moped | ˈmoʊpɛd | 名詞 | モーペッド、モペット、原動機付き自転車 |
ˈmoʊpt | 動詞 | mope(ふさぎ込む)の過去形 | |
multiply | ˈmʌltɨplaɪ | 動詞 | 増す、掛ける |
ˈmʌltɨpli | 副詞 | 多様に | |
number | ˈnʌmbər | 名詞 | 数 |
ˈnʌmər | 形容詞 | numb(かじかむ)の比較級 | |
object | ˈɒbdʒɨkt | 名詞 | 物体、対象 |
əbˈdʒɛkt | 動詞 | 反対する | |
polish | ˈpɒlɨʃ | 動詞 | 磨く |
ˈpoʊlɨʃ | 形容詞 | ポーランドの、ポーランド語、ポーランド人 | |
present | prɨˈzɛnt | 動詞 | 存在している |
ˈprɛzənt | 名詞 | 贈り物 | |
primer | ˈprɪmər | 名詞 | 入門書 |
ˈpraɪmər | 名詞 | 下塗り、導火線 | |
produce | prɵˈdjuːs | 動詞 | 産む、生ずる |
ˈproʊdjuːs | 名詞 | 農産物 | |
project | ˈprɒdʒɨkt | 名詞 | 計画、企画、事業 |
prɵˈdʒɛkt | 動詞 | 投影する | |
putting | ˈpʊtɪŋ | 動詞 | to put(置くこと) |
ˈpʌtɪŋ | 動詞 | to putt(パットする) | |
read | ˈriːd | 動詞 | 読む(現在形) |
ˈrɛd | 動詞 | 読む(過去形、過去分詞形) | |
rebel | rɨˈbɛl | 動詞 | 反逆する |
ˈrɛbəl | 名詞 | 反逆者 | |
record | ˈrɛkərd | 名詞 | 記録 |
rɨˈkɔrd | 動詞 | 記録する | |
refuse | ˈrɛfjuːs | 名詞 | ごみ |
rɨˈfjuːz | 動詞 | 拒絶する | |
resign | rɨˈzaɪn | 動詞 | 辞める |
riːˈsaɪn | 動詞 | 署名し直す、再調印する。re-sign | |
resume | rɨˈzjuːm | 動詞 | 再開する |
ˈrezj |
名詞 | レジュメ | |
row | ˈroʊ | 名詞; 動詞 | 列、船をこぐ |
ˈraʊ | 名詞 | 口論 | |
sake | ˈseɪk | 名詞 | 利益、目的 |
ˈsɑːkiː | 名詞 | 日本酒 | |
sewer | ˈsjuːwər | 名詞 | 下水道 |
ˈsoʊwər | 名詞 | 縫う人、裁縫師 | |
shower | ˈʃaʊ.ər | 名詞 | にわか雨、シャワー |
ˈʃoʊ.ər | 名詞 | 見せる人 | |
sin | ˈsɪn | 名詞 | 罪 |
ˈsaɪn | 名詞 | 三角関数sine(サイン)の略 | |
ˈsiːn | 名詞 | シュメールの月の神 | |
sow | ˈsoʊ | 動詞 | 種を蒔く |
ˈsaʊ | 名詞 | 雌豚 | |
subject | ˈsʌbdʒɨkt | 名詞 | 主題 |
səbˈdʒɛkt | 動詞 | 服従させる | |
tear | ˈtɪər | 名詞 | 涙 |
ˈtɛər | 動詞 | 裂く、破る | |
wicked | ˈwɪkɨd | 形容詞 | 邪悪な、よこしまな |
ˈwɪkt | 動詞 | wick(毛細管作用で水分などを運ぶ)の過去形 | |
wind | ˈwɪnd | 名詞 | 風 |
ˈwaɪnd | 動詞 | 曲がる、巻く | |
wound | ˈwaʊnd | 動詞 | wind(曲がる、巻く)の過去形 |
ˈwuːnd | 名詞 | けが |