麻生読み
麻生読み(あそうよみ)とは、麻生太郎首相(日本国第92代内閣総理大臣)による、独特な漢字の読み方である。一言で言えば「漢字の誤読が多い」ということになるが、同じ傾向の読み間違いを繰り返しているところから、単に読めないのではなく、誤って覚えている可能性が高い。
もちろん、「宰相の器」と「漢字の読み取り能力」には直接的な関係はない。したがって、これをもって麻生首相の首相としての力量を云々することはできない。漢字が少々読めなくても、経済的にテイマイしているワガコクが、適切なショチによりミゾウユの経済クライシスを乗り越えることができるのであれば、ハンザツに取り沙汰される首相の漢字力のユウムなど些事であり、どうでもいいことである。
ただ、民主主義国家の政治家としての重要な要素として、自らの施政方針や主義主張を他の政治家や国民に対して正確に伝える必要があり、そのためには一定の表現能力(すなわち言語能力)が必要となる。また、母国語を正確かつ効果的に扱う能力に欠ける場合、指導者としての資質を疑われることも多いことは事実である(例:英語に不自由なブッシュJr.)。
麻生読みの分析
麻生首相の「誤読」には以下のパターンがある。
- 完全に漢字の読みとして誤っている。例:措置→ショチ
- 漢字を単独で読めばその読みはあるが、熟語として間違っている。例:有無→ユウム、未曾有→ミゾウユ、怪我→カイガ。
- 通例訓読みする熟語を音読みして、存在しない読みとなる。例:我が国→ワガコク、傷跡→ショウセキ
- 通例音読みする熟語を訓読みして、存在しない読みとなる。例:踏襲→フシュウ(「踏む」の影響か)
- 何か別の言葉と間違える。例:頻繁→煩雑
- 熟語の一部分を取り違える。例:所信表明→所得表明、実体経済→実物経済、全身全霊→全知全能
- 専門用語としての読み方を間違える。例:マエバ(前場)
特に二つめのパターンが目立つ。「有」については、「ウ」と読むべきところを一貫して「ユウ」「ユ」と発音しており、有はユウと読むものと思いこんでいるように思われる。不思議なのは「我が国」で、同じときの発言で「ワガコク」「ワガクニ」が同じように併用されている。
麻生太郎首相も参加しているという2ちゃんねるでは、「がいしゅつ(=既出)」「すくつ(=巣窟)」など意図的に第二のパターンの誤読を行なう言葉遣いが好まれる傾向にあるが、その関係性については不明である。
いずれにしても、うっかり言い間違えたというレベルのミスではなく、もともと間違って覚えてしまっている(本人は正しい読み方だと思っている)、あるいは全く読み方を知らないので類推読みして間違っているという可能性が極めて高い。
麻生読みの実例
確認できたもの
以下の麻生読みの実例は、国会あるいは記者会見等の発言で、実際に動画などで確認できたものである。
- 2008年10月1日 衆議院本会議 第170回国会 本会議 第3号(平成20年10月1日(水曜日))
- (自民党・細田博之議員への答弁)
- まず、補給支援特別ショチ(→措置:ソチ)法の改正についてお尋ねがありました。
- 補給支援活動は継続がぜひとも必要であります。ワガコク(→我が国:わがくに)の国益をかけ、我が国(わがくに)自身のためにしてきた活動の一つです。テロとの闘いは依然継続しており、多くの国がとうとい犠牲を出しながらアフガニスタンでの取り組みを強化しております。この中で、国際社会の一員たる日本がその活動から手を引く選択はありません。
- (民主党・鳩山由紀夫議員への答弁)
- 赤字国債の発行及び基礎的財政収支の達成についてのお尋ねがありました。
- ワガコク(→我が国:わがくに)の経済や社会保障に悪い影響を与えないため、二〇一一年度までに国、地方の基礎的財政収支を黒字にするという目標を達成すべく、努力をしてまいります。
- 平成二十年度補正予算につきましても、既存の歳出を見直す中で、最大限の財源捻出の努力を行うことなどにより、赤字国債を発行しないとしたところであります。
- 埋蔵金のユウム(→有無:ウム)などについてお尋ねがありました。
- 埋蔵金が何を指すのかは明らかではなく、そのユウム(→有無:ウム)についてお答えをいたしかねます。仮に、特別会計の積立金などを指すのであれば、特別会計の財務諸表などはすべて公表されておりまして、埋蔵金という表現は適切ではないと存じます。
- なお、特別会計の積立金は、これまでも財政健全化のために活用してきているところであり、今後とも、同様の方針で可能な限り活用していく所存であります。
- 障害者自立支援法の見直しについてのお尋ねもありました。
- 障害者自立支援法につきましては、現在、利用者負担の軽減や事業者の経営基盤の強化などの緊急ショチ(→措置:ソチ)を講じております。
- 今後は、障害児に対する福祉サービスのあり方など、制度全般にわたる見直しや、二十一年四月の報酬改定について検討を進めてまいります。
- 中小零細企業支援についてのお尋ねがありました。
- 年末を間近に迎え、多くの中小零細企業の経営者が資金繰りに不安を感じておられます。この不安に対して、しっかりとした財政ショチ(→措置:ソチ)のもとに、十分な金融対策を講じます。
- さらに、弱い立場にある下請事業者には、各都道府県における相談体制の拡充など、きめ細かい下請対策を講じてまいります。
- こうした政策を通じて、中小零細企業の安心を実現してまいりたく存じます。
- 国からの支出削減についてのお尋ねがありました。
- 御指摘の十二兆六千億円が、衆議院調査局の予備的調査によるものであれば、これらは、中小企業向け融資を担う旧国民生活金融公庫などに対する財政融資資金貸し付け四・五兆など、国民生活や社会経済にとって必要な政策遂行のため支出されたものだと存じております。
- 今後とも、国からの支出につきましては、真に必要な経費は適切にショチ(→措置:ソチ)しつつ、徹底して無駄を排除してまいります。
- 2008年10月2日 衆議院本会議 第170回国会 本会議 第4号(平成20年10月2日(木曜日))
- (公明党・太田昭宏議員への答弁)
- 我が国(わがくに)農業の立て直しについてのお尋ねがありました。
- 経営安定対策による担い手への支援、農地の確保と有効利用を加速する農地政策改革の具体化、耕作放棄地の解消など生産面の強化に加え、海外への農産物の輸出といった取り組みを進め、ワガコク(→我が国:わがくに)農業が若者にとっても魅力あるものになるようにしていかねばならないと考えております。
- 補給支援特別ショチ(→措置:ソチ)法の改正に関する与野党の協議についてお尋ねがありました。
- 補給支援活動は、継続がぜひとも必要であります。御提案のあった与野党協議などを行い、この活動の継続の必要性につきまして、野党の御理解をいただきたいと考えております。
- (共産党・志位和夫議員への答弁)
- まず最初に、私の歴史認識についてのお尋ねがあっておりました。
- 日本の統治原理は、戦前の天皇主権から戦後の日本国憲法による国民主権へ転換いたしております。私も十分に認識をいたしております。私がショトクヒョウメイ……所信表明(ショシンヒョウメイ)演説の冒頭で述べたのは、憲政に基づく総理大臣の任命が一世紀を超えて続いているという伝統、その集積の重みと、末端に連なる責任の重さを申し述べたかっただけであります。
- 派遣労働についてのお尋ねがあっておりました。
- 派遣労働者などの雇用の安定を確保することは重要な課題と認識をいたしております。
- このため、大企業を含め派遣先に対し、派遣契約の解除をする際には、関連企業での就業をあっせんするなどにより就業機会の確保を行うよう指導するとともに、偽装ウケアイ(→請負:うけおい)などの法違反が確認された場合でも、労働者の雇用が失われることのないよう必要な措置をとるよう指導を行っているところであります。
- 2008年10月15日 参議院予算委員会 参議院会議録情報 第170回国会 予算委員会 第4号
- (社民党・福島瑞穂議員への答弁)
- 今御質問のありました慰安婦問題につきましては、政府の基本的立場というものは現在も平成五年八月四日の河野官房長官談話をフシュウ(→踏襲:トウシュウ)するというものであります。
- 2008年10月27日 昼のぶら下がり取材 【べらんめぇ日記】麻生首相ぶらさがり取材 2008-10-27(昼のぶら下がり)‐ニコニコ動画(ββ)
- Q:まず、今朝、株価が7500円を割れて、26年ぶりに最安値を更新したとそういう状況の中で中川大臣らをお呼びになられて緊急の市場安定化策のとりまとめを指示されたというふうに聞いておりますけれども、具体的な指示の内容およびとりまとめ期限などをお聞かせ願いますでしょうか。
- A:あのー、紙は配ってあると思いますので、それで、あのー、言わせていただけりゃ、空売り規制の強化、2つ目が金融強化法に基づく政府の資本参加枠の拡大、そして3つ目が従業員持ち株等々の持ち株所得の円滑化、等々、ま、ほかにもいくつか言いましたけれども、そういったようなところを申し上げたんですけれども、まあ、あのー、今、マイナスの話でスタートされましたけれども、終値は30円のプラスだったろ? そっちも、そっちも書いて。マイナスの話ばっかり書きたがるのはおたくの習性なのかもしれませんけれども。きちんと最後、プラスに出てきているというのは、まあマエバ(前場)の話、前場(ゼンバ)の話ですけれどもね。前場でそういうことになっていますんで、後半、ちょっと午後はどうなるか。これが出てきた場合にどういうふうに出てくるか。G7の共同声明もそろそろ出るころだと思いますから、そういったものを見た上で午後、どう反応してくるか。ちょっと分かりませんけれども、これは、対策としてきちんとしたものを打っていかないと、株価というのに非常に大きな影響を、ジツブツケイザイ(実物経済→実体経済:ジッタイケイザイ)に与えてきますんで、その意味ではいろんなことを考えてやらにゃいかんと思っています。
- 2008年10月30日 記者会見(麻生内閣総理大臣記者会見)政府インターネットテレビで5分30秒ごろから
- 定額減税については給付金方式で、全所帯について実施します。規模は約2兆円。ヨウサイ(→詳細:ショウサイ)は今後ツメメテ(→詰めて:つめて)まいりますが、単純に計算すると、4人家族で約6万円になるはずです。
- 2008年11月07日 参議院本会議 参議院会議録情報 第170回国会 本会議 第8号
- (民主党・富岡由紀夫議員への答弁)
- 次に、田母神前航空幕僚長の論文についてのお尋ねがありました。
- 私は、村山談話というものは基本的にフシュウ(→踏襲:トウシュウ)をしてまいります。集団的自衛権につきましても、憲法上許されないという立場は変更しているつもりはございませんし、また、武器使用基準の変更はあるのかということについては、現在のところ考えておりません。以上の前提に立ちまして、この論文は、自衛隊が厳格な文民統制の下にあることや、航空幕僚長という立場を踏まえれば、極めて不適切であると思っております。
- 私の指示に基づき、現在、防衛省におきまして、隊員の監督、教育の在り方、部外への意見発表の際の届出など、再発防止策を検討させております。政府としては、文民統制に万全を期すよう全力を尽くしたいと存じます。
- 2008年11月12日 学習院大学での日中交流行事「日中青少年歌合戦」のあいさつ
-
- 一年のうちにこれだけハンザツ(→頻繁:ヒンパン)に両首脳が往来したのは日中関係史上過去に例がありません。
- ちょうど半年前の今日、四川省で発生した大震災、こうしたミゾウユ(→未曾有:ミゾウ)の自然災害というものを乗り越えて……
- (要旨) 平和友好条約締結30周年を迎えたことしは日中間の交流に弾みを与えるうえでも意義深い年になった。胡錦涛国家主席が2度日本に来られ、8月には福田前総理が、先月には私が中国を訪問し、12月初めには日中韓3カ国首脳会議が日本で予定されているように、1年のうちにこれだけ頻繁に両国首脳が往来したのは日中関係史上に例がなく、現在の日中関係の勢いを現していると思う。今年はまた四川大地震という未曾有の自然災害を乗り越えて、中国でオリンピック、パラリンピックが開催された。
- 2008年11月13日 参議院外交防衛委員会
- ○藤田幸久君(民主党) 麻生総理は外務大臣当時、つまりおととしの七月三日に東大阪市のじゅうがんじと読むんでしょうか、お寺を参拝をされました。ここは日本の各地で死亡した外国人捕虜がいらっしゃるところで、供養をしたというふうに理解をしておりますけれども、なぜこの重願寺を参拝されたのかということと、当初は在日八か国の大使を招いておられたというのに、突然直前にお断りをされたと、大使がそこの重願寺を一緒に参拝をすることをですね。その真意と、その大使を初め呼んでおきながら直前に断ったという、その経緯についてお答えいただきたいと思います。
- ○内閣総理大臣麻生太郎君 これは、戦後一貫して、一貫して戦争犠牲者などの慰霊を行っておりましたところで、重願寺というお寺があるんです。これに是非敬意を表するとともにということで、これは前々からいろんな友達も行っておりましたんで、そういった話で、戦争犠牲者などへの追悼の気持ちを表すため重願寺を訪問しということで、慰霊行事というのを、万国戦争犠牲者慰霊祭というものを毎年やっておられるということを聞きましたものですから、私はここに行かしていただくということを前に約束して、たまたまこのときに近くにおりましたものですから行かしていただくということになったと思っております。これがその経緯です。
- それから、各国大使の参加につきましては、これは結構、日本人だけを慰霊しているんじゃありませんので、各国大使というものの参加について、こういった行事が厳かに行われているという事実というものはいいのではないかと思いましたけれども、何人かの大使に聞いてみたところ、おれも行きたいとか、いや、ちょっと待って、そっちは関係ないという話や、いろいろ話が込み入ってきましたものですから一切やめるということにして、あのときは、いかなる形が最も適当かといろいろ考えた結果、いろいろモノミユウザン(→物見遊山:ものみユサン)みたいな話になって話ばっかり大きくなると、これは慰霊されている方々の気持ちに最も反すると思いましたんで、そういった意味では、静かにずっとこれまでも執り行ってこられたのがたまたま大臣なり私なりが私人の立場として行くという形になったとして、周りの騒ぎが大きくなるのは慰霊されている方々の最も望まないところでもあろうとも思いましたので、参加をと申し上げましたけれどもお断りをさせていただいたというのがその経緯です。
- 2008年11月13日 ぶら下がり取材 午後7時9分~ 【べらんめぇ日記】麻生首相ぶらさがり取材 2008-11-13(音声調整版)‐ニコニコ動画(ββ) 1分40秒ごろ
- Q:これからワシントンでの金融サミット出席に向けて出発しますが、今回のサミットでの成果として総理が期待するものは。
- A:ASEMの会議における個別の首脳会談、このところの首脳からの電話などなど、総合すると日本に対する期待が大きい。各国に回した総理としての特使みたいな人への対応もほぼ各国、インドネシア等々みな同じ。従って今回は日本が97年、98年、アジアの金融危機といわれたあの時に、IMF等々が対応できなかった、もしくはしなかった。その時は日本は対応した。そのことを知っている人たちの間で特に期待が大きい。その期待に応えるためにも、これまで我々がやった経験というものをきちんと提示してみんなのお役に立てるようにしたい。もって金融クライシス……何だ? 金融危機というものからの一日も早い脱却をしないと、次の経済、実物経済(ジツブツケイザイ→実体経済:ジッタイケイザイ)への影響というものがさらに大きくなるのを避けたい。そのつもりでやりたいと思っています。
- 2008年11月19日 ぶら下がり取材 午前9時25分~
- Q:昨日、元厚生次官と元厚生次官の妻が刺された事件の受け止めと、政府の対応を。
- A:何となく2つの話が結ばっているのか、結ばれていないのか、偶然なのか、よくわかりませんけど、いずれにしても痛ましい事件。片っ方の方と詳しい話しか断片的に聞いていませんけれども、亡くなられた方のご冥福、カイガ(→怪我:ケガ)をされておられる奥さんの回復、心からお祈りを申し上げるところです。受け止め方につきましては、これが単なる傷害殺人事件なのか、そうではないのか、それ以上のことは分からない段階でコメントはできません。
- 2008年12月11日 参議院財政金融委員会
- (共産党大門実紀史議員への答弁)
- ただその時期というものは、少なくとも先ほど答弁申し上げましたように、景気が今テイマイしている、低迷(ていめい)している、そういった……低迷していると言ったじゃあないですか……ねぇ……こういうのしか、こういうのしかヤジが出なくなるとは悲しいですなあ、ハハハハハハ、もうちょっ、もうちょっとレベルの高けぇヤジが聞けねえかなあと時々思わないでもないんですが、まあ、これが私の旬の話ですけれども。
- 2009年3月14日 番記者宛手紙での誤字
- 御心ずかい(→御心づかい)
- ※これについては間違いではないという説もあるが、間違いである。下記参照。
- 2009年6月20日 都議選立候補予定者の激励にて
- 午後、東京都文京区の都議選立候補予定者の事務所を訪れて激励した。首相はあいさつで「惜敗を期して」と言い間違え、同席した深谷隆司元通産相から、すかさず「必勝です」と指摘される一幕があった。
- 2009年8月9日 長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典
- 長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に臨み、原子爆弾の犠牲となられた方々の御霊(みたま)に対し、謹んで哀悼の意を捧(ささげ)げます。今なお、被爆の後遺症に苦しんでおられる方々に、心よりお見舞いを申し上げます。
- 64年前、長崎の方々は、この地に投下された原子爆弾によって、筆舌に尽くしがたい苦しみを経験されました。7万ともいわれる尊い生命が、一瞬にして失われました。一命をとりとめた方も、いやすことのできないショウセキ(→傷跡:きずあと)を残すこととなられました。今、日本の平和と繁栄を振り返る時に、尊い犠牲があったことを決して忘れることはできません。
未確認のもの
以下の例は、ネットなどで取り上げられてはいるものの、出典が未確認のものである。出典をご存じの方はご教示ください。
- 思惑を「シワク」……日常語としては「オモワク」である。「シワク」と読んだ場合は仏教語となる。広辞苑によれば、「世間の事物に対しておこす貪・瞋・痴などの迷い。三道のうち修道において断ぜられる。思想的な迷いである見惑に対し、より深い情的な迷いで、対治が困難」。
- 順風満帆を「ジュンプウパンポ」
- 破綻を「ハジョウ」
- 焦眉を「シュウビ」
- 完遂を「カンツイ」
- 参画を「サンガ」
誤読と報道されたが論争が起こった例
「心ずかい」誤記
2009年3月14日、マスコミ各媒体は麻生首相が「心ずかい」と書いたことを誤字として報じた。たとえば、日刊スポーツでは、
麻生太郎首相が、「言葉の問題」で久しぶりにミソをつけた。13日、バレンタインデーのお返しとして女性番記者へ渡した直筆の手紙に、「御心ずかい」という一文があった。「ずかい」ではなく「づか(遣)い」が正解。日ごろ、麻生氏の漢字間違いをチェックしているだけに、すぐに「間違いだ」「心遣いと漢字で書けなかったのか」と、話題になった。麻生氏は贈呈の際、「男性は関係ない。女性!」「ジャーン!」とご機嫌で、ホワイトデーにちなんで白いICレコーダーも添えられた。
と報じている。これに対して、ネットの一部では、「心ずかい」は昔の広辞苑にも載っており、麻生首相が教育を受けた時代には「こころずかい」が正しかったとしてマスコミ批判を繰り広げた[1]。ただし、この批判は事実誤認に基づくものであり、やっぱり麻生首相は誤記していた。たとえば、ネットでは以下のような記載があるが、実は誤りがある。
時代順に書くと 紫式部~戦前は「こころづかひ」 ↓ 敗戦後昭和21年~GHQの指導により「こころずかい」 ↓ これが根付かず「こころずかい」「こころづかい」が混用されていたので 昭和61年より「「こころづかい」 戦後しばらくは「こころずかい」って指導された広辞苑 --------------------------- 昭和21年内閣告示 昭和30年 第1版 こころずかい 昭和44年 第2版 こころずかい 昭和51年 第2版 補訂版 こころず(づ)かい 昭和58年 第3版 こころず(づ)かい --------------------------- 昭和61年内閣告示 平成 3年 第4版 こころづかい 平成10年 第5版 こころづかい 平成20年 第6版 こころづかい
実際には以下のとおりである。もともと、日本語の伝統的には「こころ+つかふ(遣う)」が連濁して生まれた言葉であるから、本来的には「こころづかひ」が伝統的表記ということになる。
昭和二十一年十一月十六日 内閣総理大臣 吉田茂の署名のある内閣告示第三十三号「現代かなづかい」では以下のように記載されている(例は略した)。[2]
第三 [ぢ]、[づ]は[じ]、[ず]と書く。
一、[ぢ]を[じ]と書くもの
二、[づ]を[ず]と書くもの
たゞし
(1)二語の連合によって生じた[ぢ]、[づ]は[ぢ]、[づ]と書く。
(2)同音の連呼によって生じた[ぢ]、[づ]は、[ぢ]、[づ]と書く。
したがって、昭和二十一年の段階では、確かに「ぢしん(地震)」は「じしん」となったが、「二語の連合によって生じたぢ、づ」はそのままなのであるから、「はなぢ(鼻血)」「こころづかい(心遣い)」はぢ・づが正しいとされていた。そもそも、この告示のタイトルそのものに「かなずかい」ではなく「かなづかい」と明記されており、「戦後、「こころずかい」が指導された」という事実はない(上記コピペにて内閣告示の内容が明記されていないところに意図的な誘導が感じられる)。したがって、麻生首相は祖父・吉田茂の内閣告示にも反した表記を行なっていたということになる。
昭和六十一年七月一日、内閣総理大臣 中曽根康弘の署名で出された内閣告示第一号「現代仮名遣い」では「この仮名遣いによる表記の仕方は、従来の「現代かなづかい」(昭和二一年内閣告示第三三号)による表記と実際上ほとんど相違がない」とも書かれている。関連する部分を引用するが、「こころづかい」については(2)の「二語の連合によって生じた「ぢ」「づ」」に該当し、従前と変更のない部分に属する(例は省略)。[3]
5 次のような語は、「ぢ」「づ」を用いて書く。
(1) 同音の連呼によって生じた「ぢ」「づ」
〔注意〕 「いちじく」「いちじるしい」は、この例にあたらない。
(2) 二語の連合によって生じた「ぢ」「づ」
なお、次のような語については、現代語の意識では一般に二語に分解しにくいもの等として、それぞれ「じ」「ず」を用いて書くことを本則とし、「せかいぢゅう」「いなづま」のように「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるものとする。
したがって、ネットでの通説のように「昭和二十一年から昭和六十一年までは「こころずかい」が正しかった」という事実は存在しない(私も「かなづかい」「こころづかい」で教わっている)。
では、なぜ広辞苑は当初「こころずかい」と表記し、後に「こころず(づ)かい」、「こころづかい」としたのか。これについては【コトバ】麻生太郎ノ手紙(「心ずかい」ニ就キテ)|帝國ニュウス電信に詳しいが、広辞苑は見出し語を「表音的」に立てることで検索の便を図っていた辞書であった。つまり、実用的に、検索しやすいように発音順に「ココロズカイ」とすることで辞書を引きやすくしたのである(テフテフ、カフモリが仮に正しい表記だとしても、チョウチョ、コウモリで引いて、表記を確かめるという使い方となる)。したがって、「広辞苑にココロズカイという見出し語が立てられている」からといって、それは「当時、ココロズカイという表記が正しいものであった」という意味にはならないのである。その後、広辞苑も「こころづかい」に変更しているが、これは戦後表記が定着したことを反映していると思われる。
この問題については、戦後の仮名遣い改革という歴史も絡んでいるが、一方で「辞書信仰」すなわち辞書に書かれたものを絶対的に正しいと考えがちな心理も問題であるといえよう。[4]
「いやさかえ」問題
2009年4月10日、産経新聞を含むマスコミ各社が「麻生首相が天皇皇后両陛下の前で、「弥栄」を「いやさか」ではなく「いやさかえ」と誤って読んだ」と報じた。
麻生太郎首相は、10日午前に皇居・宮殿で行われた天皇、皇后両陛下のご結婚50年を祝う祝賀行事で述べた祝辞で、「弥栄(いやさか)」(いよいよ栄えること)と言うべき部分を、「いやさかえ」と言い間違えた。
麻生首相は、衆参両院議長や最高裁長官、各閣僚らとともに宮殿「松の間」で行われた祝賀行事に出席。首相は出席者を代表し、両陛下の前で祝辞を述べたが、「両陛下の益々のご健勝と皇室のいやさかえを心から祈念し…」と発言した。文脈上、ここは「いやさか」というべきだが、「いやさかえ」と言い間違えた。(産経新聞2009年4月10日)
これについては、通例としては「いやさか」の用例が多いものの、「いやさかえ」という読みの例も少数ながら存在するため、誤報といえる。
参照
- ↑ たとえば私気づいちゃったんですけど/ 同人用語の基礎知識など。なお、「気づいちゃった」も「気+付く」だから「づ」であるべきで、「気ずいちゃった」では誤りである。
- ↑ 現代かなづかい
- ↑ 「現代仮名遣い」に関する内閣告示及び内閣訓令について:文部科学省
- ↑ 辞書の権威や規範について、批判的に論じた書籍として、安田敏朗『辞書の政治学 ことばの規範とはなにか』がある。ぜひ一読されたい。