句読法案・分別書キ方案

出典: 閾ペディアことのは

句読法案・分別書キ方案

句読法案・分別書キ方案は、明治39年(1906年)3月、文部大臣官房図書課が示した、国定教科書のための句読点記号等の使い方ならびに分かち書きの基準である。これによって、「」「」など、句読点を使った表現方法が固まった。これ以前には日本語において決まった句読法は存在しなかった。ただし、現在の句読法とは一部異なる部分もある。

以下、『句読法案・分別書キ方案』の全文を掲載する(著作権保護期間満了)。ただし、漢字の旧字体は新字体で表わす。

目次

句読法案・分別書き方案

文部大臣官房図書課

緒言

一、本書ニ載スル句読法案及ヒ分別書キ方案ハ現行ノ国定教科書修正ノ場合ニ則ルヘキ標準トナスヲ目的トシ本省ニ於テ設ケタル教科書調査委員会ノ審議ヲ経タルモノナリ

二、句読法ハ語句ノ長短、漢字ト仮名トノ配合等種々ノ関係上到底画一ノ規定ヲナスヲ得サルモノアリ是レ総則ニ於テ一ノ除外例ヲ設ケタル所以ナリ又分別書キ方モ語法ノ精密ナル調査ヲ了セサル間ハ容易ニ完全ナル規定ヲ立ツルヲ得サルモノアリ要スルニ国定教科書修正脱稿迄ニハ尚若干ノ時日アルヲ以テ世ノ批評等ニ徴シ句読法及ヒ分別書キ方トモ相当ノ変更ヲナスコトアルヘシ

 明治三十九年二月

           文部大臣官房図書課

句読法案

総則

一、本法ハ文ト文トノ関係、文中ノ語・句・節ノ相互ノ関係ヲ明カニスルヲ以テ目的トス

二、前項ノ目的ノタメニ左ノ五種ノ符号ヲ使用ス

。 マル
、 テン
・ ポツ
」 カギ
』 フタヘカギ

三、マルノ符号ヲ除ク外読誦ノ都合ニ依リテハ誤解ヲ生ゼザル限ニ於テ本法ノ規定ニ拘ラズ符号ヲ省キ又ハ之ヲ加ヘ施スコトヲ得

第一章 マル

マルハ文ノ終止スル場合ニ施す(符号ノ傍ラニ=ヲ附シタルモノ即チ是ナリ以下之ニ倣フ[1]

例の一(述語ヲ正序ニ置キタル場合)
人が雨戸を開けて居る
例の二(述語ヲ顛倒シテ置キタル場合)
旗を持ちませう私は
例の三(述語ヲ省略シタル場合)
生きて帰る者僅に三人

第二章 テン

テンハ左ノ諸種ノ場合ニ施ス

一、形式ヨリ見レバ終止シタレドモ意義ヨリ考フレバ次ノ文ニ連続セルモノノ下

一、和助が樹の下を出て、まだあまり遠くも行かぬ時のことでありました目が暗む様ないなびかりがすると一所に、耳が裂ける様な恐ろしい音がしました。
二、皆さんは蝙蝠を鳥だと思ひましたでせうが、蝙蝠は鳥ではありませぬ頭もからだも鼠に似て居るけものです。

二、二ツ以上畳ミタル同趣ノ文ノ下但シ最後ノ文ノ下ハ此ノ限ニ在ラズ

一、山を越えて行かうか河に沿って行かうか。
二、彼は男子の気概のない者である丈夫の本領を失った者である我大和民族の面目を毀損した者である。
三、己の長をいふこと勿れ人の短をいふこと勿れ。

三、独立ノ感歎詞及ビ呼掛ノ語ノ下但シ顛倒シテ置キタルトキハ其前後

一、あー兵吉はこれより如何にして日を過すならんか。
二、おとうさんあなたはどこへいらっしゃいますか。
三、それでもにいさん雨が降ったら、しょーがないではありませんか。

四、動詞・形容詞・助動詞ノ中止法ヲ用ヒテ続ケタル同趣ノ語・句・節ノ下

一、甚だ暑くうっとーしき日。
二、我を生み我を養ひ我を教へたる父母。
三、項羽は黄河の北で戦ひ劉邦は黄河の南で戦った。

五、並列セル同趣ノ名詞句・名詞節ノ間

一、座中に琴引ける笛吹ける、鼓打てるがあり。
二、規則の整へる約束の行なはるる、実に歎賞に堪へたり。

六、並列セル同趣ノ形容的修飾語・形容的修飾句・形容的修飾節ノ間

一、松の木は青い針の様な葉をもって居る。
二、情の厚い且家の富んだ老人は死なれた。
三、みなりはわるい併し身分はよささうな子。

七、並列セル同趣ノ副詞的修飾語・副詞的修飾句ノ間

一、此文は平易に正確に且面白く作られたり。
二、大いに面白く又大いに有益な話。

八、複文ノ副詞節ノ下

一、友だちは頻に上京を勧めるけれども兄はそれに賛成しない。
二、酒とたばことは衛生に害あれば之を禁ずるを可とす。

九、従属節ヲ含メル副部ノ下

一、知らせを聞いて、巡査の馳せて来た時には賊は既に影を隠して居た。
二、雪いと面白く降りたる朝帝は端近く出でさせたまひて、雪を御覧じけり。

十、複文ノ主節ノ主語ノ下ニ従属節来レルトキ主語ノ下

一、父は太郎の此頃の様子がすっかり変って来たので、ひどく心配した。
二、宇佐神社の境内は老杉枝を交へて、昼尚ほ夜の如し。

十一、或成文ニ相当スル語ヲ特ニ提示セルトキ其下但シ客語ニ相当セルモノヲ提示セル場合ハ此限ニ在ラズ

一、あの梅の植ゑてある青磁の鉢あれが私が父に貰ったものです。
二、高山彦九郎・蒲生君平・林子平この三人を寛政の三奇士といふ。

十二、名詞節ノ下ニ天爾乎波ノ無キトキ其下

一、交通・通信機関の完備せる人をして国の広袤の短縮せるにあらざるかを疑はしむ。
二、クルップの職工を率ゐることの巧なる経験に富み、且権力を有する老練家も尚ほ遠く及ばざる程なりき。

十三、主部長キトキ其下

一、特派員として十二月二十五日戦地に出張せしめたる社員某は昨日本社に詳細なる通信を送り来れり。
二、雨水等の深く土地の中に浸みこみて、粘土又は堅き岩の上にたまれるが井戸の水なり。

十四、他ノ語ヲ修飾スベキ副詞・副詞句ガ下ニ来ル語ヲ修飾スルガ如ク見ユル虞アルトキ其下

一、甲君は甚だ高尚なる書を好めり。
二、先生が少しばかり面白い話をなさいました。
三、蚜虫は蜜蜂の様に甘い蜜を拵へる。

十五、他ノ語ヲ修飾スベキ形容的修飾語ガ下ニ来ル語ヲ修飾スルガ如ク見ユル虞アルトキ其下

私はこの芋虫に似た蚕は嫌です。

十六、主語(主部)ガ客語ノ形容的修飾語ノ主ナルガ如ク見ユル虞アルトキ其下

太郎は目も見えず、耳も聞えぬ父をいたはる。

十七、箇々ノ名詞ガ熟語名詞ト紛レ易キ虞アルトキ其間

一、母子を抱く。
二、山上に聳えて高し。
三、この人馬を殺す。

十八、主語ガ客語ト粘着スル虞アルトキ其下

頼朝範頼・義経をして平氏を攻めしむ。

十九、仮名ニテ書ケルトキ語ト語ト粘着スル虞アルトキ其下

兵を起して、我国にてむかひたり。

二十、形容的修飾語・形容的修飾句・形容的修飾節ガ並列セル同趣ノアラユル語句ヲ修飾セルトキ其下

一、興福寺の南面堂・北円堂・五重の塔。
二、汽車の窓より見ゆる田・畑・山・川皆我国のものとは異なり。
三、蝶の飛ぶ菜畑・麦畑の間を過ぐ。

二十一、或句ガ上ナル語ト同格ナルトキ其前後

われおちよの友だち太郎の妹を連れて遊ぶ。

第三章 ポツ

ポツハ並列セル同趣ノ名詞ノ間ニ施ス但シや・も・とナドノ天爾乎波ニテ並列セル場合、接続詞ニテ二ツノ名詞ヲ並列セル場合、及ビ分別書方ヲ用ヒタルトキハ此限ニアラズ

横須賀佐世保及び舞鶴は日本の軍港なり。

第四章 カギ

カギハ左ノ諸種ノ場合ノ右ノ肩ト左ノ脚トニ施ス

一、対話ノ文

次郎は父の袂を引きて、おとうさん、今の人はきちがひでせうか。といひたり。

二、独語ノ文

虹は日は唯照るだけだから、誰も誉める人がないのだ。自分は此通り美しいから、人が皆誉めるのだ。」といひました。

三、独思ノ文

太郎は嬉しくてたまらず、あー、やっぱり起きて書かう。起きて書いても、居眠さへせず、勉強する様に心掛ければよいのだから。と決心した。

四、引用ノ文

孔子も利によりて行なへば、怨多し。といへり。

第五章 フタヘカギ=

フタヘカギハ対話ノ文、独語ノ文、独思ノ文、引用ノ文ノ中ニ更ニ他ノ対話ノ文、独語ノ文、独思ノ文、引用ノ文ヲ引用セルトキ其右ノ肩ト左ノ脚トニ施ス

父は文吉に「もしおとうさんがおまへのいふ通りになって、遊に行って、選挙をしなかったら、人は文吉のおとうさんは村のためを思はない人だ。村中の人の迷惑するのをかまはない人だ。とわるくいひませう。おとうさんはそんなことをいはれることはだいきらひです。」といひました。

分別書キ方案

第一章 名詞・代名詞

名詞・代名詞ハ他ノ語ヨリ離シテ書ク

いぬ ねこ」 たろー ちよ」
はる なつ」 あか しろ」
あそび ならひ」
にぐるま あまど」 ふでたて くぎぬき」
はしぢか うらじろ」 つりがね おりもの」
あかご ちかみち」 かきとり よみはじめ」
たかわらひ うれしなき」 とほあさ うすあを」
はつゆき ごせんぞ」 すがほ きそば」
たかさ おもみ」 かやりび ねずみいらず」
わたくし わたし じぶん ぼく
あなた おまへ きみ どなた
だれ」 これ それ あれ
どれ なに」 こゝ そこ
あそこ どこ」 こっち そっち
あっち どっち」
われわれ だれだれ それぞれ どれどれ
あっちこっち そっちこっち どこそこ たれそれ

注意

一、名詞又ハ代名詞ニ複数又ハ尊称ヲ示ス語ノ付ク場合ニハ其各ヲ離シテ書ク但シ単立語ト見做スベキモノハ此限ニアラズ

こしんぶ がた、ねいさん たち、 たろー ら、まつ など、 わるもの
ども、おこども しゅー」 てんのー へいか、こーたいし でんか、
たけを さま、おちよ さん、やまだ くん、しょーい どの」
ごしんぷ さま がた、おちよ さん たち、やまだ くん など」
わたくし ども、おまへ たち、きみ ら、あなた がた、あれ
など」 どなた さま、おまへ さん」
あなた さま がた、おまへ さん たち」
但書ノ例
ともだち こども」 おとうさん おかあさん
にいさん ねいさん」

二、助詞ノの又はハがヲ介シテ二ツノ名詞ヲ繋ギタルモノモ複合語ト見做スベキモノハ合セテ書ク

たけのこ くすのき おにがしま あさまがたけ」

三、姓ト名トハ離シテ書ク

やまだ こーさく、をかもと きく」

第二章 数詞

数詞ハ他ノ語ヨリ離シテ書ク但シ名詞ト合シテ複合語ヲ作ルモノハ此限ニアラズ

いち に さん し
いちまい にほん さんさつ しとー」
ごばん ろくばんめ だいしちごー」
但書ノ例
ふたばん よしな ごこく ろくかせん」
みつあふぎ なヽつどーぐ さんかこく いっけんや
いちばんやり さんごーひょー」

第三章 動詞

動詞ハ助動詞及ビ助詞ノ条ニ規定セルモノヲ除キ他ノ詞ヨリ離シテ書ク

かく よむ おちる しひる
かねる おそれる くる する
なきだす かりとる」 つみする うんどーする」
とりみだす さしあげる おしとほす ひきこす」
はるめく がくしゃぶる きばむ うれしがる」

第四章 助動詞

助動詞、上ノ動詞又ハ助動詞ト続ケテ書ク但シ敬語動詞ヨリ転ジタル助動詞、指定ノ助動詞、及ビ推量ノ助動詞「だらう」「でせう」ハ此限ニアラズ

かゝせる うたれる とります うけ
おちない ゆきたい ゐるらしい こまい
たて
かゝせられる みさせたい うたれない みられよう
まゐりませぬ あそびますまい ゐるらしかった ゆかぬらしい
たらしい
かゝせないらしい うたれなかった うけられますまい うたれるらしかった
但書ノ例
おあそび なさる、おまねき くださる、おあひ まうす
おうけ いたす」 ある の 、みる の です」 とる だらう
ゆく でせう、」
おうたれ なさる、おたゝせ まうす、おまねき くださらぬ
おうけ なさいます、おうち なさった、おつれ くだされたい
よませる の 、うたれる の です、よむ の だらう
うつ の でした」 とらぬ だらう、いった でせう
おうたれ なさいます、おきかせ まうします、おまねき くださいませぬ
おうち なさったらしい、おうかがひ いたしませう」 おうたれ なさる の 
おうけ なさらない の です」 ゆかせたい だらう、まゐりませぬ でせう
おうたれ なさいませう、おまたせ まうしました、おいで くださらなかったらう
おうたれ なさる の だらう、おうけ なさらない の でせう」 ゆかせ たかった だらう
うたれました でせう」

第五章 形容詞

第六章 副詞

第七章 接続詞

第八章 助詞

第九章 感歎詞

明治三十九年三月二十五日印刷

明治三十九年三月二十八日発行

文部大臣官房図書課

印刷人 東京市京橋区高代町四番地 高島幸三郎 印刷所 東京市京橋区高代町四番地 高島活版所

注・出典

  1. このページでは下線をもって代用としている

個人用ツール
ツールボックス
このウィキのはてなブックマーク数 この記事をはてなブックマークに追加